地クラブの神髄

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Vol.14 MOZ KENMOTSU

2016.05.11

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Vol.14 MOZ KENMOTSU

敢えて騒がず、穏やかに。自ずと合力を求める者が集う釼持ゴルフ用具製作所。匠の技に多くの企業が恃み、美しい景色を創り上げ、黒子としての姿を貫いてきた。四十年の刻を経た匠の技が『MOZ KENMOTSU』を生み出した。その神髄に迫る。

昭和四十八年。世界経済を混乱に巻き込んだ第一次石油危機。原油価格は四倍に狂騰した。同年、創業したのが釼持ゴルフ用具製作所。

先代の生業はブロイラーの大量飼育、オイルショックで下火となった。此処から四十年、釼持ゴルフ用具製作所は研磨に身命を賭してきた。ダンロップや関西ゴルフらを初め、大小問わず、技を練り、日本のものづくりを研磨で支えてきた。ただ、求められるが如く。ゆえに、鍛え上げられてきた技は、匠の域へ昇華した。その釼持ゴルフ用具製作所が『MOZ』を蘇らせる。銘は『MOZ KENMOTSU』。磨かれた技に地クラブの神髄が宿っていた。

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神髄一 継承に非ず新たなる標

『MOZ』は元来、一九九六年、国内外の一流ツアープロのアイアンヘッド制作に手を貸していた石原久幸氏が「夢考房・石原ゴルフ」を興し、三十余年磨いてきた業を止処なく注ぎ込んだブランドだった。当時、プロと同じく顧客からの注文に合わせ、石原氏自身が一本一本研磨し、細部にわたり数値まで要望どおりに設えた工房のオーダーメイドクラブだった。

ところが、二〇〇六年、同氏が逝去。その後、二〇一〇年に商標のみを釼持ゴルフ用具製作所の釼持教夫が継承した。だが、新生『MOZ KENMOTSU』は、往時の『MOZ』の血脈も型も踏襲していない。即ち、『MOZ KENMOTSU』は釼持ゴルフ用具製作所、そして釼持教夫の技を引き継ぐ釼持博之が世に問う銘である。

「これまで請負に徹してきました。求められた型を再現するためだけでしたが・・・・。だから、蓄えられた技があります。その賜が『MOZ KENMOTSU』」――。

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四十年――。   ひたすらに依頼主の欲した形を創ってきた。無理難題も求められた。その多くが生き延びる為だった。「幾度も辞めようと思いました」――。   末席で禄を食む者だけが、知る悲哀。受け身故に依頼主に変事があると、即在に立ち行かなくなる。だからといって、裏方から表舞台へ躍り出るわけではない。尋ね来る学生らに『MOZ KENMOTSU』を一本一本削り、彼らの全国区での活躍が、日の当たる場所への一歩を後押しした。

「工房に広めたい」   形だけを造ってきた黒子の技術が、有名ブランドの銘を持たずしても、ひとつの拠り処を得た刹那でもある。

「新たな出逢いもあった」   釼持ゴルフ用具製作所に、売り手はいない。そこに販売を肩代わりする女房役も現れた。ここから新たな『MOZ KENMOTSU』の神髄が始まる。

神髄二 顔は懐 性格は底に

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釼持の業は、その削りと形出し、そしてそのプロセスにあると云われている、ウエッジやアイアンの鉄物は、たいていの場合、粗鍛造ヘッドのバリを取り除きスコアラインを入れ、目方合わせが第一の工程とされる。例えば、約370gの粗鍛造ヘッドは330g程度まで一気に機械加工で目方を落とし、そこから形を造りながら、300g前後に目方を合わせていく。しかし釼持は目方合わせを真っ先に行わない。スコアラインも先に入れない。釼持が手をつけるのは、先ず形出し。

「何はさておき、さしあたっての形を創らなければ、最終的な形状で個々のヘッドの顔や底が不揃いになる。粗鍛造ヘッドは形状がバラバラ。目方は、ひとまずの形が出来たところから形を変えずにダウンサイズしていくことで、合わせていくことができる」

先に重量を一気に落とせば、求められる形状に研磨できないことも。あちらこちらで見られる。換言すれば、一度削ったものは戻らないから、不揃いになる。そして、その顔。釼持教夫は、懐が命だと幾度も口にした。

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「ネックからフェースへの繋がり。構えやすくなるのも。構えにくくなるのも、捉まるのも。逃がすのも、この懐で決まる」

ネックの形状とスコアラインまでの領域。その高さ、ネックの絞り込み具合など諸々が懐を創る。その昔、ダンロップのそれは、ヒールが高く、ネックはストレート。懐が高いと云われた。一方のBSのそれは、ネックがぐーすで絞り込む形状。懐は狭いと云われた。

懐の些細な差異を、研磨で十人十色の佇まいに成す業は、零細ゆえに編み出した秘技。「貧乏ゆえに、金型ひとつで無限の姿を納めなければならなかったからです」

辛苦が創意工夫を余儀なくさせ、腕を磨かせる。それは、機能、つまりウエッジの性格は底に宿るというひとつの確信に辿り着いた。「懐が創りあげる顔は、球の捉まり方や飛球の姿を想起させ、それを加勢するのが底であるソール。ウエッジの性格そのもので、その形に恃むところは大きい」

