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Vol.12 GRAVITY 『Gyelin Putter』

2015.12.11

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Vol.12 GRAVITY 『Gyelin Putter』

一意専心――。それがグラビティーの神髄である。設計思想と遣い手への想いは迷いがなく一途である。故に、大黒柱であるシャフト『ワクチンコンポ』は、齢を重ね飛距離への渇望が未だ収まらぬ御仁達の処方箋となった。しからば、次の一手はゴルフの極みである打数への飽くなき欲求。新たなグラビティーの物語が始まる。

すでに熟練ゴルファーの飛距離減退を補うシャフトとして、グラビティーの『ワクチンコンポ』ブランドは盤石な地位を確立している。創業から6年。多くの遣い手に、あの頃の飛距離を取り戻させている。

「飛距離には満足頂いている。ただ、ゴルフの醍醐味は、それだけに限らない」――。

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同社の企業理念には『人々に感動を与える商品提供』との文字が連ねる。創業当初、シャフトに着目し、これまでボールはシャフトで飛ばせることを証明し続けた。ただ、応えられたのは飛距離。ゴルファーである限り、上がってナンボの世界。打数への拘りは永遠に消えることのない真理でもある。したらば、スコアメイクの一助として、心は自然とパター開発に動く。

2015年の年の瀬。グラビティーはパター販売に乗り出す。新たな挑戦が始まる。

神髄一 失うものを埋める想い

熟練ゴルファーに視線を向ければ、心得ることがある。それは、若き頃に充実感を伴った飛距離への痛切なる想いと、しなやかさを逸した身体の動きに他ならない。「齢を重ねると小さな動きに、しなやかさがなくなる。体全体を駆使するショットはまだしも、パッティングとなると・・・・」

パッティングに型なし。現にツアープレイヤーに目を向けても、多くの型が存在する。それゆえ、その様々な所作に合わせたパターが行きつく間もなく、市場に姿を現す。生き抜くためには、個性は回避できない。

グラビティー代表の原田安浩は、大手外資メーカーの開発担当だった。パターは門外漢だが、製造のノウハウは熟知している。アイデアも存在したが、問題は外観だけではなく、機能と融合させることだった。

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「世間に数多あるパターにはない斬新な製品でなければ意味がありません。一方でパターは、トゥ・ヒールバランス理論がいまでも主流ですし、その原型になるのがキャッシュインのパターでした」

想いを馳せたのは、『アクシネット ブルズアイ』。シャフト軸線上にヘッドの重心位置が在り、インパクト時のエネルギー効率は高く、小さな振り幅でも転がる距離が伸びる。肝はセンターシャフトとトゥ・ヒールバランスのヘッド。そして、センターシャフトパターの独特の打感。もちろん、ブレード型である。

しかし、センターシャフトのパターは、トゥ・ヒールバランスのパターといえども、フェースの開閉が大きい。芯を捉えられねば、方向と距離の各々が不揃いになる始末。高い慣性能率を有するヘッドも、これらの課題を解き明かすには不可避となった。

ただ厄介事は複雑怪奇であればあるほど、主意を失う。「齢を重ね、細かな所作にしなやかさが失われた御仁のそれを滑らかにする」――。

辿り着いた妙策は、ベンドネックのセンターシャフト。「手が動く」――。始まりはシャフトだった。

神髄二 手が動く滑らかさ

「手が動かない」――。齢を重ねた愛好者の悲痛な嘆き。それを解決するためのパターシャフトの開発に、課題は山積した。

秘策はベンドネックのセンターシャフト。ヘッドの重心をシャフト軸線上に残しながら、滑らかなストロークを促す。「パッティングは心理的作用が最も影響しやすい動作。スムーズなストロークを小さいな幅で行える独自の曲げを試行錯誤しました」――。

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原田の理想は、センターネックでライ角90度のシャフト。ただ、理想の形は規則に反する。直線的に伸びたシャフトを活かし、スムーズなストロークを誘い出す型。脳裏に浮かんだのは、4ベントのセンターシャフト。直線より軟らかさを醸し出す曲線が所作に滑らかさを与え、緊張を解す。だが、原田の試行錯誤は困難を極めた。

「30本ほどは曲げたでしょうか。そのうち10本ほどは、スチールシャフトの老舗・島田ゴルフさんにご協力頂き、あと20本は自宅のガレージ・・・・。家族には白い目で見られましたが(笑)」

ガスバーナーで温め、幾度となく繰り返された作業。終に巡り逢ったのが、ネックのライ角85.5度。そこからベンドさせてシャフトのライ角72.5度。一見、ダブルベンドに見えるシャフトだが、「平面にベンドし、立体に捻る」シャフト重量は124gと重量級。シャフト造りで育んできた設計思想も、力強い屋台骨となった。

「『ワクチン』のコンセプトは、軽いものを重く感じさせる錯覚、そしてそれを成立させる構造にあります。パターも同じで、重量以上に重く感じさせることで、手先でのインパクトを抑制して、体全体を使った動きを助長させます」

