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タイガー・ウッズと宮里藍

 2017/06/02 社長の記事
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タイガー・ウッズの変わり果てた顔写真が「流出」し、その翌日、警官に手錠を掛けられた映像も「配信」された。本日現在でわかっているのは、飲酒運転などではなく、手術後に処方された薬の飲み合わせによって朦朧とし、路上にクルマを停めて寝ていたらしい、ということだ。

未明に不審なクルマを見つけたら、警官とすれば職質をする。運が悪ければ大事故に発展するだけに、見過ごすことはできないだろう。

しかし、朦朧としたまま拘束され、フラッシュを浴びせられたあのカオを、白線の上をよろけながら歩くあの背中を、世界中に流す必要はあるのだろうか。背景には何かの意図があったのかもしれない、と勘繰りたくもなる。

日本のメディアも大きく取り上げた。タイガー全盛期の精悍な顔と、41歳の寝起きみたいな顔を並べて「墜ちたレジェンド」と連日報じた。テレビコメンテーターの一人は「これも有名税ですね」と片付けたが、それでいいはずはない。

タイガーがある種の「公人」としても、これだけの辱めを受けるほどの「悪さ」をしたとは到底思えず、一罰百戒の効果を狙ったとしても、やり過ぎだろう。

「覚悟はいいかい?」

1996年8月、ウッズはプロ転向を発表し、直後に凄まじい争奪戦がはじまった。これを制したナイキは契約後、米大手紙にこんな広告を掲載している。ウッズのアマ時代の戦歴を淡々と連ねたものだった。

=ぼくは12歳で60台を出し、14歳で全米ジュニアに勝ち、18歳で全米アマに勝って、19歳でマスターズに出場した。初の全米アマ3連覇も達成している。だけど、この国にはぼくがプレーできないゴルフ場があるんだ。理由は、ぼくの肌の色。覚悟はいいかい(Are You Ready?)=

ナイキは当時、バスケットボールのマイケル・ジョーダンが引退期を迎えており、新たな看板選手を探していた。また、米国では有色人種の人口比率が年々高まり、市場規模も拡大していた。そこに現われたタイガー・ウッズは、白人スポーツ最後の砦とされたゴルフ市場に風穴を開けるべく、白人社会に覚悟を迫った。

この広告はナイキの総帥フィル・ナイトの肝煎りであり、契約金は当時、5年間で4000万ドル(約44億円・推定)と破格だった。

その期待に、ウッズは想像を超える衝撃をもって応えている。

翌年、メジャー初戦の「マスターズ」を記録づくめ(最年少=21歳3ヶ月、最少ストローク=18アンダー、2位と最多差=12打差)で圧勝し、むろん、黒人初の快挙でもある。

場所は南部ジョージア州オーガスタ。周知のように、南部は奴隷制度が最期まで残った場所で、今も風土として「白人主義」が幅を効かせている。「マスターズ」で圧勝したウッズには、多くの礼賛の声と、それを上回る「カミソリ入りの手紙」が届けられ、彼の身辺には屈強なガードマンが付くようになった。

以後、帝王ジャック・ニクラウスのメジャー18勝を抜き去るべく、快調に勝ち星を重ねたウッズのメジャー制覇は、2008年の「全米オープン」(メジャー14勝目)を最後に途絶えている。その翌年、不倫スキャンダルが発覚し、その後遺症だろうか、加速度的に輝きを失っていく。

ウッズは謝罪会見で、自らを「セックス依存症」と公表したが、会見の出席者は親しい記者や身内で固められ、アメリカン・ジャーナリズムの厳しい質問を浴びることはなかった。

痛恨の「謝罪会見」

ふと、思う。

あの謝罪会見を、逃げることなくその身をさらし、過酷な質問に耐えていたら、その後のタイガーはこのようになっていただろうか? 会見終了後、母親と抱き合った姿はタイガーではなく、等身大のエルドリック・ウッズであった。奇跡的なパットを次々と沈め、雄叫びを挙げるタイガーの威圧感は消えてしまい、多くのライバルは同情したとしても、同時に「タイガー伝説」の終焉に安堵したはずだ。謝罪会見で逃げてしまったことが、その後の低迷につながってしまい、ウッズはそのことを誰よりも後悔しているのではないだろうか。

今回の件で逮捕・拘束されたウッズは、「もう一度、あの頃(全盛期)のプレーをしたい」と話したそうだが、本当にやり直したいのは、あの謝罪会見ではなかろうか。厳しい質問を正面から受け止めて、謝罪する。それができなかったことで、虎は自ら牙を抜いてしまったと思えてならない。

蛇足をいえば、白人社会に「覚悟」を迫った広告が、今も何らかの怨念として残っているような気がしてならない。

一流プロの引き際

先日、宮里藍の引退記者会見が都内のホテルで行われた。壇上に一人、47分間を費やした会見は清々しいものだった。小さな身体で一度は世界の頂点に立ち、

「これ以上、モチベーションを維持することができなくなった」

と話している。過酷な練習や、これを続ける精神力は、常人の及ぶところではなかったはずだ。会見の最後、「支えてくれたすべてのひとに感謝したい」と口にした瞬間、涙目になったが、すべてをやり尽くした万感が報道陣に伝わってきた。

「引き際」ということについて、宮里はウッズの今をどのように感じているのだろう。

鮮やかに舞台を降りた宮里と、「あの頃のプレーがしたい」と切望するウッズとの対比は、残酷な明暗を浮き彫りにする。双方、身体と精神はぼろぼろのはずだが、現代の「黒人解放」を担わされたウッズの日々は、我々凡百の想像を遥かに超えて、過酷なものだったに違いない。

それだけに、個人的にはこんなことを夢想する。

タイガー・ウッズ、41歳。仮にもう一度、メジャーを制することができたなら、とてつもない復活劇になるだろう。(片山哲郎)

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ライター紹介 ライター一覧

片山哲郎

片山哲郎

1962年8月3日生まれ、東京都出身。月刊ゴルフ用品界を発行する株式会社ゴルフ用品界社の代表取締役社長として、ゴルフ用品産業の動向を中心に取材活動を行っている。ゴルフ市場活性化委員会(GMAC)のマーケティング委員も務める。2014年4月、日本ゴルフジャーナリスト協会(JGJA)会長へ就任。信条は「人の至福は健康で長生きすることであり、これに寄与できるゴルフは『善』である。善なるゴルフ産業が健全発展するために正確、迅速、考察、提言を込めた原稿を書く」――。

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