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家族3人で転戦。女子プロゴルファーの新しい家族スタイルを形にした茂木宏美

 2017/08/29 遠藤淳子の「女子プロ列伝」
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茂木宏美

月刊ゴルフ用品界2014年10月号掲載
なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。


「俺が母親になるから、父親になって」――こんな言葉をパートナーからもらったら、バリバリと働く女性はみな歓喜するに違いない。反面、子供の成長につれて、父子の絆ばかりが強くなることに、複雑な思いを抱くことにもなるはずだ。

まるで、子育てを妻に任せて仕事に精を出す一般の父親のように‥‥。

実際、夫からこんな言葉をかけられたのは、日本女子ツアー6勝の茂木宏美。2010年10月に結婚した窪田大輔氏は元スノーボーダーで、現在はマネージャーも務めている。同時に、家事なども一手に引き受けることで支えてきた。

そんな2人は今、小さなもう一人の家族を連れて転戦を続けている。2月12日に誕生した長女、和奏(わかな)ちゃん。窪田氏に抱かれ、女子プロやツアー関係者たちにいつも取り囲まれている人気者だ。

妻が働き、夫が支える。古臭い日本の因習にとらわれることなく、ごく自然に2人は力を合わせ、茂木は日本ツアーのトッププレーヤーの一人となっていた。

カップルにおける男と女の役割分担は本人たち次第。だが、一つだけ、どうしても女にしかできないのが出産だ。男がどんなに頑張っても、これだけは代われない。長期の休養を余儀なくされ、体に変化をもたらす出産は、女性アスリートにとってリスクが伴うものでもある。それでも子供を育て、一緒に歩んでいきたいと思うのは、ごく自然な気持ちに違いない。

日本の現実は、まだまだ厳しい。女子ツアーにもも産休制度はある。それでも肉体的変化に対応し、ブランクを乗り越えるのはもちろん本人の責任だ。葛藤しているうちに年齢を重ねてしまう女性アスリートは少なくない。特にゴルフはプレーできる期間が長い分、人生への影響も大きい。

33歳で結婚した頃、茂木はまだ「いつかは子供が欲しい」と漠然と考えていた。尊敬し、あこがれる大先輩、塩谷育代が第一子を出産したのが36歳だったということは意識していたが‥‥。

子供を持つことへの思いは、すぐにもっと強いものになった。結婚後、初めて迎える2011年のシーズンを前に、話し合った夫妻は「メジャー(公式戦)タイトルを獲って子供が欲しい」という大目標をたてその準備に取りかかった。

ゴルフは順調で、2011年は1勝で賞金ランキング20位。2012年は未勝利だったが安定した成績で、ランキング16位と、毎年、ステップアップした。

ピンクのゴルフノート

こうしてゴルフと私生活の二本の目標に向かって頑張りながら、茂木は毎日、記録をつけ始めた。ピンクの表紙に『2011年~ひろみゴルフノート』と書かれた一冊。妊娠するだいぶ前から出産、そして復帰を見据え、あらゆることが書き込まれている。

オフを経て臨む開幕戦では毎年、緊張して体が硬くなるのに、産休で約9か月もツアーを離れた後「緊張してひどいことになるだろう」と想定。朝起きてからの支度、コースでのキャディと一部始終。練習、ラウンドだけでなく、何から何まで記されている。

練習日、プロアマ日、本戦日。それぞれ違うルーティンを書き、その時に備えた。

2013年5月、茂木はワールドレディスサロンパスカップで佐伯三貴、森田理香子、リディア・コらを向こうに回して公式戦初優勝。前後して妊娠したことが発覚した。目標の1つをまず達成し、出産という人生の大仕事に向けてもスタートを切ったのだ。

9月の日本女子オープンを最後に産休に入ったが、その間も早い復帰を目指し、体調管理に気を配って過ごした。3480gの和奏ちゃんを出産した時は、ちょうど37歳。先輩だった塩谷とほぼ1年しか違わなかった。  

出産の喜び、赤ちゃんのいる忙しくも幸せな時間にどっぷりと浸る間もなく、すぐに復帰への準備が始まった。2週間後には散歩を開始。1か月後にはトレーニング、時を同じくしてボールを打ち始めたが、股関節が硬くなっているのが気になった。

思うような球が打てず、くじけそうになったこともあったが、そんな時、支えになったのが夫と娘、そしてピンクのノートだった。出産後、初のラウンドを前に緊張した時、ページをめくると流れがわかって落ち着いた。ノートを広げるだけで「ああ、こうやればいいんだな」と落ち着いた。

妻がゴルフで稼ぐ

出産から4か月後。6月のアース・モンダミンカップは、自らのスポンサーの試合でもある。ここを復帰戦と決めて努力した。家族、師匠、トレーナー、キャディ。周囲の人々の協力のもと、無事、復帰戦に登場したときには、産休前より少しだけ柔らかい表情で、再びその舞台に立てる喜びに満ちた茂木がいた。

そうは言っても、試合に臨むには、優しい母の顔はむしろ邪魔になる。茂木は家族の稼ぎ頭だ。夫から冒頭の言葉をかけられたのは、まさにこの頃だった。これを聞いて茂木も覚悟を決めた。

「私たちには私たちのスタイルがある。家族が一番だけど、私がゴルフを一番にすることが家族のため」と、和奏ちゃんと過ごす優しい時間とは気持ちを切り替えて、ゴルフに専念することにした。

妻がゴルフで稼ぎ、夫がこれを支えるという道を選んだ2人が、改めて腹をくくり、お互いの役割を確認し、歩み始めたと言い換えてもいいだろう。

「娘が何かを感じてくれる年齢になるまではゴルフを続けたい」というのが現在の茂木の目標だ。塩谷は出産後に3勝しているが、もちろん、茂木の視野にもこの数字は入っているに違いない。

自分同様、プロゴルファーと母の2つ道を求める後輩がいれば『ひろみゴルフノート』を参考にアドバイスを送る気持ちも強い。

自分の道は自分で切り開くもの。この当たり前のようで、実践するのは難しいことを、茂木は見事に成し遂げている。周囲との調和も上手にとりながら、自然体でいる。

和奏ちゃんの存在が、ツアーで迷惑をかけないようにという気遣いもしている夫妻だが、むしろその存在は、周囲を和ませている。それを見て「自分もあんな風になりたい」と言った若いプロも何人もいる。

人に言えない努力や忍耐があるに違いないが、それを笑顔で乗り越えてプレーする姿は、人々に勇気を与えてくれる。それが復活優勝なら最高だ。

■母親記者「淳子目線」

和奏ちゃんを中心にした笑顔の輪。女子ツアー会場で、こんな光景が当たり前になればいい。出産後に活躍している選手はまだまだ少ない。各自の努力はさておき、ツアーもそれをサポートする環境をつくるべきだ。

生涯スポーツのゴルフと、働く女性。女子ツアーはその2つの“広告塔”という面を持っている。子連れ参戦が増えることは、ツアーにとっても存在をアピールするメリットがある。

20年以上前から託児システムが定着している米女子ツアーに比べ、日本の環境は進化していない。だが、幸せそうな家族の姿にツアーでの輝く選手の姿が加われば、ここに一石を投じることができる。茂木宏美とその家族には、そのパワーが感じられる。

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ライター紹介 ライター一覧

遠藤 淳子

遠藤 淳子

フリーライター。都立三鷹高校→日本大学文理学部社会学科卒。東京スポーツで10年間、ゴルフ担当記者としてメジャーを始め日米欧男女各のトーナメントを取材。1999年4月よりフリーランスとして執筆を続けている。

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