地クラブの神髄

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Vol.10 Grandista

2015.08.10

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Vol.10 Grandista

暗雲が立ちこめ、選ることが至難を極める雨後春筍の世にあって、一筋の光を放つ吉田一尊。教え手、飛距離巧者、競技者、そして研究者の顔を持ち、生み出したのが『グランディスタ』。諦め、悟り、学び、そして追求した真理。そこには、ひとつの境地があった。過ぎないことの美しさ――。ある神髄の形でもあった。

過猶不及―。

時代は大量生産大量消費から、付加価値の時代へと潮流が動いている。しかし、時として添えられることの曖昧さで、本質を逸する。過ぎたるは猶及ばざるが如し。スイングを追い求め、飛距離を極めた男の断舎利。そこに地クラブの神髄があった。

Vol.10 Grandista

神髄一 諦めの境地から始まる

リアルスポーツ主宰の吉田一尊には、ツアープロの世界を諦めた刹那があった。当時、吉田、27歳。「練習ラウンドで佐藤信人プロと交わった時、追いつけないと確信した」―。

吉田は12歳で習い事のひとつとしてゴルフを始める。中学時代に80台のスコアでラウンドするジュニアゴルファーだった。大阪桐蔭高校のセレクションに受かり、本格的にゴルフに取り組んだ。卒業後、アメリカへゴルフ留学し、その当時、現在ではトップインストラクターと呼び声の高い、江連忠、永井延宏、井上透らと出逢う。1999年に帰国し、クォリファイングトーナメントを得てチャレンジツアーに出場していた。

ある時、佐藤信人プロと練習ラウンドを共にする。技術的な格差があったにせよ、吉田は自身の思考性が選手向きではないと悟る。「美しい弾道でも、どんなに遠くへ飛ばしても、スイングが美しくなければ、満足できなかった」。つまり、スイングの美を重んじ、求めたのはスイングの先にあるスコアだった。

「選手には向いていない」

27歳でツアープロへの道を諦め、自身が求めるスイングの研究に日夜没頭する。数多の文献に触れ、生体力学や運動力学の講習会などにも足繁く通った。「日本のゴルフ界におけるレッスンは、手法であって、理論ではない。それが力学なら物理だから、理論になる」―。

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選手を思絶ってから、心に誓ったことがある。「ゴルフにおいて、スイングにおいて、微塵も知らないと言いたくない。日本一のコーチを目指す」。無知が恥。吉田は強迫観念にも似た境地に身を投じることで、学ぶことに明け暮れる。それは、いつしか研究者として、理論を実証する域にまで達する。

「一度、ドラコンに出てみよう」

結果は、地区予選を一位通過し、いきなりの全国大会で5位。「停滞していたドライバーの飛距離も50ヤード伸びた」―。 もし、吉田が人生初のドラコン大会で日本一になっていたならば、ドラコン選手になっていたかも知れない。しかし、それは理論を実証する場に過ぎなかった。

吉田の自己最高の公式記録は384ヤード。スイングの研究は実り、ひとつの区切りが見えた。しかし、吉田にはもうひとつの苦い経験があった。スイングの対岸にあったクラブだった。

神髄二 過ぎたるは猶及ばざるが如し

2000年。チャレンジツアーに参戦していた吉田は、練習ラウンドで60台をマークし、好調をキープして初日を迎えた。しかし、中盤からドライバーショットが右へ。そして、右プッシュが続き、意識すれば左へ。とにかく症状を治すために、極端につかまるフックフェースのドライバーに変えた。

「他のクラブとの調和は取れず、スイングが崩壊した」―。

学んだことは、我の強いクラブはスイングを蝕む。経験は学びとなり、吉田の持論になった。「ゴルフの技量は、スイングで9割をカバーできる。そしてクラブは、9割のスイングに悪影響を及ぼす性質のモノであってはいけない」―。 換言すれば、スイングだけで到達できない境地に、クラブの一助によって辿りつくことができる。

そして、吉田はクラブの研究にも一心不乱に取り組んだ。「過去、名器と呼ばれたクラブのデータを集めましたね」。プロギアの『Duo』、ヤマハの『パワーマジック』、本間ゴルフのパーシモン『BIG LB300』を始め、パーツブランド、国内外問わず50ヘッド。人気のあるモデルのデータも参考にした。

「様々なことが分かりましたね。ただ、基本的には尖ったヘッドばかり。だからこそ、王道のモデルにしたかった」。オーソドックスであれば、スイングの妨げにはならない。そして売り手でもある工房でも、実は売りやすい。何故なら、「クラブはヘッドだけで成立せず、シャフトの性能にも大きく影響される。尖った性能のシャフトも多く、ヘッドとシャフトが出逢うことで固有の性能を相殺することもある。カスタムクラブは、フィッティングを介するクラフトだから分かりやすいはず。工房が扱いやすい商材なら、売りやすい」―。

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そして、もうひとつの考えがあった。「多くの工房に御意見を頂戴した。結果として、皆さんの意見を反映したヘッドに仕上げることで、愛着をもって販売してもらいたい」。業界全体を見渡せば過去、絶望の淵から立ち上がり、日本を代表するモデルに育った大手国産ブランドがある。その初期モデルも開発時、販売店の意見を集約した。後に専門店店主の各々が我が子のように愛で、育て、販売した。だから、今日も巨艦ブランドの地位を維持している。

