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東電『ゴルフ場イジメ』の実態

 2017/06/26 小川朗の「現場を照らす」 
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58 ロハスマルシェ

月刊ゴルフ用品界2017年6月号掲載
なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。


東日本大震災直前の平成23年(2011年)2月。福島、茨城、栃木、群馬の北関東エリア4県には401のゴルフ場があった。それからわずか6年で、実に46のゴルフ場が閉鎖に追い込まれた(数字は5月8日現在の暫定=日本ゴルフ場経営者協会調べ)。

ゴルフ場を苦しめている原因として、多くの経営者たちが指摘するのは福島第一原発の事故と風評被害。その現場における東京電力の対応こそ、被害者たちが燃え上がらせた怒りの炎に油を注いでいる。

セシウムは誰のものでもない!?

「無主物」。本誌の読者であればこの言葉を聞いただけで、ある裁判を思い出し不快な気分になった方も多いだろう。

言葉自体に罪はない。広辞苑で「無主物」を紐解くと、法律用語として「何人の所有にも属さない物」とある。それが独り歩きを始めたのは、東日本大震災が起きた2011年の暮れのことだ。詳細は御存知の方も多いと思うが、要約すればこうなる。

福島第一原発から西方45㎞にある「サンフィールド二本松ゴルフ倶楽部岩代コース」は地震により大きなダメージを受けた。これを修復するため、冬季休業からのオープンが約4か月遅れた。ようやくオープンできるようになった頃、今度は原発から撒き散らされた放射性物質(セシウム)の汚染により急ブレーキがかけられた。

山根勉代表取締役が、当時を振り返ってこう語る。

「その時、セシウム134やら137が降った影響で、8000ベクレル(放射性セシウムは500ベクレルが基準値=参考・福島県庁HP)以上もあった。ゴルフ場の従業員の仕事は地べたを触る仕事です。それが出来ない(させられない)以上、辞めていただくしかなかった。営業できない状態なんで(東電に)補償を求めたんですが『震災後1日も営業出来ていないんだから、営業補償(の算出)ができない』と言い出したんです」。

営業ができなくても、借地代や税金は払わねばならない。当然、経営はピンチに陥った。やむを得ず8月、東電に除染と損害賠償を求める訴訟を起こした。そこで登場したのが東電のエリート弁護団。東電がウランを購入し、核分裂させて生成されたのがセシウムであるのに「無主物であったと考えるのが実態に即している」と言い出したのだ。

この非常識な主張こそ通らなかったものの、東京地裁はゴルフ場側が求めた除染実施の仮処分申請と休業補償の請求に難癖を付けて却下した。東電側に万々歳の結果となったのは明らかだ。

裁判官にも出世の論理?

一体なぜこんな判決が出たのか。前出の山根氏の弁。

「結局、もしウチが勝ったら続々と訴訟が起きることになる。それを東電も避けたかったから、4大法律事務所の大物弁護士を揃えて勝負してきた。後で聞きましたけど、東電は裁判費用だけで1億円をかけたと聞きました。結局金ですよ。高裁まで行きましたけど、裁判官からは『おたくはもう勝てないから、和解した方がいい』としきりに勧められました。裁判官も判決文を書きたくないんですよ。(判例として)残りますから。それでも(和解を拒否して)判決まで行きました。結果は地裁とあんまり変わりませんでしたけど」。

もしこの裁判で東電が敗訴すれば、同様の訴訟が各地で続々と起きる。これは山根氏も指摘しているが、そうなれば賠償額が膨れ上がる。東電だけで払うことは、不可能になる。結果どうなるか。国が肩代わりすることになる。それを阻止する流れに沿った判決を出したとみられても仕方がないだろう。

当然のことながら、この判決が福島を中心とするゴルフ場に与えた衝撃は大きかった。もし公判を維持できてもこんな判決が出たのではたまったものではない。非常識な主張と対応を繰り返す東電のみならず、裁判所までがまともではないことを証明しているのが「無主物」という言葉なのだ。

実際、東電がゴルフ場にしてきた仕打ちは想像を絶する。原発から30㎞以内で唯一営業を続ける「鹿島カントリー倶楽部」も除染工事と汚染残土の保管費用を求めて東電と係争中。福躍好勝支配人は裁判のため定期的に上京しているが、最も憤っているのは東電の心無い対応と、地域住民に対して貢献したゴルフ場の行動に対する無関心さだという。

