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第39回 セントアンドリュースで耳にした気になる言葉

エイジシュート21回の塩じいが語る 塩田正

20年ほど前、夏になるとスコットランドのセントアンドリュースを中心にゴルフの旅を楽しんでいた。

そんなある日、R&Aの要人をオールドコースのクラブハウスに訪ねた。クラブハウスのバルコニーに備え付けられていた望遠鏡を覗いていたら、その人が「時々、その望遠鏡で、プレーヤーの動きを見ています。日本から来られた方も目に入ります。みなさんお上手ですよ」とにこやかに話してくれたが、「でも、時々日本のゴルファーは、我々のゴルフとは違うゴルフをしているという話も聞きますよ」と語りかけてきた。振り返ると彼は穏やかな眼をこちらへ向けながら、電話のベルの音でデスクへ歩を進めているところであった。

後で、この言葉が気になっていたので、現地で親しくなったプロにそっと聞いてみた。

それによると「当時、日本の皆さんの中には、フェアウェーにあるボールをピックアップして、置き直す人がいるという声があったのです。それが彼の耳にも入っていたのではないですか」という返事が戻ってきた。

日本人とスコットランド人の違い

ゴルフでは昔から〝ウィンタールール〟というローカルルールがあった。寒さで地面が凍りついていたり、長雨が続いたり、あるいは、乾燥して、芝が弱ったりしている時には、6インチかワンクラブレングスのプレースが許され、それがクラブハウスに張り出されていた。

また昭和30年代から40年代にかけては、ゴルフブームの影響で新設のコースが増え、オープン後1年くらいまでは、芝の保護のために、ワンクラブレングスのプレースというルールを採用していたところがほとんどだった。

そしてその後も、芝の保護を名目にして、このローカルルールの出番は少なからずあった。寒冷の冬、夏の猛暑、梅雨時の長雨など、さらにアップダウンの多い地形などの芝への影響については、コース管理者がいつも心を砕いていた。ウィンタールールの発動回数が増えるのも当然であった。

そしていつの間にかインプレーのボールを拾い上げることに、ある種の慣れを感じてしまった人たちがいたのも確かだ。

こうした背景があって、球を拾い上げて置き直すというルール違反に対して、それほど重大なことではないという潜在意識が、あるいは日本のゴルファーの間に広まっていったと考えられる。

ではどうしてスコットランドの人たちから、このルール違反に「違うゴルフをしている」とまで酷評されてしまうのか。

それはスコットランドでゴルフが始まった頃から、スコットランド人には、どうしても守らなければならない不文律があったからだ。そしてこの不文律は、今も彼らのプレーの中に生き続けているのである。

その不文律とは「ボールはあるがまま打て」(Play the ball as it lies)という言葉である。

この言葉は、ゴルフ規則としてスコットランドで最初に制定された13条のルール(1754年)が作られる前から、プレーヤーの間で絶対に犯してはならない掟として存在していたのだ。

「北方のスパルタ人」

ゴルフの歴史研究で名高い摂津茂和さんは、そのへんの事情を「1964ゴルフ年鑑」(ベースボールマガジン社)で次のように解説している。少し長いが引用させていただくことにする。

「この規定はいかにも峻厳過酷に思われるが、自然を対象とし相手よりもむしろ自然と戦うことを本質的な目標とするゴルフで、もし自由にボールに手をふれることを許せば、もはやその意義がなくなるわけである。それとともに、自然の困難と闘って、克己の精神を養うことが、当時北方のスパルタ人と言われたスコットランド人の目的であったといわれるが、このためボールが、たとえいかに困難な状態になっても、なんらの例外処置もみとめずに、あくまで打つか、さもなければいさぎよくそのホールを放棄(筆者註=当時はマッチプレーのみ)しなければならなかったのである」

ティーから打たれたボールは、ホールアウトするまで絶対に手を触れてはならないという背景には、勇猛果敢なスコットランド人の国民性があったと摂津さんは分析している。

その人たちが日本人のボールをピックアップするゴルフを受け容れられないというのは、当然といっていいかもしれない。

ボールを拾い上げている日本人を見れば、違うゴルフをしていると思われても仕方がなかったのである。

摂津茂和さんは自著「ゴルフ名言集」(鶴書房)で
「ゲーム精神が旺盛であれば、ゴルフ規則は不要である」
と、アメリカゴルフ協会初代副会長チャールズ・マクドナルドの言葉を採り上げている。

その中で、アメリカでもゴルフが行われていた初期には「ボールはあるがまま打て」というゴルフの伝統精神が身につかず、各ゴルフクラブは、ローカルルールでボールのプレースを許す条項を作ったりしていた時代があったといっている。

スコットランドでゴルフを習得したマクドナルドは、自ら範を示すためにいかなる場合も、伝統精神であるボールには一切手を触れず、あるがまま打って、終生これを実行したと同書で伝えている。

どんな事情があれ、ゴルフの根幹にある「あるがまま」の大原則を頭に入れて、いさぎよいゴルフを心掛けてプレーしたいと思う。


この記事は弊誌月刊ゴルフ用品界(GEW)2020年9月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。

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ライター紹介 ライター一覧

塩田正

塩田正

昭和7年、千葉県生まれ。昭和31年東京教育大学(現筑波大学)体育学部卒業。体育心理学専攻。同年(株)ベースボールマガジン社入社。ゴルフマガジン誌編集長を経て独立。会社役員、短大講師を兼ねながらゴルフライターとして活躍。

最高のハンディは5。現在は14。ベストスコア69。アルバトロス1回。ホールインワン4回。エージシュート21回(平成29年1月現在)。著書「ゴルフ“死ぬまで”上達するヒント」(ゴルフダイジェスト社)ほか多数。日本ゴルフジャーナリスト協会顧問。

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