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もうメタルには戻らない! 退路を断った『ステルス』の覚悟

クラブ 松尾俊介

1979年、パーシモンウッド全盛の中、初めてステンレス製のウッドを世に送り出したテーラーメイドゴルフ。その同社は2022年「メタルウッドからカーボンウッドへ」の切り口で、ウッドクラブに再び革新を持ち込んだ。満を持して発売したカーボンウッドの名は『STEALTH』(ステルス)である。

2000年からカーボン素材の可能性を追求し、秘かに開発を進めてきたカーボンフェイス。最新技術の意図を徹底的に深掘り取材。クラブ責任者の高橋伸忠ディレクターに迫ってみた。

フェーステクノロジーが俄かに注目されたのは、ヘッドサイズが300cm3を超えた時代あたりで、それ以前はヘッド構造と重心位置が飛びの性能を決めていました。大型化でヘッドの肉厚が薄くなると、フェースの反発性能がボールの飛びに影響を与える。そのことがわかり、各社ともフェースの素材、形、大きさや厚さなどを真剣に研究した。

「おっしゃるとおりだと思います」

ところが、ゴルフルールの規制が強まって、金属フェースの性能アップは限界に近いと思うんですね。そのタイミングで、メタルウッドを生んだテーラーメイドがカーボン素材に着目して脱・メタルを宣言した。それが今回の『ステルス』です。開発はいつ頃からですか?

「22年前からだと聞いてます。私がテーラーメイドに入って4年になりますが、社内でも極秘の開発だったので『ステルス』の存在を知ったのは2年ほど前なんです。ですから、このプロジェクトがどのように進められてきたのかは、正直、わからないんですね。私が初めて見たときは完成間近になっていて、第一印象はとにかくビックリです。フェースがカーボンでしたから・・・・」

でも、今まで販売してきたチタンウッドの『SIM』ドライバーも、クラウンやボディにカーボンを使っていた。それでもカーボンウッドとは呼ばなかったのに、なぜ今回の『ステルス』だけ殊更にカーボンウッドと呼ぶんですか?

「それは、フェースにカーボンを使用したからですよ。今までのカーボンの使用目的とは全く異なるもので、ドライバーのエンジンとも言える、クラブでもっとも重要なフェース部分を金属からカーボンに転換した。そこで『ステルス』はカーボンウッドだ!と、改めて強調しているわけです」

なるほど。

「ご承知のように、カーボンの最大の特徴は、軽比重のチタン合金に比べても圧倒的に軽いことです。従来のチタン合金で『ステルス』のフェースを作ると重さが43gのところ、今回のカーボンフェースは24gと、44%も軽量化できました。そのメリットは、ボディの設計自由度が飛躍的に大きくなることです。

しかも、フェース面積も20%拡大したので、スウィートエリアを広げられ、カーボンシートの積層具合によっては強度や耐久性も金属に負けないものを作れます。従来の金属ヘッドではできなかった新たなクラブの可能性を、テーラーメイドがイニシアティブをとって次の時代に進めていく。ウッドはカーボンの時代に突入しました」

言い切りましたね(笑)

「はい。後戻りできません」

60層にした根拠とは?

『ステルス』に装着されたカーボンフェースには、おそらく独自の手法が取られていると思います。カーボン繊維を縦に束ねて樹脂(レジン)シートに貼り付け、シート状にしたものを使いますが、このシートの方向を組み合わせることで色々な特徴が引き出せます。その組み合わせの設計がカーボンの可能性になるわけですが、今回のフェースはどのような組み合わせですか?

「おっしゃる通り、カーボンシートの組み合わせ方で使用目的に合ったものを成形できます。今回『ステルス』に採用したカーボンフェースは60層のカーボンシートを重ね合わせて、狙った反発性能、強度、耐久性を実現しました。

ご指摘のように、単純にカーボンシートを60枚重ね合わせたものではなく、角度を変えたものや、カーボン繊維を織りもの状にしたシートを複雑に組み合わせているのです」

で、どのように?

「ごめんなさい。ここは企業秘密になりますので、公表はできません。重ね合わせ方は当社の特許になっています。あのぉ、カーボンフェースをよく見てください。フェース裏側の中央部分に、少し厚みを持たせてあるのがわかりますよね。

これはチタンフェースでも同じような構造になっていますが、中央部分に厚みを持たせることでスウィートエリアが増大することがわかっています。それをカーボンフェースにも応用して、中央部分には特殊なカーボン繊維を編み込んだシートを採用しているんです」

今回は60層のカーボンシートを組み合わせていますが、なぜ60層なのか、どのような開発プロセスがあったんですか?

