1. ゴルフ界・2つの「2020年問題」(上)

ゴルフ界・2つの「2020年問題」(上)

 2017/11/28 小川朗の「現場を照らす」 
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月刊ゴルフ用品界2016年8月号掲載
なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。

ゴルフ業界には、2つの「2020年問題」が横たわっている。東京五輪のメダル獲得ももちろん大事だが、この年、実は教育界にも大きな山がある。底辺拡大のために必要な義務教育にゴルフを取り入れるためのハードル、学習指導要領の改訂だ。この機会を逃すと、次の改訂は2030年。小学生が1度でもゴルフを経験するようになるチャンスは、10年に1度しかない。ある意味五輪でメダルを取るより大きな意味を持つからだ。

【206年7月4日 東京都千代田区・霞が関ナレッジスクエア】
「日本と韓国の違い‥‥。韓国は家族への愛と、国を思う気持ちがものすごく強いんです」。この日開催された日本ゴルフジャーナリスト協会(JGJA)のタウンミーティングに登壇し、こう語ってくれたのは金愛淑(キム・エースク)さんだった。

金さんは1980年代のなかば、20歳の時に来日して以来、日本のプロゴルフ界を韓国人選手の立場から、つぶさに見てきた。当時、日本のトッププレーヤーたちは人気、実力とも世界の頂点を狙えるレベルにあった。男子はAONと呼ばれる青木功、尾崎将司、中島常幸、女子は岡本綾子‥‥。メジャーの最終日最終組に日本人がいる状況は決して珍しくなく、優勝という言葉はすぐそこにあるように見えていた。

しかし1999年、JGTOがPGAから分離独立したクーデター騒動は、スポンサー離れに拍車をかけた。視聴率も低下する負のスパイラルに陥り、坂道を転げ落ちるように日本ゴルフ界は凋落した。その後は完全に世界から取り残されてしまった。

一方、韓国は1988年に具玉姫が米ツアー初優勝を演じた後、実にスムーズな形で世代交代を続けながらレベルアップしてきた。「1998年に朴セリが全米女子オープンに勝った時、当時10歳前後だった申ジエ、イ・ボミ、チェ・ナヨンらが、第2の朴を夢見て育ったんです。

さらに申・ジエが2009年に米ツアーの賞金女王になると、その姿を自分にだぶらせたキム・ヒョージュ、チェ・インジらが育ってきた」(金さん)。韓国の選手層は分厚さを増すばかりで、世界の勢力図を完全に塗り替えた感がある。

日韓の差は教育環境の差

そこで両国の選手育成事情にも精通している金さんに、日韓ゴルフ界の違いを語ってもらおうというのが狙いだった。幸いにしてこのミーティングの司会を仰せつかったため、積極的にこの話題を振らせてもらった。

その結果明らかになったのは、時期を同じくして両国の教育界とゴルフ界の協力体制に大きな差が生じたことだ。朴セリより1歳上で、6月のサントリーレディースでも優勝を飾ったカン・スーヨンは、ゴルフを始めた小学生時代、学校に申請すると、午後の授業免除が簡単に認められている。

「ゴルフは練習に時間がかかるスポーツです。中学生でも、小学生でも、1日2000個のボールを打ちますから、学校も多めに見てくれるんです」(金さん)

ひるがえって、日本はどうか。現在プロとして現役で活躍している選手に小学生時代がどうであったかと聞くと、韓国との差が浮き彫りになる。学校からのバックアップはゼロに等しい。しかもクラスメートからは一人だけ遠征に行ったりして休むため、特別な存在として見られる。これがクラス内での孤立を生み、いじめにあう。そうした経験をした選手は少なくない。

親の立ち位置も、日韓両国を比較すると決定的に違う。「韓国では親は口を出すけど、ゴルフはプロが教えます。最高のエリートを育てるためには、専門家に任せるべきですから。

家族はそれを、一緒に見守っていくんです。そういう環境で、韓国の選手は死ぬほど練習しますね。死ぬほど」。ジュニア育成の段階から、日韓の間には明らかな差が開いていた。

学習指導要領に取り上げられた新種目

【7月5日、文部科学省】
日本のジュニアがいじめにあう根源的な原因が、クラスメートにゴルフ経験がほとんどないこと。それならばなおさら、教育現場へのゴルフ導入を願わずにはいられない。

体育の授業にゴルフが組み入れられるためには、どうしたらいいのか。次の指導要領は、平成32年、すなわち2020年に改訂されるという。

そこで文科省に聞いてみると、担当者からは意外な答えが返ってきた。「基本的に学校体育の中に新たなスポーツを組み入れる場合、現場の方から上がって来て、検討される流れなんです。

だからたとえばメーカーさんがスポーツで使用する物品などを学校に寄付して、それを使った授業のモデルを教師に作ってもらう。

教師たちがその競技の研究会を立ち上げて、体育の授業の実践例を積み上げていく。それが広がっていけば、実績に応じて検討していくことになるでしょう」

このパターンの成功例として広く知られているのが「フラッグフットボール」だ。アメリカンフットボールが原型だが、タックルの代わりに両腰に挟んだ「フラッグ」を奪うことからこの名がついた。

メーカー側がフラッグやボールなどを学校に寄付し、運動の苦手な子でも作戦段階から参加できるため急速に普及。2011年の学習指導要領にも取り上げられた。

ゴルフも運動が苦手な子供が取り組めるスポーツだ。まずはメーカー側が学校に寄付し、教師に対し積極的にアプローチしていくことが大事なのは間違いない。

ゆる~くゴルフを始めよう

【7月5日、武蔵野美術大学】
この日、東京都小平市にある武蔵野美術大学では、北徹郎准教授が受け持つ授業の、前期最終講義が行われていた。

90×100メートルの人工芝グラウンドに設けられた6ホールのコースを、アイアン1本で回る。小雨が降るあいにくのコンディションながら、学生たちは実に楽しそうに〝ラウンド〟していた。

ほとんどが初心者だが、家族にはゴルファーがいるケースも多い。

「おじいちゃんに誘われて、一度打ちっぱなしに行ったら楽しかったから」「4人家族で僕だけゴルフをしていなかったから、そろそろ始めようと思って」と生徒たちはゴルフの授業を選択した動機を明かしてくれた。

選択科目の中でも、ゴルフの人気は高く、常に抽選になるという。志望理由の多くは「初めてやるスポーツだから」。確かに野球、サッカーなど普及率の高いスポーツは経験者と初心者の差が著しい。

「ゆる~く」やるにはちょうどいい、という感じなのだ。この形が、小学校まで一貫して降りて行けば、ゴルフ界の将来は明るい。そう思わずにはいられなかった。

次回はもう一つの2020年問題、東京オリンピックの選手強化に光を当てる。

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小川 朗

小川 朗

1960年山梨県甲府市生まれ。甲府一高→日大芸術卒。82年東スポ入社。「世界一速いゴルフ速報」の海外特派員として男女のメジャー大会など通算300試合以上を取材。同社で運動部長、文化部長、広告局長を歴任後今年9月に退社。


フリージャーナリストとして本誌を始め、週刊誌、ニュースサイトなど各方面に執筆中。㈱清流舎代表取締役COO。東京運動記者クラブ会友。日本ゴルフジャーナリスト協会副会長。


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