地クラブの神髄

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Vol.7 イオンスポーツ『GIGA』

2014.12.11

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Vol.7 イオンスポーツ『GIGA』

時勢に翻弄されるクラブ市場。辿り着いた境地は、利益からの脱却。そして地クラブメーカーとしての生き様を選んだ。それがいまのイオンスポーツ。その覚悟に、神髄を見た。

母体はヘルメットなど安全用品の製造メーカー、東洋物産工業。カーボン技術を応用して、ゴルフクラブメーカーを創業した。90年9月のことだった。それから四半世紀。嵐の夜も、穏やかな木漏れ日もあった。そして今年、代表取締役社長の東孝次は「復活」の二文字を繰り返す。パーツブランドでの再出発。急先鋒は『GIGA HS787』。与えて、与えて、与えて、それから与えてもらう。地クラブメーカーとしての覚悟が、神髄だった。

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神髄1 翻弄されたからこそ

バブル崩壊前夜。1990年の9月、イオンスポーツは兵庫県三木市の三木工場公園で産声を上げた。母体はヘルメットの東洋物産工業。カーボン技術に自信がある。会社トップがゴルフをこよなく愛していた。当時、カーボンウッドを市場に投入したゴルフメーカーの存在にも刺激された。

「自分たちならもっといいものが作れるはずだ!」

しかし、初のゴルフクラブ作りは甘くなかった。全部を自前で設えたからだ。初めての成功体験は93年発売のステンレスボディにカーボンフェースの『フェアライン』。数百本売れた月が数ヶ月続いた。しかし、秋にチタンフェースを発売すると、不具合が起きた。売れなかった。代表取締役社長の東孝次は、当時を振り返る。

「えらい目に遭いました。上がったり下がったりの連続」―。

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中小メーカーの悲哀は流行を作り出せないことにある。時流を掴めなければ、一気に在庫が溜まる。ステンレス、カーボン、そしてチタンウッド。さらに大型化の波が押し寄せた。だから、伸るか反るかが問われる。

中小メーカーの宿命。それは追随型開発。しかし、それだけでは生き残れない。だから、東の苦悩は、拘りへと辿り着く。

94年発売の『フェアラインタイトネック』は、シャフトのチップ径が7.5㎜。そんなクラブ、世の中になかった。だから、シャフト生産も困難を極めた。ドライバー1本、9万5000円。販売は好調に推移した。しかし、チタンバブルに遭遇。国内のチタン材が消えた。増産ができなかった。急遽、ドイツの鋳造メーカーに製造を依頼。

「リスクを負いながら、大手のゴルフメーカーが挑戦しないことをやらなければ未来はない。利益を重視するより、拘りを貫く」―。

しかし、その想いとは裏腹に成功と失敗を繰り返した。「売れたモノは、散発的に浮上した例で、方程式が作れたわけではなかった」

何が売れるのか、何が間違っているのか? 東の憂いは、利益至上主義への疑問へと辿り着く。「儲けようという発想がそもそもあかん。まずはお客様に喜んでもらわんと。目から鱗が落ちましたね。与えて、与えて、与えて、それから与えてもらう、ですわ」―。

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利益重視からの脱却、新素材への挑戦、構造への拘り。そして、出逢ったのが『GIGA』。その一方で、価格競争で疲弊するクラブ市場。そこから脱する試みで「地クラブ」が脚光を浴び、受け皿の工房が注目を集める。だから、パーツ販売に伸る。それは中小企業の道標でもあった。

神髄2 覚悟

「大量生産を手段とせず、流行に押し流されず、流行を押しつけず」 イオンスポーツの企業理念だ。専門店との共生ブランドを追求する中で、覚悟が決まった。マークダウンをせず、1モデル5年を目標に、いいものを長く市場で成立させる。取扱店は散在させないエリア戦略。

「25年の歴史は重い」 そう東は呟く。この四半世紀、幾つもクラブメーカーが姿を消した。完成品で販売店に納品する。しかし売れなければ、返品の憂き目を見る。それでもイオンスポーツは企業活動を存続できた。「正直、キツかった」

その厳しい経験が地クラブメーカーへの起点。そして、ゴルフ人口の減少を目の当たりにして、工房店主や工房へ足繁く通う煩さ方を納得させるモノ造りを心に決した。

いいものを作れば、必ず認めてもらえる。だからこそ、間尺の合わない直営でもなく、価格至上主義の量販店でもない。餅は餅屋の工房に合力を請う。「手間を掛けなければ生き残れない」―。 必然の選択だった。だから、パーツビジネスで数十億の売上を上げる野望はない。

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イオンスポーツは、機能性アンダーウエア『ゼロフィット』を中心としたウエア事業、輸出事業、汗吸収パッド『アセステ』に代表されるボディケア事業、そしてパーツ事業で、成立させる。4事業の相互補完が形をなせば、ヘッドビジネスで数十億を目指す必要はない。最大最高のブランドを目指すのではない。最適最強を目指す。

