先頃、最年少で選手会長に選ばれた石川遼がしみじみと話した。
「『エピック』の発売から1年後、これを超えなきゃ意味がないというキャッチフレーズで発表された『ローグ』ですが、(商品開発は)本当に厳しい世界だと思います。試打の数字面だけではなく、選手にいいフィーリングを与えてくれる。素晴らしい製品になってますね」
開発の苦労に思いを馳せて、大人のコメントを披露した。
キャロウェイゴルフは1月9日、新製品発表会を都内の展示会場で開催した。登壇者は石川遼、上田桃子、深堀圭一郎の3選手で、冒頭のコメントはその時のもの。昨年末から噂にはなっていたが、この日、ついにヴェールを脱いだ。
新製品は2月23日から順次発売される『ROGUE(ローグ)』シリーズで、『ローグ』には反逆者、荒くれ者などの意味があるという。転じて「ワルかっこいい」とのニュアンスを込めて、市場に一石を投じる構え。ドライバーは『GBB EPIC(エピック)』の発売から1年後、アイアンは7ヶ月後という短サイクルだ。
米本社のチップ・ブリューワーCEOは、ビデオレターでこう話した。
「当社には長期債務がありません。利益を積極的に再投資できる体質であり、今回の新製品にも様々な機能を盛り込みました」
『ローグ』の特徴はフェース面裏側に装着された「2本の柱」、ジェイルブレイクの継承と進化で、やさしくボールを拾えてハイドローで飛ばせるところにあるという。
ドライバーは日本仕様の『スター』と限定モデルの『スタンダード』及び『サブゼロ』の3機種、その他フェアウェイウッド、ユーティリティ、アイアン(2機種)、レディスモデルの総合展開となる。
ローグはエピックと別物
『ローグ』のキャッチフレーズは「『エピック』を超えろ」というものだけに、その後継機種と見られていたが、実際には別系統のモデルだという。同社がこれまで行ってきた商品サイクルを踏襲すれば、今年は『XR』の発売年になるはずだが、これを見送って『ローグ』の投入に踏み切った。
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『エピック』は『GBB』(グレートビッグバーサ)の系統だが、『ローグ』はその系統に属さない単独ブランドの位置づけとなる。つまり、今後『XR』は隔年発売のサイクルから外れ、限定モデルとしてスポット的に発売されることも考えられる。『エピック』と『ローグ』を二枚看板とし、『XR』は市況に合わせて臨機応変に登場するピンチヒッター。そんな役割を担う可能性もある。庄司明久副社長の説明を聞こう。
「『XR』の位置づけはコメントを控えますが、『ローグ』は『エピック』の後継モデルではなく、独立した新製品であることを強調したいですね。ジェイルブレイクを継承していること、あるいは『エピックを超えろ』と訴求していることから、『エピック』の後継機種と思われるかもしれませんが、まったく違います。
『エピック』は中上級者向けに一番飛ぶクラブを目指して発売し、想像以上に売れましたが、スペック的にカバーできないアベレージ層もいたわけです。そこで、さらに幅広いゴルファーに対応すべく『ローグ』の立ち上げとなったのです」
同氏が殊更に「別系統」を強調するにはワケがある。それは、二枚看板の隔年発売を鮮明に打ち出したいからだ。
かつて、多くのメーカーが複数のブランドを展開していたが、現在は「2ブランド政策」に切り替えている。代表的なのが『ゼクシオ』と『スリクソン』を交互に発売する住友ゴム工業(ダンロップスポーツ)で、『ツアーワールド』と『ビジール』の本間ゴルフも同様だ。
ひとつの機種を毎年モデルチェンジすると「新味」が出ない。そこで、商品サイクルを2年間に設定するわけだが、2年目は売上が大幅に落ちる。これをカバーするために別のブランドを立ち上げて、双方の隔年発売で収益の安定化を図る試み。その先鞭をつけたのが高価格帯のアベレージモデル『ゼクシオ』と、松山英樹を起用するアスリートモデルの『スリクソン』で、2年目の落ち込みを克服。以後、業界では「2ブランド政策」が定着している。
今回の『ローグ』も同様で、『エピック』との隔年発売で経営の安定化を図る狙いがある。庄司副社長が「まったく別」と強調するのはそのためだ。
同社にとって最大の懸念は、『ローグ』が『エピック』の後継モデルと思われることだろう。そのような印象を与えると、両者が自社競合を起こしかねず、「2ブランド政策」が揺らぐ可能性もあるからだ。
「両モデルはまったく違います。たしかに『ローグ』はジェイルブレイクを踏襲していますが、開発面でも様々な進化を実現しており、幅広い層に対応できる商品に仕上がりました」(庄司副社長)
ローグの印象
実際にはどうなのか。ティーチングプロでフィッターの関雅史氏に試打の印象を聞いてみた。
「『ローグ』は『エピック』のマイナーチェンジか? いえ、まったく別のクラブといえますね。特に『ローグ』のドライバーは低スピンの高弾道で、球が前に伸びていく力強さがあります。
特に違うのは打音ですよ。『ローグ』は『エピック』よりも低いしっかりした音になっており、想像ですが、カーボンクラウンの接着法やソールデザインの工夫によって『エピック』とは異なる音を実現したのではないか。ですから、『エピック』とはまったくの別モデルとして成立すると思いますね」
記者も試打でハイドローを実感
そこで筆者も『ローグ』のドライバー、FW、UT、アイアンの順に試打してみた。まず、ドライバーだが、『GBB EPIC』と比べると、キャロウェイの説明にあった通り、クラウンがトウ&ヒール方向に長く、後方にも広がったワイドボディ感がある。それと『GBB EPIC』よりも明らかにシャローフェースになっているので、構えた時にフェースが見えてボールが上がりそうな印象もある。