「うちでは飯館村のてんでんばらばらになった人たちを2回、無料でプレーに招待しています。でもそういうことに東電は無関心。ちょっと国にお願いすればバンバンお金が出てきて、それを配ればいいのか。その金は回り回って我々の税金です。何より心がない所が、東電の最悪なところです」(福躍支配人)。

賠償金を打ち切った驚きの理由とは…

怨嗟の声は北関東地域にも根強い。東北道・矢板ICからほど近い「ファイブエイトゴルフクラブ」(以下58GC)も、東電の心無い対応によってトドメを刺されたゴルフ場のひとつだ。

福島第一原発事故の風評被害により入場者が減り、周辺コースとの低価格競争が激しさを増した。経営環境が悪化する中、東電に賠償金を打ち切られ、窮地に追い込まれたのだ。

打ち切りの理由がまた驚きだ。地震の影響でコースに亀裂が走り、コースはしばらく営業を再開できなかった。その一方で、周辺地域が断水したため、井戸水を地域住民に提供。浴場も開放した。

少し状態が落ち着くと、沈んだ心を紛らわすため、ゴルフのプレーをしたいという要望も増え始める。ならばコースは無料で開放する。その代わりに、チャリティー募金をして災害支援に役立てよう、という発想が生まれた。

ゴルファーも賛同し、コースは連日満員。しかしプレーは無料でもゴルフ場利用税だけは払わねばならない。そのデータに東電は目を付けた。「入場者が増えている」と指摘し、これを理由に賠償金を打ち切ったのだ。

58GCの経営はこの時を境に大きく揺らぎ。18ホールのゴルフ場を閉鎖。ソーラー発電所へと転用されることが決まった。

同コースはゴルフ場としては存続できなかったものの、クラブハウスを自然菜園レストラン、ロハスキッチンとして再スタート。休日を利用して開催されるマルシエ(青空市場)も3回目で4000人の来場者が詰めかけるほど軌道に乗りつつあるが、ここまで来るには大変な苦労があったはずだ。

58 ロハスマルシェ

58ロハスマルシェの様子

こうした案件に対して、いったい東電本体はどう考えているのか。直接取材を申し込んだが「個別の訴訟内容や案件についてはお答えできないことになっています」(東京電力ホールディングス広報室・大倉典雄氏)の一点張りだった。

福島のゴルフ場には、東電を相手に粘り強く訴訟を維持し、今年の暮れにかけて大詰めを迎えるゴルフ場もいくつかある。係争中のゴルフ場で総支配人を務めるA氏は「あきらめませんよ。地裁でダメでも、最高裁までいくつもりで頑張ります」と意気盛んだった。大企業・東電と大弁護団を向こうに回して戦うゴルフ場。しかしその戦いはあまりにも厳しい――。

小川朗の目

スポーツ紙で文化部長を務めた後、法務広報室で専門委員を務めていた時期が2年2か月ばかりある。東京地裁や契約先の法律事務所が仕事場だった。

当時勤めていた会社が契約していた弁護士事務所も、4大法律事務所の一角を担っていた。民事のスペシャリストからヤメ検という検察OBまで。どんな案件にも最強の布陣が組める。法廷での公判だけでなく、小部屋での公判前準備手続きなどでも、膨大な資料の中から有利な判例を集め、自分のペースに持ち込めた。巨大事務所の強みを、何度も実感させられた。

同時に今回の取材で生々しく思い出した裁判官の言葉がある。「和解で落としましょう」。文中でも出てきた「裁判官は判決を書きたくない」という言葉に、筆者も同感だ。

4大事務所のひとつをバックにしている東京電力の担当者の心境も透けて見える。負けっこないと思っているのだ。実際「無主物」などというとんでもない主張まで通そうとするほど。苦戦は承知しながら。なおも戦う原告たちにはぜひがんばってもらいたい。こんな判決ばかりでは、とてもじゃないがやりきれない。

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ライター紹介 ライター一覧

小川 朗

小川 朗

1960年山梨県甲府市生まれ。甲府一高→日大芸術卒。82年東スポ入社。「世界一速いゴルフ速報」の海外特派員として男女のメジャー大会など通算300試合以上を取材。同社で運動部長、文化部長、広告局長を歴任後今年9月に退社。フリージャーナリストとして本誌を始め、週刊誌、ニュースサイトなど各方面に執筆中。㈱清流舎代表取締役COO。東京運動記者クラブ会友。日本ゴルフジャーナリスト協会副会長。

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