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「甘やかし」という「毒」を与えるジュニア教育

 2017/07/12 小川朗の「現場を照らす」 
この記事は約 6 分で読めます。

高校生の出場試合数は青天井

もう20年前になるが、女子プロのマネジメントをしているベテランプロからこんな言葉を聞いた。「最近のプロゴルファーは道具を大切にしなくなった。何でも与えられているから。私たちの頃は何もなかったし、練習時間もろくになかった」。

確かにすべてが足りない時代だった。だが時間がないから、集中して練習することを覚えた。道具がないから、大切にする。食べ物がないから、我慢が身に付く。

そんな修行時代を送ったベテランには、恵まれすぎたジュニアゴルファーの現状が危うく映る。「与えている甘いものは毒を与えているようなものではないか」と危惧していたワケだ。

今の高校生ゴルファーには定時制ではなく通信制の方がブームだ。この連載の第6回、JGA(日本ゴルフ協会)を取材した際に、中学生トップアマの実態について書いた。

義務教育ながら月に4日しか登校していない。試合に出ているからだ。そうしたトップアマが次の段階で選択するのが高校の通信制だ。

複数のプロを育てた、ある指導者に話を聞くと、高校になるとそれがさらに顕著になるという。

「中学生で月4日? 高校になれば年5日なんてのは、ザラにいます。高校側が勧誘する際に『籍だけでいい。あとはバンバン試合に出てくれ』ですから」。

特に女子プロの場合、18歳からしかプロテストを受験できない。高校生アマの立場で3年間、プロの試合に出るのが賢い選択と考える選手も少なくないのだ。

しかし義務教育の段階からひたすら家族単位で家と練習場とゴルフ場を動き回っていて大丈夫なのか。そんなはずはない。本来学ぶべき集団の中でのルールやマナー、英語などの語学の基本も身に付かない。

女子プロ協会の思惑

なぜこんなことになってしまったのか。女子プロゴルフツアーの関係者は、こんな解説をしてくれた。

「昔は制限があったんです。でも宮里藍ちゃんが高校生で優勝したあたりから、ジュニア人気が上がり、スポンサーからも出場させたいという要望が出た。そこで女子プロ協会側が、その制限を取っ払ってしまった」。

その結果、どんなことが起こったか。「試合に出られれば、1000万、2000万の賞金が得られる。これに親が気づいて、子供たちにゴルフをさせ始めた。手っ取り早く稼ぐためには、中学時代に毎日1000発、2000発と打てればある程度のレベルまでは行けてしまう。

それで学業を横に置いて、猛練習して女子プロになる、というレールが出来上がってしまった」。

スポンサーにいい顔をしたい日本女子プロゴルフ協会と、1日でも早く娘に稼がせたいジュニアゴルファーの親たちの思惑が一致して、この「早熟現象」が横行しているわけだ。

実体はどうなのか。11月の初め、静岡で行われていた高校ゴルフの試合に出かけてみた。現場に来てみると、そうした問題が形を変えて顕在化していた。全日制と定時制の緊張関係だ。

全国高校ゴルフ選手権を全日制と定時制に分離する動きが出ているという。カリキュラムの違う全日制と通信制の生徒が同じ条件で競い合うのは平等でない、という考え方からだ。

通信制の場合、登校は年に数回というのが基本で、推薦さえあればいくらでもプロの試合に出場できる。平日の格安料金でラウンドができるメリットもある。

一方、高ゴ連に属している選手には年間出場試合数(日数に土日・祝日はカウントしない)が「16日を超えてはならない」という規定がある。

これは練習ラウンド1日、大会初日の金曜日の2日を欠席できれば、残りの決勝ラウンドは土日に行われるため、都合8試合は出場できるという計算からだ。しかしそれ以上休んでしまうと出場停止の罰則がある。