想いは形になった。シャフト2点を2回づつ曲げた4ベンドシャフト。ただ、新たな概念は奇策にも映る。

「シャフトだけの販売は商いになるのか?」

糸口は、旧知のツアープロである田中秀道の呟きだった。

「マレット型のヘッドは後ろに体積があって、深い重心ですから4ベントのセンターネックだとフェースが上を向いて転がりが良くないですよ」――。

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原田は4ベンドシャフトの試打にマレット型のパターヘッドを使っていた。その原田に、田中の呟きは、壮大な計画を決意させる。

「このシャフトに合うヘッドを造るべきだ」

歩むべき処は、揺るがない。ゴルフの醍醐味は打数でもある―。楽しくも苦難の道が始まった。

神髄三 構造に解を求めた機能と音

希望を託す型は明確だった。肝は、センターネック&トゥ・ヒールバランスでもミスヒットに強く、4ベンドシャフトを活かす姿。それは高い慣性能率を有し、そして田中秀道が示唆した「ロフトが動かない」ヘッド。そして、古今東西、未だ嘗てない恰好だった。

この世に生を受けたのが、『Gyelin(ギェリン)パター』。「6面対称構造」という、摩訶不思議な造りを採った。

一言に「6面対称構造」と表現しても、新たな造形だから、想像がつかない。フェースとバックフェースが同形で左右非対称。トゥとヒールが同形で左右非対称。ソールも左右非対称で、ヘッド上部もそれに習う。前後、左右、上下間において、平衡が整いセンターネックの劣位点であるオフセンターヒット時のフェース面の不安定さを和らげる。剰え、高い慣性能率で方向性と転がりへの悩みを鎮めた。

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「手が動かなくとも、小さいな振り幅でも、届く」――。

原田には遣い手への想いがある。「その人達に喜んで貰いたい」

その想いに油断はなかった。機能は織り込まれた。ただ、それでは足らぬ。熟練のゴルファーは、奏でる響きにも一過言持っている。

「音が与える印象は視認性以上に重要です。芯を捉えたことが分からなければ、心地良くないはず」

その解は、構造と素材にある。6面対称構造は、2つのフェースをボディ本体にネジ止めしているが、本体との間に隙間を持たせ、打音が反響する姿形に設計した。そしてテストサンプルより、フェース厚を薄く、厚さ1m/mでデザインした。素材には、特殊ステンレスを採用、試行錯誤を繰り返し、打音、打感に満足できる最高の素材だった。

「心地良い打音を奏でる原点は、ピンの『1-A』であり、日本で一番売れているドライバーの爽快な響き。高温で長く響き渡るサウンドです」――。

『Gyelin』のヘッドタイプは細面のブレード型『Gyelin4S』と幅広タイプの『Gyelin6S』の2種類。モデルは限定数量で展開するフェースに金IP加工を施した『GRY10』、フェースに銀メッキ加工を採用した『GRY20』、そしてヘッド単体で工房を中心に展開するサテン仕上げの『GRY30』がラインアップし、シャフトはグースタイプと逆グースタイプを取り揃える。

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すべての解が結実した。しかし、売り手の声は耳に入れていない。ある男に白羽の矢が立った。

神髄四 裏切られる喜びと驚嘆

その男は銀座(東京都港区)の末席にいた。「ゴルフクラブフィッティング銀座」でチーフ・フィッティング・アドバイザーを任されている磯貝久生だ。同氏は、マグレガーとアクシネットで開発に従事し、ナイキでツアークラフトマンを経験したスペシャリスト。現在、フィッティングスタジオで日々、ゴルファーと接しており、『Gyelin』を手にして開口一番「面白い」――。

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そしてボールを転がした。「一発目からカップインします。カップ直前で、ストローク幅以上にボールが伸びていく」そして続ける。

「柔らかい打感で、ボールを一度フェースが受けて、そして押し出す。独特の構造によるものだと思います。そして、その打感は軟鉄鍛造のアイアンを想起させます」

実際、開発者である原田は、何一つ説明していない。しかし、道具を、そして遣い手を四半世紀見てきた男には解せるのだ。そして磯貝はしばし、ボールを転がし続けた。

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「センターネック特有のヘッド挙動の不安定さがなく、手が自然と動く。形状からは想像できない打感。そして転がりの良さ。クラシカルな装いを残しながら、新たな機能を持ち合わせています。良い意味で裏切られました」

同店は場所柄、多くの富裕層ゴルファーを抱えている。「彼らはこのパターを見れば、ボールを転がしてみたいと思うでしょうね」

磯貝が感じた喜びと驚き。それは、売り手としてだけでなく、一人のゴルファーとしての心の声。一心不乱に遣い手に想いを馳せて、待ち望む以上の、喜びを与える。それがグラビティーの神髄なのだ。


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