相対するのがプロショップ。いまでは工房といわれるゴルフ流通の極地だ。大々的なPRやプロ契約、そして世界を股に掛けるブランド力が、ともすると何の効果も発揮しない場所。そこに東の気概が漲っている。「工房はヘッドそのもので勝負する場所だと思っています。ヘッド単品の力です。店主が納得頂けなければ売って頂けないシビアな世界。勝てると思っています」―。

覚悟は決意となり、自信となる。そしてストイックにさせる。「モノ造りは、相手に気を遣って妥協した時に、駄目になりますよ。トコトンまで行くと良いものができる。そうでなければ、お客様は納得頂けない」そして、生き残れるヘッドができた。

神髄3 開発費は考えない

2013年3月末、『GIGA HS787』ドライバー、FWが市場に投入された。それも4年ぶりの新商品だ。拘り抜いたのは素材。前モデル『HS781』はフェース素材に「TVC」と「15-3-3-3」を採用し、カップフェース構造で設計した。複合ヘッドのコストは高かった。でも、評価も高かった。それを踏襲する予定だった。いや、踏襲した開発は、最終局面を迎えつつあった。しかし、進化は必然。『HS787』は打感と打音にこだわり、金型修正を何度も繰り返した。

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そこにベンダーから売り込みがあった。素材の表記は「Ti72211S」。後にイオンスポーツが「シリコンチタン」と銘打つ素材。この素材でカップフェース。同じ耐久テストで、割れなかった。高強度で、スピン量も減った。もう一つの利点があった。素材の粘度の高さによる打感の柔らかさだ。〝ひっつく打感縲桙ナ、飛んだ。

ただ、テストしていく段階で分かったことがある。ヘッドスピードが速ければ速いほど、インパクトでの衝撃が強いほど、反発性能が上がった。一方、『GIGA』といえば「Hモノコックボディ」だ。ソールに配されたH型の形状は、ソールの無駄な撓みを抑制して、ボールへのエネルギーを余すことなく伝達する。飛距離への条件が揃った。

ゴルファーへの配慮は、バックフェース側に装着された4つのウエイト。個々のスイングに合わせて、ウエイトバランスを変えられる。工房店主がフィッティングで活用できる機能でもある。

もうひとつラインアップするのは、ドライバーの流れを汲むFW2種。『HS787FW』は、アベレージ向けのFW。圧倒的な比重差を持つ6-4チタンと17-4ステンレスをブレージング溶接で複合した超低重心構造のFW。「Hモノコックボディ」を搭載して、インパクト時のエネルギーロスを抑制し、飛距離へ繋げた。

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一方の『HS787FW PROTO』は、フルチタン構造で、飛距離追求型FW。低スピンでふけ上がりを抑えた圧倒的な飛距離が特徴だ。しかし、『HS787FW PROTO』、開発段階で問題が起きた。
「低スピン過ぎて、ボールが上がらない」―。『HS787FW PROTO』はロフト別に#3、#5、がラインアップするが、すべて金型から作り直した。

「妥協して作ったモノは、販売店に納得して頂けない」 東の心に迷いはなかった。それが覚悟だった。そして、その覚悟を応援してくれる工房も現れた。

神髄4 裏切らない

『HS787』の良き理解者が、ゴルフショップチョイス(東京都北区田端)の店長である吉田昌弘だ。知人から噂を聞いた翌日に、偶然にもイオンスポーツの営業マンが飛び込んだ。「まずはお客さんに勧める前にコースで試してみるのが、僕の役目。結果が出ないと勧められない」―。

工房はリピーターづくりこそ、ビジネスの要。そのため、店主は取扱商品の吟味に、心血を注ぐ。結果は衝撃的だった。「もともと、イオンスポーツのクラブは、飛距離追求型という印象でした。『HS787』はその期待を裏切らなかった。本当に飛ぶ。そして衝撃的だったのは、打感と形状の妙です」

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吉田はのちにフェース素材がシリコンチタン「Ti72211S」だということを知るという。「弾きながら、ボールがめり込むような感触が共存していて、球持ちが長い。こんな素材が存在したのかと、衝撃的でしたね」

もうひとつの衝撃は、ヘッド形状の妙だとか。「第一印象は懐かしいディープフェースのドライバー。通常、ディープフェースだと球が捉まりづらいのが定説ですが、『HS787』はボールがしっかりと捉まる。良い意味で期待を裏切ってくれます」 相容れない2つの要素を両立させている。しかし、吉田はその不可思議さが、『HS787』のウケる証だと力説する。

「相容れづらい二つの要素を欲するゴルファーは、意外に多い。使い手の痒い処に手が届いている。その意味で、形状と捉まり方、弾き&めり込み感の、それぞれのミスマッチが、ゴルファーに支持されているのでしょう」そして、吉田は付け加える。

「他社のヘッド上代が6万円前後のなかで、『HS787』は7万円。買って頂いたゴルファーから『高いだけのことはあるよね』といってもらっている。飛距離という結果が何よりの納得材料ですね」

メーカーと工房は、ヘッドを介した関係にある。覚悟を決めたメーカーのモノ造り、そして期待する工房。双方の裏切らない繋がりが神髄なのかもしれない。

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