結果、全日制の選手たちは通信制の選手にくらべると、練習量は圧倒的に少ない。当然実力にも開きが出るため分離させた方がいい、との声が強まってきたわけだ。

都立高校にゴルフ部ゼロという実態

ゴルフ競技は、高体連に属していない。アーチェリーやウェイトリフティングといった、さほど競技人口の多くない競技でも高体連に属しているのにもかかわらずだ。

そもそも、都立でゴルフ部を置いている高校は皆無なのだ。当然のことながら高ゴ連への加盟数は、私立の43高に対し都立はゼロということになる。

その理由として前出の関係者は「以前聞いた話だけど」と前置きし「都立の校長会で、ゴルフ部を作ることはまかりならん、となったと聞いている。ゴルフに対する偏見もあったようだ」と説明した。

今回、東京都公立高等学校長協会にも問い合わせてみたが、事務局長の答えは「そもそもそんな質問に答えなければならない意味が分からない」と取りつく島もなかった。

それにしても、都立高に進んだことでゴルフ部がないのだから生徒が他のスポーツに流れてしまうことは避けられない。

個人で高ゴ連の大会に出る道もあるが、そもそも都心にはゴルフ場も練習場も少なく、料金も高額。都立高生がゴルフを始めるためのハードルは、相当高い。

しかも高ゴ連の試合自体には、いくつかの問題が指摘されている。取手国際で行われる試合の練習ラウンドを週末にしようと申し込んだところ、休日のビジター料金を提示された。

選手2人とコーチ1人で10万円かかるとあって結局断念したという。ちなみにここで行われた東京都高等学校ゴルフ選手権に出場した150選手の内、都立高の生徒はゼロだった。

また、名門程ヶ谷ゴルフ倶楽部でも試合が行われているが、このコースは17歳未満のラウンドが禁止されている。個別の練習ラウンドが不可能なため大会側では3月に練習ラウンドの機会を設けているが、新入生は入学前のため参加できない。ここにも不公平が生じている。

学業や集団生活の経験を犠牲にして、ゴルフにのめり込む通信制組。多くのハードルの前に、練習の機会を奪われる全日制組。ゴルフ部すらない都立高生。あまにも極端に分かれるその立場を修正し、ゴルフへの道を開くことができるのは、JGA(日本ゴルフ協会)しかないのだが。

■小川朗の目

▼スポーツ紙の文化部長時代に経験した自殺報道をキッカケに、記者も所属している「自殺予防学会」の研究で気になるデータがある。長年にわたった自殺者3万人の大台は切ったものの、若年層の自殺は逆に増えている

▼自殺予防を研究し、活動する「絆ネットワーク」という市民団体があった。そこでともに活動した仲間が今「社会権力研究」にのめりこんでいる。その友人が、こんなことを言っていた

▼「社会のミニマムの単位は家族でしょ?親が子供を思い通りにしようとすると、それが権力の行使になるんです。摂食障害や不登校の原因は親の過干渉が原因。親が先回りしたり、自分の思い通りにしようとすると、子供は自分で意思決定できないままに成長する」

▼今は、本文の冒頭に書いたベテランのプロゴルファー世代が定時制に通いながら修行した時代ではない。生きがいとなる女性の働く権利は担保されるべきで、子育ては夫婦で助け合うのが当たり前になった。そんな時代に、子供がすべての人々に思いやりが持てる大人に育つためにどうしたらいいか。ゴルフはそのツールになれるハズなのだ。

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ライター紹介 ライター一覧

小川 朗

小川 朗

1960年山梨県甲府市生まれ。甲府一高→日大芸術卒。82年東スポ入社。「世界一速いゴルフ速報」の海外特派員として男女のメジャー大会など通算300試合以上を取材。同社で運動部長、文化部長、広告局長を歴任後今年9月に退社。フリージャーナリストとして本誌を始め、週刊誌、ニュースサイトなど各方面に執筆中。㈱清流舎代表取締役COO。東京運動記者クラブ会友。日本ゴルフジャーナリスト協会副会長。

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