地クラブの神髄

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Vol.8 ベノック パター

2015.04.02

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Vol.8 ベノック パター

世界屈指の技を携えても無名―。精密な金属微細加工技術は、下請けである限り、名を持たずして消費者へ響かない。その悲哀がブランドビジネスを志す契機になる。時に昇竜の勢いをみせるベノック。パターはフィッティングで創る。そのための理論、技、そして手練手管がいま、工房の救世主となった。その神髄に迫る。

世紀末。携帯電話の普及率が40%を越え、そして、金利が0%になった。奥田潤はその機を千載一遇ととらえ、金属微細加工会社「ベノック」を興した。加工機の操作マニュアルに目を懲らし、金属の加工特性を考え、機械と格闘した。同時に仕事を得るため東奔西走する。試行錯誤を繰り返し、シャカリキに金属加工に取り組んだ。

Vol.8 ベノック パター

携帯電話の導光版で始まり、携帯電話やデジタルメディアプレーヤー向けコネクタ、電子天秤質量センサー、液晶TV向けバックライト生産装置、自動車向けワイヤーハーネスのアルミ化に伴う防食金型、リチウム2次電池の要素技術開発、太陽電池集電技術開発などに特化した事業を展開する。しかし、下請けであることの生き方は、茨の道。苦楽を共にする働き手の疲弊が目に映った。

「名が無いゆえに」―。

培った技を操り、主体は金属。そして名を馳せるに相応しい高級品。それでいて、それ自体が自立した商品。それはパターだった。企業名のベノック(BENOCK)は、BEST(最高を目指し)、NEED(社会に必要とされる)、OFFER(社会に提案していく)、TECHONOLOGY(常に技術革新に繋がる)の四つの言葉に由来する造語。名に未来を託した。 その物語は始まりに過ぎない。

神髄1 千姿万態の妙

Vol.8 ベノック パター

奥田には自分流のパッティング理論があった。それは、目標物に対してパターのフェースは直角。そして打球時にフェースが開閉しない。直線的なストロークだ。その理論を信じてやまなかった。そして己の姿に合うパターを創った。見事に、ハマった。ストロークは直線から直線へ。自らの説が立証された。しかし、「ゴルフ仲間には合わなかった」

十人十色―。パッティングストロークは、ひとそれぞれがそれぞれの姿態、そして通り道をもっている。己のみに合わせては無意味。それぞれの道に適させる。そのために、至適な設計値を求めた。

奥田のゴルフは、調査が目的になった。その過程で5000にもおよぶデータを収集。証券マン時代に培った、ビッグデータの処理能力が活かされた。辿りついたのは、三次元でのストローク分析。フェースの開閉とともに、ヘッドの通り道を、打球時を境に前後にわけ、左右、上下の方向を28種類の"通り道"に分けた。そして、28種類の通り道に合致する形を設計図に落とし込んだ時、核となったのが、バランス角。

その値が、パターを決する。奥田が用いる「バランス角」とは、いわゆるトゥハングで、重心角を表している。ただ、フェースが空を向く角度を0度と仮定して、新たに『バランスアングル理論』を提唱した。そして、理論的にはインパクト前後5㎝の距離でスクエアインパクトを迎えさせる。

使い手のそれぞれに適するバランス角。それを具現化する技がベノックの屋台骨に在った。

神髄2 金属を削る技

Vol.8 ベノック パター

金属加工の金型成形技術には、切削、研削、放電の三技法が主流とされる。その中で、パターを削り出すのは切削技術。その礎になるのが、導光版などの金型成形で蓄積された知見と技だ。

導光版は携帯電話の液晶画面裏にあるバックライトを反射させる板。その厚みの誤差は0.5ミクロン。プラスティック系素材で大量生産するには、インジェクション成形の金型が必要となる。厚みの誤差は0.5ミクロンだから、金型の精度は想像を絶する。

その精度をパター製作に応用したのが、ベノックの超精密微細加工で創られるオーダーメイドパター。そこには、金属加工を熟知する者の、パター創りがある。

金属で金属を削るには、エンドミル(ドリル)の刃先の圧を知らなければならない。鉛筆でいうところの筆圧。抵抗があって、圧がかかり、切削する溝の深さや幅は、実は一定になりづらい。刃先が撓むような現象が発生する。その撓み量を予め予測して、刃の切れ込む量、そして深さを想定する。さらに回転数が上がれば、刃先自身が熱を帯び、加えて、モーター、そして機械本体も熱を纏う。刃先の圧、膨張を想定した切削は、設計図作成にも大きく影響する。経験が成せる技でもある。

