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1986年マスターズ。人生を変えられるなら‥‥ 中嶋常幸の「高潔な悔い」

 2017/07/27 三田村昌鳳の「荒ぶる」
この記事は約 6 分で読めます。

月刊ゴルフ用品界2013年6月号掲載
なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。

ちょっと古い話だけれど、4月のマスターズ直前に中嶋常幸と一緒に食事をしながらの取材があった。そのときの話の中心は、1986年マスターズのことだった。あのジャック・ニクラスが最終日のバック9で30という驚異的な スコアで逆転優勝を遂げた試合である。

3日目まで豪州のグレッグ・ノーマンが首位。それにセベ・バレステロス、中嶋常幸がひしめき合っていた。初日、中嶋は首位のクラッツアートと2が打差の5位。2日目は2打差の3位。そして3日目は、ノーマンが首位に立ち、やはり2打差の6位タイで最終日を迎えたのである。

「最終日に首位と2打差だから、十分チャンスがあったわけです」

では、なぜ勝てなかったのか、という疑問をストレートにぶつけてみた。もちろん、タラレバである。でも、ひょっとしたら勝てたというのは、勝てなかった敗因がある。それを自己分析して貰い、真相を聞いてみたかったのだ。

「問題は、やはりサンデーバックナインに尽きます。ひと言でいうなら、あと一歩前へ、という胆力がなかったのだと思う」

前半の9ホールを終えて、中嶋は1オーバーの37で、サンデーバックナインに突入した。それはワトソンと同スコア。ニクラス、ノーマンとは、ここで2打差だった。だから残り9ホールでの2打差は、あってないようなもの。勝機は、十分あった。にもかかわらず勝てなかった理由を中嶋は、

「あと一歩、その一歩の足が前に出せなかったんですよ。それは体力‥‥ うーん、単に肉体的な体力だけでなく、一歩を踏み込めるだけの勇気であり、気力であり、総合的にいえば体力なのだと思うんですよ。それはメジャーで勝てるか勝てないかの岐路になる。

うーん。よく、心技体って言うでしょう。あれってみんな三角形のイメージで、心・技・体を考えるけれど、違うんだと思う。心技体は、一直線上にある。そのラインのレベルの高さが問われる。そのレベルが、 メジャーで勝てるレベルというのがあるとすれば、僕は、技術も(世界のメジャーで勝てる選手に比べると)劣っている。体力も劣っている。

そうなるとメンタル面でカバーするしかなくなるわけです。技術体力がレベル以下だから、そのぶん精神力をフル回転、いや120とか 140パーセントとか使わないといけない。

それが4日間持たない。特にサンデーバックナインでは、使い果たしたっていう感じで、その意味でも、あと一歩が踏み込めなかった。特にメジャー、マスターズでは、まず選手に求めてくるものは技術と感性の底力が高く、それが(底辺に)あって、この週に(感性が)煌めいた選手が勝つわけです。

最後はね、理屈の世界を越えるんです。だから自分を隠せない、繕えない。いわば等身大の鏡を見せられるし、そういう中でプレーしているようなものだから‥‥」

この中嶋のコメントは、なるほどと思わせるものだった。日本選手が、どうしても後半、特に優勝争いをしていて、なんとなく腰砕け状態になってズルズルと崩れていく有様が、どういう理由かということを教えてくれる。

実るほど、頭を垂れる~

もうひとつ、中嶋は、実に興味深いことを教えてくれた。

「例えばね、オーガスタの、あの13番ホール、パー5で、僕はあの時、第1打をスプーンで打ったんですよ。しかも、残り距離は6番アイアンの距離。いまよりもティグランドが25ヤード手前だけど、当時は、通常ならドライバーで残り4番アイアンがアベレージ距離なんです。つまり、そこまでパンプアップ(筋肉に血液が異常に注入され風船のように膨れ上がる状態)していたんですよ。

でも13番でイーグルどころかバーディも獲れないでパーに終わってしまった‥‥。ここが大きな課題だったと思う」

どういう課題だったのだろうか。それは、中嶋が、6番アイアンでフルスイングしてしまったことに起因しているという。

「解りやすく言えば、残り200ヤードを選手は、8番アイアンだと思ったら、届くんです。それができる。でもね、そこで6番アイアンでしっかりと距離コントロールできる選手が、生き残れる。つまりマン振りして届く距離を、番手を変えてコントロールしてその距離を打つ。乗った、バーディ獲っただけでは勝てないし、72ホール続かないわけですよ」

事実、中嶋は13番で6番アイアンをマン振りし、パーで終えたけれど、それ以降14~18番ホールのセカンドショットの縦距離が合わなくなったのだという。

世界と日本の差‥‥ そういわれて久しいが、中嶋の話を聞いていると、これは単純に技術の優劣だけではなく、むしろゴルフ脳や智慧(ちえ)という理性的なプレーをさせてくれるだけのクレバーさなのだろうと思った。

「あのとき‥‥ 最高のゴルフができたのは事実。でも悲しいかな、蓄積していく智慧(ちえ)が甘かった。もし‥‥ ゴルフ人生を変えられるなら、初めてマスターズに出場した1978年から、米ツアーに自分の身を置きたかったね」

‥‥こういう話を聞いて、ふと現実に戻って見回すと、一体、いまの日本人選手は、どこまでこういう領域に行っている選手がいるのだろうと思ってしまう。いや、到達していなくても、そこまで目指している選手がいるのだろうか。

この間「プロゴルファーも、背番号をつけてくれないと、誰が誰だか解らないよね」という話を聞いた。画一的なスイング、同じようなゴルフウエア。それも、同じような体型‥‥ 確かに解らない。

個性を感じさせるものがない。正直な話、選手たちはみんな自分が全国区の知名度があると思い込んでいる。何様なの?という言動をとる選手もかなりいる。でも、一般的な彼らの評価を総合すると、せいぜいごく一部の地方区の知名度だったりするわけだ。

上から目線の発言も、AONのような強烈なキャラと力量があれば少しは納得するけれど、そうではない。

例えば、長嶋茂雄さん。僕は数回しか面識がないのだけれど、あるレストランで僕が奥のほうで食事をしていたときに、偶然、入り口に現れた。あ、長嶋さんだ、と僕が気がついて、席をたって挨拶に行こうとする束の間に、長嶋さんは、僕の席までササッとやってきて、挨拶して頂いた。

聞けば、石原裕次郎さんも腰が低かったという。そういうことが渡哲也さんや舘ひろしさんまで受け継がれているらしい。

僕が思うに、志しが低ければ低いほど中途半端になり、志が高いほど、人間的にも精神的にも充実してくるのだろう。

日本の男子ツアーがつまらないのは、目指そうとしているハードルの低さが原因だろう。

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