ソールの形状により、ウエッジはやさしくもなり、難しくもなる。顔は懐、性格は底――。其れを成し得る物の具にも、釼持は他者から逸脱している。

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神髄三 四種の紙鑢 剛柔の回転盤

懐と底を削る業は刻を経て研いてきた。そこに、それを成すに相応しい道具が調えられている。それが研磨機、いわゆるグラインダー。その紙鑢と剛柔の回転盤だ。

「粗さの異なる四種類の紙鑢が主。それを工程毎に使い分けるが、それぞれの切れ味は鋭く、その切れ味は何時も変わらない。お代は並みの四倍」

日本企業の代物ではなく、船来の3M社製。日本製は特許が覆い被さり性能的に見劣りするという。それに対し、シャープな切れ味が変わらず、均等に仕上がる。ゆえに、目方合わせを行うことなく、形出しをして、整えながら形を崩すことなく、目方合わせが成せる。感覚だけで0.1gを削る業を支えるグラインダーが九台、そしてバフ研磨機が六台。加えて、匠の技を活かす回転盤が肝心要の物の具。

「すべての研磨は、回転盤の柔らかさ、硬さに拠って、そして、押し付ける強さで、創ることができる姿が違う紙鑢と回転盤の組み合わせこそが、経験の成せる技でしょう」

紙鑢と回転盤。そこに職人の手の加減――。四十年の歴史は伊達ではない。ただ、下請けとして、依頼主の無理難題に応えてきた積日の賜が、技能の向上に繋がり、さらに柔らかい発想にも寄与する。

その業、物の具を操る所業は一瞬の勝負。「研磨作業中は、無心。培った経験と目で、集中して一気に行う。あれこれ戸惑う事なく」――。

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量産品でも一品物でも、無の境地で手の感触、火花の色、音、そして変わりゆく姿に投入する。「だから、クラブの研磨は身を削る作業。一日四~五時間作業すれば、腕は上がらない」

しかし、それがこれまで生きてきた道。そして、これからも生きていく道。四十年の黒子の歴史で、返品はゼロ。その業は釼持教夫から釼持博之に受け継がれ、その生きていく証のひとつが『MOZ KENMOTSU』――。

故・石原久幸の血脈も踏襲していない。しかし、研磨一筋に半生を注ぎ込んだ親父・釼持教夫の目、業は体中に染み込んでいる。釼持博之が賭ける『MOZ KENMOTSU』とは――。

神髄四 長く愛でられる女優の如く

藪から棒であった。

「クラブは男性か? それとも女性か?」その禅問答ともいえる問いに、釼持博之は躊躇なく、女性だと返した。そして、『MOZ KENMOTSU』はと尋ねると、「深田恭子のような、齢を重ねても味がある。使い込んでも飽きのこない、顔と性格の、つまり懐とソールを持つウエッジ」と言い表した。

尖ってもなく、それでいてぼやけてもなく。『MOZ KENMOTSU』の懐は極端ではなく、それでいてヒールの高さは低くシャープに見える。シャフトからネック、そしてフェースまでの繋がりが滑らかで、円転自在に構えに誘う。懐からの立ち上がりはなだらかで、包み込む姿をイメージさせる。換言すれば、万人に好まれる顔。そして性格は、やさしさが滲み出る幅の広いダブルバウンス。ヒール側の肉を削ぎ落として開閉を自由にさせ、日本の芝に合わせトレーディングエッジに微妙な丸みを帯びさせてきた。顔はシャープに、ソールはやさしく。物腰柔らかい女優のように――。

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その『MOZ KENMOTSU』は、クラブにこだわる煩方が集う工房を中心に展開される。「トップアマに使ってもらったからこそ、『MOZ KENMOTSU』を広めたいと思った。だから、トップアマに長きに愛されるクラブに育てたい。我々は研磨職人に過ぎないし、丁寧な仕事は当たり前だが、儲かる生業でもない。だけど、『MOZ KENMOTSU』はひとつの大きな挑戦なのです」

『MOZ KENMOTSU』は、これまでと同じように、新たに金型を作らずに形を創ってきた釼持ゴルフ用具製作所の結晶でもある。「ひとつのモデルを十年間、変わることなく依頼主に納めてきたことがある。齢を重ねないクラブを創ってきた自負もあります」

発売サイクルの短期化、価格競争の激化から疲弊するクラブ市場。そこからの脱却が、少量付加価値商材の地クラブ市場。そこで十年――。

一人の男が半生を注ぎ込んだ業は、常に向上して老いはしない。だからこそ、創られたクラブはいつの時代も瑞々しさを醸し出す。引き継がれた『KENMOTSU』の新たな扉が、『MOZ KENMOTSU』によっていま開かれようとしている。

Vol.14 MOZ KENMOTSU

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