Vol.8 ベノック パター

加えて、切削のプログラミングに対する知識も重要だ。金属の延び方、特性を知れば、パターという金属加工製品の特性を鑑みて、削り出す部位(面)の順序が決められる。そして、奥田の語気が強まる。「応力を操ることができなければ、設計通りの重心位置は具現化できない」―。

応力とは金属のストレスと考えれば分かりやすい。刃を当て圧力がかかるとことで金属自体にストレスがかかり、重心位置は理論の設計位置から離れていく。そのため、一番ストレスがなく、重心位置に影響を及ぼしにくいソールを固定して切削を始める。

ベノックのパターは完全削り出し。1つのパターで、約4㎏〜7㎏のインゴットから形が創られる。まずは、ワンチャック5面ミルドマシンによる荒取り。次に、ヘッドとネックの位置を設計値通りに削り出す。このとき、固定されているのは、ソール。そして、グラムオーダーソールミルドで、ソールを削り出し、最終形を創る。ただ、ソールの加工時には、当たり前だがソールは固定できない。「フェース面とブレードで固定するため、そのパターひとつひとつに合わせた固定用のプレートを用意します」

最後に、モデルによってはサンドブラストで表面加工を施している。手間を惜しまないからこそのオーダーメイドを名乗るに相応しい。一本のパターが形になるまで、最低でも8時間のミルド作業。電気代は1本平均4000円也。気が遠くなるほどの知恵と技、時間と費用で、ひとりひとりに至適なバランスアングルを具現化する。

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神髄3 文化を創る

パターは大手外資が圧倒的なシェアを誇っている。巨大企業は開発費用の多寡で、新形状、新技術を搭載した新商品を矢継ぎ早に世に問う。しかし、各人のストロークに最適か、疑問は消えない。「パットに型なし」―。

使い手の軌道は多彩。それゆえに、物性による適が作用する。必要なのは、軌道を見極め使い手に寄与する形状。使い手の軌道を28種類の通り道に、置き換え、バランスアングルを探るのがフィッティングだ。

手順はまず、ストロークチェックから始まる。ハンドファースト、グリップ位置、ボールの位置など個人のパッティングにおける癖を目視。ストロークをインパクト前後に分けて上下左右の組み合わせで28通りの通り道のどれに当たるかを分類する。

次に、バランス角を25度の範囲で想定し、5種類のバランス角のパターで、ストロークアジャストの作業。上部と後方からの映像で、バランス角、ライ角、ヘッド重量、シャフト種類とその重さ、グリップ重量を合わせ込み、構えた所に正確に戻ってくるスペックを探していく。

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そして、アライメントチェック。狙った方向に正確にアドレスできるパター形状を選定。このとき、重量は1g単位で設計ができる。そして、最後にタッチアジャスト。ロフト角、重心高さ、重心深さを最適化し、タッチ、つまり距離感が合うスペックを見つける作業だ。

最後にネック形状を含めた最終デザインを決定。カラーやラインを施す場合の外装も決めていく。

時間にして約90分。膨大な手間を要する。その意義について、奥田は夢を語る。「パターはひとりひとりフィッティングを介して、プレタクチュールで創る文化を根付かせたい」

夢は現実となりつつある。工房の救世主となったベノックパターは、新たな展開を目論んでいる

神髄4 見える場所 そして未来

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フィッターは総勢5名。全国津々浦々で催される年間500回のフィッティングイベント。それ以外にも本社では予約制のフィッティング枠が設けられている。そして今年3月、国内外を問わず、近隣で催事を開催していないゴルファーに対応するためにも、本社2階に120平米のフィッティングルームをグランドオープンする。

「現在、イベントを開催しているゴルフショップは、約70店舗。同一店舗では1回/1〜3ヶ月のイベント開催です。より内容を充実させるためには、多くの店舗で月1回のイベント開催をお願いできる体制が必要と考えています。ただ、本社でのフィッティングでは、圧倒的に試打パターの本数が違います。そのような場所を設えることで、より個々のゴルファーに合ったパター探しを提供できると考えています」―。

その数は200本以上。関西圏でのフィッティングは、イベント形式から紹介形式に移行することも視野に入れる。そして、このフィッティングルームが軌道に乗れば、大都市圏で同じビジネスモデルが展開できる。

工房ビジネスの援護射撃。それがフィッティングルームのポジションでもある。

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名を馳せて、なおも進化するベノック。パターはフィッティングを介しオーダーメイドでゴルファーに合わせるのが至極。そんな文化を創ることも、地クラブメーカーの神髄でもある。

  • Vol.7 イオンスポーツ『GIGA』
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