吉田の語気が強まる。「過ぎてはならず、独りよがりでは成らない」。そして、モノ創りが始まる。

神髄三 黄金比と美

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吉田には15年来、贔屓の場所がある。ウエッジの研磨を依頼したことから、今日まで様々なことを相談してきた。ツアープロとして、レッスンプロとして、そしてスイング研究家としての吉田が、クラブを開発しようとした時、主は、「重心をちゃんとせなアカンぞ」と、背中を押した。

15年来の付き合いで、そのクラブ理論は吉田の全てに染み渡っている。 肝は重心の高さ、距離、角度、深さ。そして、その均衡。それが吉田が生み出したゴールデンレイティオ。そして『グランディスタ』。膨大なデータ収集は、黄金比に辿り着くための研究だった。

「一番飛ぶと言われるヘッドは重心距離が長く、浅重心のヘッドであることが分かりました。しかし、スイングでヘッドを走らせることができる上級者でなければ、使いこなせない。それ以外は、極端な短重心&浅重心、短重心&深重心など、極端なヘッドがパーツには多かった」

吉田は得たデータから、平均的な重心距離は38m/m、深度は36〜37m/mと分析。だから、フェース面状の有効打点を20m/m以上に設定することを前提に、重心高35m/m、少し長めの重心距離41m/m、そして重心深度も平均値より少し深めの40m/mに設定して、開発はスタートした。

もうひとつの要が容姿。「モックアップの時に、ヒールのラインとトゥ側のラインにクビレを持たせ、バルジとロールを多めにして、シャローバックにならないように絵を描きました」。ヒールとトゥのクビレは、ボールの捉まり具合を視覚的に制御して、多めのバルジやロールは、ボディとの繋がりを意識し、美しい曲線を表現する。 しかし、重心位置とフォルムは二律背反の関係性も強い。「無理なことをやらなければ、面白くない」―。

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重心位置を変えないために、内部構造を変更し、ネックを短くして、カーボンクラウンで余剰重量10gを作った。だから、開発期間は1年9ヶ月を要した。発売から1年。『グランディスタRS-001』は高い評価を得ており、今年6月には『バージョンS』が市場に投入された。「既存モデルは、高反発チタン素材『DAT55』による限界ギリギリの弾き系ですが、今回発売した『バージョンS』はフェース素材に『SP700』を使って粘り系の打感を楽しめます。まったく同じ構造で、打感の違う2タイプのドライバーがあっても良いはず」

吉田はそもそも、クラブデザイナーの素地は持ち合わせていない。だから、打感違いの2つの商品構成に疑問を持たない。「ヘッドの性能、外観が満たされても打感は好み。売り手も使い手も広がる可能性がある」。そして今秋、新たなFWが発売される。

神髄四 職人と愛好家の差そして背中

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吉田はゴルフにおける職業人である。その世界で業を営むプロであり、一方で業を営むことのないアマチュアは愛好家である。その立場が違えば、道具であるクラブの役割は大きく異なる。「3Wはプロにとってティーショットで刻む道具。飛び過ぎは厳禁。しかし、アマチュアにはグリーン近くまでボールを転がすために存在する。5Wはプロの力だとボールが浮くから低スピン設計が必要。だが、アマチュアはグリーンでボールを止めたいから高スピンでロフトも多めの設定が必然」

秋発売の『グランディスタ』のFWは、3Wがロフト角16.5度とバフィーに近い。多めのロフトで視覚的な安堵感をオファーし、低スピンだが、ボールを拾いやすい。一方の5Wはロフト角19.5度。低重心設計を肝に、高弾道でグリーンを狙う。飛ばしのプロ、レッスンのプロである吉田のFWに対する結論だ。

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ただ、クラブ創りはプロではなかった。拠り所となったのは、大阪府茨木市のヤードスティック。クラブメーカーでもあり、練習器具メーカー、そして測定器メーカーでもある。吉田が15年来、通い背中を見続けてきたのが、山城谷哲男代表取締役。精密機械メーカーに勤務した後、フォーティーンで修行。重心理論を世に送り出したフォーティーンの創業者・竹林隆光の門徒でもある。

「重心をちゃんとせなアカンぞ」。山城谷の吉田に対する助言だった。15年におよぶ、両人の会話が吉田の重心理論を構築してきた。そして、山城谷は造り手としての責任も伝えていく。「『RS-001』はソールの2カ所で重量調整ができる。当初、雌ネジだけがミリになっていた。地クラブメーカーにとって事故が起きれば生きてはいけない。商品になれば安全という品質が問われる。モノ造りに携わる人間は、都度、何かを決断していかなければなりません。ただ、守るべきことが疎かになってはいけないのです」

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吉田には、ツアープロ、ドラコンプロ、レッスンプロ、研究者の顔がある。手本となる男の背中がある。そして、工房店主の声もあった。独りよがりではないことが、『グランディスタ』の神髄といえるだろう。

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