「実は、2012年にジャパンモデルの『グローレ・リザーブ』でカーボンフェースを採用しています。それで当時は70層だったんですが、バルジやロールはあまり無く、ツイストフェースも搭載していませんでした。結果的に打球音が評価されず、もう一度研究をやり直そうとなったんですね。この時点でもカーボンフェースとしてはかなり完成形に近づいたけど、実際に製品に搭載したらどのような結果が得られるのか? 正直に言えば、マーケティングトライアルが必要でした」

わかります。研究室や実験だけでは生データが不足する。

「そこで、製品として市場に出すことで、より多くの生の評価を調査する必要もありました。幸い『グローレ』は日本専用モデルなため、販売数量も限定されたものなのでテストマーケティングには最適でした。そこから得られたデータをもとに、さらに開発が進められました。

その結果、打球音も研究開発の主要テーマとなって、積層方法や積層数、ヘッドの内部構造まで研究の幅が広がり、最終的に60層という今回の形に落ち着きました」

レジン量で変わる音質

インパクト音の設計って、もの凄く微妙じゃないですか。

「おっしゃる通りです」

カーボンシートのレジンの量によって、カーボン成形物が金属的になったり樹脂的(プラスティック)になったりする。金属的に近いものであれば当然打球音は高くなり、目指す音域に近づきます。

で、レジンの量は、カーボン繊維の形を円形でなく多角的にすることで減らせますが、今回のカーボン繊維はどんな形で、レジンの量はどのくらいでしょうか?

「いやあ~、ここまで突っ込んだ質問は初めてですよ。おっしゃる通りレジンの量によって硬さに変化が出て、音にも変化が出ます。

ですが、どんなシートを使っているかは企業秘密ですので、ご容赦ください」

わかりました。今回のフェースの形状を見ると、金型に60ものカーボンシートを重ね、熱を加えながら高圧で成形する。最後のシートは赤くカラーリングし、スコアラインなどプリントしているのでしょうか?

「まさに、そうです。『ステルス』に搭載されているカーボンフェースは、チタンフェースと同じような打球音を目指して開発を進めました。当然ながら耐久性、強度も考えた上ですが、2019年にプロトタイプが出来上がり、テスト結果も良かったので、製品化へのステップに進みました。ご指摘の製法につきましても、2020年の終わり頃に量産化できる見通しが立って、ようやくGOサインが出たのです」

カーボンフェースは金属フェースに比べて、スピン量が少ない傾向がありますね。『ステルス』のフェース表面にウレタン樹脂をコーティングしていますが、これはスピン対策ですか?

「そうなんです。金属フェースではないため、スピン量がちょっと少ない傾向にあるんですね。特に雨天でのプレーで水分がフェース面に付着すると、ボールが滑ってさらにスピンが減少します。適正スピン量が得られないと球がドロップするなどの弊害が出るので、それを防ぐためにウレタン樹脂をコーティングしています。実はコーティング後、ナノレベルの表面処理をして、スピン量の安定化を図ってるんですよ。ナノレベルの処理なので目視は難しいですが、光の当て方で確認できます」

であれば、ウレタンカバーボールとの相性がいいでしょう。

「そうなんですよ。クラブ開発で実打テストをするときは、全部自社のウレタンカバーボール『TP5』を使っています。当然、『TP5』のボールで最大の効果が出るように、フェースデザインやクラブ開発をしています(笑)」

3種類のヘッドの意味カーボンフェースはドライバーだけで、FWやUTは金属フェースです。なぜですか?

「理由はふたつあります。ひとつは耐久性で、FWは地面から直接打つことを想定して設計するじゃないですか。ドライバーはボールだけに接触しますが、FWはバンカー、ベアグラウンド、ラフなどあらゆる状況で使用するため、フェース部分に加わる衝撃はかなり大きい。フェースが欠けたり、傷ついたりすることがある。その点金属フェースは強いからです。

もうひとつはスピン量です。先ほどの話、カーボンフェースは金属フェースよりもスピン量がちょっと少ないでしょ。FWはグリーンを狙って止める機能が必要なので、金属フェースを採用しました。でも、クラウン部分のカーボンは6層で、ヘッドのトゥ側にまでカーボンエリアを拡大したことで、より低い重心位置を確保しています。フェースには採用してませんが、カーボンテクノロジーを追求して、FWとして必要な弾道とスピン性能を引き出している。このことは強調したいですね」

ところで、今回の『ステルス』は高反発対応をどうしてますか?

