地クラブの神髄

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Vol.13 中条・カムイ

2016.04.11

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Vol.13 中条・カムイ

実事求是―。

事実に基づき真理を探究し続ける中条。そこに見え隠れする落胆と成就。その繰り返しが、四半世紀のパーツビジネスを成してきた。苦難を乗り越え辿り着いた窒素ガス注入の『TP-07NITROGEN』。そして、ゴルファーに想いを馳せた『TP-09S/D』―。その二つの子供達に、中条の神髄が垣間見えた。

加賀百万石。その二代目藩主・前田利長が築いた高岡城の城下町として栄えたのがいまの高岡市である。前田利長の時代に、鉄器や銅器を殖産興業として発展してきたいきさつがある。その素地が、高岡を中心に富山県内で、タカギセイコーをはじめ、ゴールウイン、ゴリラジャパンなどクラブメーカーを世に生み出した。1972年、練習場用品の製造販売で、その富山市に起業したアース商事。一転、四半世紀前に、クラブへの拘りが高じて生まれた『カムイプロ300』――。それが中条である。 

その拘りは飛距離と方向性。二律背反の機能の融合。四半世紀で培った技術とノウハウ。それが結実したのが『TP-07 NITROGEN』であり、『TP-09S/D』だ。そのモノ造りに中条の神髄が映し出される。

Vol.13 カムイ

神髄一 永遠の命題に丸に近づける

古今東西変わることのない欲求がある。遙か彼方へ、そして真っ直ぐに――。それが使い手の技術云々を超越した永遠の欲望だ。「飛ばなきゃゴルフは面白くありませんよ」――。

四半世紀にわたりモノ造りに真摯に向き合う中条佳一は、何度もそう繰り返した。飛距離に対峙して、方向性を追い求める。無からのモノ造りで、辿り着いたのは丸いフェースだった。

イメージは太鼓の膜。フェースの縦横は、つまりアスペクト比(縦横比)は限りなく1に近づくことが理想である。つまり、フェースは円であることが理想と中条佳一は考える。そんな道具が嘗てあった。異形といわれ憚れた。オリザバの『パワーポッド』がひとつの理想型だった。多くの企業が、それを知りながら、伝統的な形状を好まれるとして、遠ざかった。

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それを伝統的な姿の中に生み出したのが、中条。故のディープヘッド。そこに、低重心比率60%以下、低スピン化、飛ぶボールは捉まるボールということを命題に、ユーザーに応じて重心位置を変更できる重量調整機能を備えた。

その道すがら、規則に翻弄されながら、しかし、勇敢に戦ってきた。そして辿り着いた境地に、中条のモノ造りが収斂される。その物語が始まる。

神髄二 翻弄されたゆえに辿り着いた術

中条の十八番ともいえる窒素ガス注入ヘッド。しかし、内圧を高めるガス入りヘッドは往時『カムイプロ320』でお蔵入りになった。製造特許も取得したのに――。同じ富山でプレス業を営む藤堂工業との二人三脚で開発に成功したのだ。しかし、「ルールの総本山であるR&Aからは、"ゴルフの伝統と慣習"にそぐわないとし、不適合クラブの烙印を押されました」

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その後、『カムイプロ320』は、ヘッド内に発泡剤を注入することで内圧を高めることに成功する。その為術は、同社で蓄積され技となり、その後、開発時の打感、打音に活かされている。

ところが2011年、海の向こうで予期せぬ出来事が起きる。米パワービルト社が窒素充填ドライバー『エアフォースワン』を上市。R&Aが公認したのだ。

公認に至る顛末には様々な憶測が飛んだ。ことの根っこには08年1月から施行された反発規制があった。窒素充填ドライバーが公認されたのも、その高反発規制に対する、クラブメーカーへ向けたガス抜きと見られたのだ。

それから3年。この世に生を受けたのが『TP-07NITROGEN』。内部密閉度、内圧ガス注入効果、ガスの種類に思考を巡らせた。「ヘリウムガスの注入も試みました。しかし、比重が軽く、分子量が小さい。つまり、重量調整が難しく、見えない穴からガスが排出する危険性があった」

そもそも内圧を高めるのは何故なのか? 次世代を担う開発担当の中条恭也が静かに口を開いた。

「フェースの反発力を高めるにはフェース厚を薄くすることが最も有効だと当社は考えている。しかし、フェース厚を最薄の1.9mmで拵えると、耐久性に乏しく、凹みや割れを来す。ゆえに、内部にリブを設けるとともに、窒素ガスで高気圧状態を再現したことで、剛性と強度の向上が認められた」――。

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ただし、ヒューマンテストでもロボットテストでも、飛距離は伸びたがヘッドは割れた。フェース素材のせいだった。「やはりゴルフ専用に開発されたDAT55Gを採用すべきだ」

そんな声が社内で響いた。ただ、DAT55Gは高反発時代の申し子ともいわれる素材。だだ、CT値を生産過程で制御することが困難な資性を有する。「フェースを編肉形状に成形し、先の窒素ガスの注入で、規制値内に収めた」