実際に打ってみると、ボールのつかまりがいい。特に、ヒール側に約2gのソールウェイトを装着したドローバイアス設計の『ローグ スター』だと、ダウンスイングでフェースローテーションが強いから、自分でボールをつかまえにいかなくても自然とボールがつかまる。一般的に慣性モーメントが大きいヘッドだとフェースが一度開くと戻すのが難しく、そのまま右にすっぽ抜けることが多いが、『ローグ スター』はフェースが戻ってくるのでプッシュアウトが出にくい。最適重量配分設計がこの辺りに出ているのか。いずれにしろ、フェースの開き癖があるスライサーは一度試すべきかもしれない。
あと、今回はFWとUTにも「2本の柱」を搭載したが、とにかく弾きがいい。特に、UTは想像以上のハイドロ―が出た。一般的にUTは、ボールがつかまり過ぎるとド引っ掛けで大きなミスにつながりやすいクラブだが、『ローグ』のUTはフェースが被り過ぎないので打ち出しが高く、ラインも左へずれ難い。スライサーにもいいと思うが、フェースが被って左へ低く巻き込んでしまうようなミスが出やすい人にもいいかもしれない。
そして、最後にアイアンだが、とにかく見た目からして「飛び系」だ。7番でロフト27度のストロングロフト。さすがに、やさしさと安心感を求めるゴルファー向けなのでマッスルやセミキャビティを好むユーザーは対象外になるだろうが、とにかく飛ぶ。7番で190ヤードが出た。ただ、一般的にフェース薄めでちょっと硬さが手に残る「飛び系」に比べると、フィーリングがソフト。フェースの裏にウレタンを入れていることが手応えのある打感につながっているとのこと。腕前に関係なく、「アイアンは打感が一番」とフィーリングを追求するゴルファーには、一度打ってほしいモデルだ。
キャロウェイ開発担当者に聞く
では、具体的にどのような工夫が凝らされているのか。このあたりの詳細を同社開発担当の寺門広樹シニアマネージャーに聞いてみた。以下、一問一答で要約しよう。
『ローグ』で採用した「ジェイルブレイク」は『エピック』の進化版ということだが、その内容を具体的に。
「大きな特徴は『2本の柱』の形状です。『ローグ』の柱は中央部を削った砂時計型で、これにより柱部分の重さを25%軽減できました。軽量化を目指したのは、『ローグ』は『エピック』よりもやさしいデザインを目指したためで、シャローフェースで投影面積を大きく見せることが必要だった。これによってアドレス時に安心感が得られるでしょう。
それと、『エピック』はクラウンとソールがカーボンですが、『ローグ』はカーボンクラウンにチタンソールの組み合わせです。チタンのほうがカーボンよりも重いので、その分、他の部分での軽量化が必要でした」
進化したジェイルブレイクは何g軽量化しているのか。
「1本の柱について0.75g軽くしたので、2本で1.5gです。これに加えて、フェースの中央部と周辺部の厚みを変えることで、フェース部分での軽量化も図っています。
その結果、余剰重量をヘッド全体に再配分できたので、『エピック』よりもトウ・ヒール方向、そして後方部のワイドボディ化(体積は460㎝³=エピックと同じ)も遂げています。見た目にもやさしく、ボールがつかまって上がりやすいデザインを実現しました」
石川遼「ローグはエピック以上の衝撃」
投影面積の拡大、そしてフェースアングルをややフックにするなどでボールが楽につかまるのが『ローグ』の持ち味だという。ドライバーをテストした石川遼は、
「『エピック』のボール初速が75.7m/sだったのに対して、『ローグ』は76.0m/s。ボール初速は若干のアップでしたが、フィーリングがソフトということも含めて、数字以上の完成度の高さを感じます。
見た目、打ったフィーリングともに高いドローが打てる工夫もしているので、スライスで悩む人やボールが上がらない人には是非おススメしたいですね」
ローグのドライバーヘッドは3機種
『ローグ』のドライバーヘッドは、ボールがつかまる順に3タイプある。『スター』(ヒールウェイト2g装着)、『スタンダード』(後方ウェイト5g装着)、そして『サブゼロ』(前方2g、後方10gウェイト装着)がそれ。
装着シャフトも40g台の『FUBUKI』、50g台の『スピーダー エボリューション』、60g台の『ディアマナ』を改良したオリジナルデザインに仕上げるなど、『エピック』のスペックでは難しかったゴルファーがやさしく飛ばせる選択肢も増やしている。
なお、ドライバーの価格は『FUBUKI』装着モデルが7万5000円、『スピーダー エボリューション』装着が9万2000円など、『エピック』と同価格を継承。
さらに、『ローグ』のFW、UTにはドライバー同様、ジェイルブレイクを搭載するなど、昨年ヒットの原動力となったボール初速のアップによる飛距離追求モデルとして推奨する。
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フェアウェイウッドとユーティリティにもジェイルブレイクテクノロジーが搭載される[/caption]
果たして、『エピック』以上のヒットを飛ばせるか。前出の庄司副社長は、
「『エピック』は欧米、韓国でトップ、日本でも金額ベースでトップになり、ドライバーのシェア2割を超えましたが、それで満足していません。残り7割の市場がありますから、謙虚かつ貪欲に攻めていきたいと思います」
ライバル商品は特に見当たらないという庄司副社長。アベレージからプロ・上級者まで、『ローグ』と『エピック』の二枚看板で市場を席巻する目論みだ。
発売は2月23日
なお、発売日は『ローグ スタードライバー』と『ローグ セブゼロドライバー』が2月23日、『ローグ ドライバー』は4月発売予定となっている。
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写真で振り返る新製品発表会 キャロウェイ「ローグ」