「はい。2019年発売の『M5』から、スピードインジェクションと名付けた小さな穴をトウの先端部分に設け、そこからジェル状の樹脂を小さな部屋に入れることで、個体差が生じる反発係数を基準内に抑えました。チタン合金フェースの場合、製造上、反発係数がルールを超えるものと、超えないものが放物線状に分布します。全てを規制値内で作るとなると、わずかですが、その差に幅が生じてしまい、飛ぶものとそうじゃないものが混じってしまう。

であれば、全てのフェースは規制値を超えるもので製造し、ヘッド成形後、ひとつずつ計測しながらジェルを注入し、規制値内に調整しようとなったのです」

あれは製造技術だけではなく、発想としても画期的でした。

「ありがとうございます。で、今回のカーボンフェースもそれが必要という認識で、フェース裏側のボディ部分に小部屋を設けていたのですが、その必要がないくらい設計通りのものができた。この点は製造精度の高さを示しています」

最後の質問です。『ステルス』は3種類のヘッドを出しましたが、その狙いを教えてください。

「基本的にはオールゴルファーが対象ですが、ヘッドサイズはいずれも460㎤です。弾道とドローバイアスのかかり具合によって、使用対象者が分かれると思います。

『ステルス HD』は3機種中最も高弾道で、ハイドローを求めるタイプのゴルファー向け。次に『ステルスPlus』は中弾道でストレートボールを求めるゴルファー向け。『ステルス』はその中間に位置します。その中で『Plus』については、限定したショップでの販売になります。このモデルはかなり競技志向タイプなので、しっかりとフィッティングをして、最適なスペックを選んで頂きたい。売場に人材と設備が揃ってないと対応が難しいので、専門店を限定しています」

販売構成比は?

「HDタイプが50%、Plusタイプが20%、その他という感じで考えています」

松尾俊介の目

テーラーメイドは演出が上手い。そのため今回の『ステルス』は、真紅のカーボンフェースに視線が集まるはずだ。が、フェースにカーボンを使った理由のひとつは、軽量化による大きなフリーウェイトで、余剰となった重量をどの部分に使うかが大きな開発テーマであった。

大きくなったフェースを支えるボディ部分は、見方を変えるとキャビティバックデザインといえる。この構造ならばボールの直進性は高く、高弾道になる。

そういった視点で見ると『Plus』は、プロや上級者には強い武器だ。反面、一般ゴルファーには『HD』が最適だろう。重心位置を後方の低い位置に移動させ、一般的なヘッドスピードでもスクエアにインパクトをしやすくしている。

前述のように、重量に余裕があるからできることで、『HD』(High Draw)タイプの生産が多いのも理解できる。ロフト選定を間違えないようにすれば、ゴルファーの強い味方になるはずだ。

今回の取材では、過去22年間にわたる開発プロセスを知りたかった。開発のスタートは2000年。その頃は、キャロウェイゴルフが開発したカーボンウッド『C4』が、デビュー直前の時期だった。各社ともカーボン素材への関心は高く、また、テーラーメイドの元CEOであったマーク・キング氏は、当時キャロウェイの副社長として、同社の開発の方向性を熟知していた。

『C4』の発売は2001年。このモデルは高反発のフルチタンモデルとして脚光を浴びた『ERCⅡ』と比較され、飛び、打球音では精彩を欠いた。『C4』と並行して、キャロウェイはもうひとつのカーボンウッドを開発していた。

『フュージョン』である。チタン合金のカップフェースにカーボンのフルボディタイプだった。アイデアとしては面白い組み合わせだったが、ヘッドサイズは360cm3と小ぶりで、市場は400cm3を超えるデカヘッドを期待していただけに、これもヒットしなかった。

一連の経験を積んだキング氏はその後、テーラーメイドのCEOに就任してからも、カーボン素材の開発を基礎研究から手掛け、なんとかモノにしたいと考えたはずだ。少なくとも筆者はそう思う。

どのようなものが将来のウッドクラブとしてふさわしいのか。ルール規制が厳しくなり、COR値、ヘッド体積、ヘッド慣性モーメント、クラブの長さなど、開発に制約が加えられる傾向にあって、チタン合金での開発競争は限界に差しかかっている。おそらくあらゆる素材の研究開発は行ってきたはずだ。最終的にカーボンが選択された。

カーボン素材でフェース材を作る発想は、カーボンを熟知している人間でないとイメージが難しい。テーラーメイドの開発チームに、航空宇宙産業の人間が入っていることは容易に想像できる。フェースとボディの接着技術や、カーボン繊維の組み合わせで剛性や耐久性能を引き上げる技術は、そこから来ているからだ。

高橋さんは「これからのテーラーメイドのウッドはカーボンウッドです」と言い切った。ということは、今回の『ステルス』は最初の一歩であり、次世代モデルは、さらにカーボンの特性を活かしたコンポジットウッドが完成間近なのだろう。そんなことを予感させる。


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松尾俊介

松尾俊介

1949年12月23日生れ  神奈川県出身
東海大学工学部航空宇宙学科卒、在学中は体育会ゴルフ部副将および関東学生ゴルフ連盟の連盟委員を兼務。パイロット志望から一転してゴルフ用品販売業務に携わる。ゴルフ工房を主宰しながら1988年からフリーランスゴルフライターとしても活動。国内外合わせて25のゴルフクラブメーカを取材し、記事として各誌に掲載する。「良いゴルフクラブとは何か」をテーマに取材活動を続ける。1989年米国キャロウェイゴルフの取材と掲載記事をきっかけに親交を深める。

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