巷間、「ガス発泡ヘッド」と呼ばれるが、実はガスタイプとガス+発泡タイプを選ぶことが可能で、前者は高い金属音の打球音と長く続く余韻。そして高反発並の柔らかな打感で、抜けも捉まりも良いヘッドとして市場で重宝され、後者は静かな打球音にしっかりした打感で、叩きにいっても吹け上がらない弾道のヘッドとしてパワーヒッターの煩方を魅了している。

神髄三 泣き所を武器にチェンジ『TP-09S/D』

Vol.13 カムイ

『カムイプロ』しかり、『TP』しかり、中条が世に生み出すドライバーヘッドはディープフェースでアップライト。世間では、大手クラブメーカーはシャローフェースでクラウンの投影面積が大きく、浅重心のドライバーを上市する。それが一見、潮流となっている。その影響もあってか、『TP-07S』の後継機種として生まれた『TP-09S/D』は、ディープフェース&アップライトの美点を活かしながら、その泣き所を佳処に昇華させていった。

『TP-09S』は、従来『TP-07S』よりフェース高を7mmシャローに。ディープヘッドに戸惑う使い手にも、安堵できる構えに誘う。立ち気味だったライ角も59.5度と寝かせることで、引っ掛ける不安、そして恐怖から解放した。そして、これまでシャローフェースの俗識だったボールの上がりやすさは過多なスピン量と捉え、捉まりすぎる泣き所を、ディープバックに姿を調えることで、最適なボールの回転数を得る。さらに、重心の浅重心化により扱いやすさが向上し、向かい風にも負けない強弾道を追求した。

そして、「カムイ」ならではといわれる打感である。SP-700を冷間鍛造製法で、カップフェース構造を採用した。鍛造編肉フェースを圧縮率の高いプレスで固め、他の適合ヘッドでは味わえない心地良い弾き感を、適合ヘッドで成し得て使い手に提供している。

一方の『TP-09D』は、伝統のディープフェースながらも、構えやすさを徹底的に追い求めた。見た目のフェースアングルを限りなく直線的に拵えることで、目標方向にためらいなく構えられ、捉まりすぎを抑制。そして、ディープヘッドの常識であった球の上がりにくさを、最適重心位置設計によってインパクトロフトを増やし、低ロフトでありながら高弾道を実現した。

そしてフェースへの執念である。『TP-09S』とは異にして、素材は5-3-2-2チタンを採用。冷間鍛造のカップフェースを用いるも、鍛造均一フェースで適合の極限まで薄くしたフェース。芯を外した際の打点のムラを軽減して、打点に関わらず超ソフトな打感を獲得している。

そして各々が欲する弾道を叶えるための重量調整機能。5つの重量物(1.5g、3.5g、5.0g、7.5g、10.0g)の取り合わせで25種の異なる飛び姿を工房に足を運ぶ煩方に供している。

ただ、中条が四半世紀を超えて熱き想いを滾らせてきたのは、やはり飛距離。そこには、中条が手探りで辿り着いた境地があった。

神髄四 音との戦いの末に飛距離が見える

Vol.13 カムイ

『TP-07NITROGEN』や『TP-09S/D』など、中条のドライバーヘッドには、使い手や工房の店主が欲すれば、出荷時に発泡剤注入の有無を選択できる。高い金属音の打球音と長く響く余韻。高反発並みの柔らかい打感。翻って、静かな打球音にソリッドな打感。使い手の好む音色は十人十色。だが、そのサウンドは余所乍ら、飛びに差響く。

ふたたび、中条恭也が静かに口を開いた。

「飛距離を追求していく課程で、打音は低音に近づいていく」――。

音は物体の振動が空気などの振動として伝わって起きるもの。つまり、音は振動であり、その振動はある種のエネルギーでもある。「飛距離の三原則である、ボール初速、打ち出し角、スピン量のうち、ボール初速はインパクト時の衝突エネルギーで発生する。その刹那、音、つまり打音が高ければ振動も大きく、衝突エネルギーではなく、音としてエネルギーが発散されてしまう。逆説的にいえば、音が低ければ振動は少なく、エネルギーは衝突エネルギーに変換される。だから、音の高低はボール初速が上がるひとつの要素であるはず」

そんな研究と四半世紀、夢中で対峙してきた。だから、肌で感じてきた飛距離と打音の因果も汲み取れる知見も積み重ねられてきた。

何も足さない。窒素ガスを注入する。窒素ガスと発泡剤を注入する。そして発泡剤のみ。それぞれに、それぞれの報いと、飛距離からの僅かな隔たりがある。足せば、重くなるのも道理。長い道具に成し得ない。そんな苦悩も浮かび上がる。

だから、飽くなき探究は終わらない。それは音色だけではない。究めることが異なれば、素材もしかり。終わることのない中条の探究心が『TP-07NITROGEN』を、そして『TP-09S/D』をこの世に生みだした。其れこそが中条の、地クラブとしての神髄なのかもしれない。

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Vol.13 中条・カムイ