埼玉県所沢市の埼玉スポーツセンター。ボウリング場、バッティングケージ、フットサルコートがあるスポーツ施設で、ゴルフ練習場も併設されている。その練習場の一画で営業するのがゴルフ工房「SPARK」。一人で切り盛りする佐藤敦郎氏は工房歴15年。昨年独立した。顧客の7割が常連客だが、今回悩みを解決したゴルファーは、飛び系アイアンを使用して、ゴルフ仲間から「反則」と言われたシニア。解決策は、マッスルのヘッドに女性でも使えるシャフトの組み合わせだった。
カスタムシャフトの人気と見栄でオーバースペック
最近のゴルファーはカスタムシャフトの人気と見栄で、オーバースペックのクラブを購入する傾向が強い。佐藤氏はそう呟く。
「シャフトの軽量化はここ数年進んでいますが、40歳代のゴルファーがドライバーで50g台のXシャフトを使うケースが目立ちます。自分がオーバースペックを使っていることを認識する人も増えましたが、見栄もあるのが日本人のゴルファーの特長ですかね」
同氏によると、数年前までアイアンシャフトはダイナミックゴールドとNS950がメインだった。それに加えて重くて硬いシャフトが「上級者用」との固定観念があり、そこに見栄も加わって、ハードスペックになりがちだとか。
「重量とフレックスを1段階ずつ下げることで、ドライバーの飛距離が230ヤードから245ヤードまで伸びたケースもあります。思い込みや見栄が飛距離減を招くことは多いんです」
そんな佐藤氏の顧客に72歳のシニアゴルファーがいる。数年前からナショナルブランドの飛び系アイアンを使っていたが、ゴルフ仲間から「反則だ」と。
「それでアイアンをガラッと変えたいと『ジニコ』の薄っぺらいマッスルバックを要望されたんです」
7番アイアンでロフトは34度。シャフトは女性でも使えるデザインチューニングの『メビウスEQ IX LITE』を組み合わせた。
ダウンブローなのに払い打ちのアイアン
「反則」呼ばわりされたこのゴルファーは、HS35m/s程度。ダウンブロー度合いが強い反面、飛び系アイアンは払い打ちで、その性能が活かせなかった。
「もともとのアイアンは7番でロフト角は26度でした。クラブ長も長く38.25インチ。長すぎて、ダウンブロー度合いが強いスイングなのに、払い打ちになっていた。それによって打点も安定していなかったのだと思います」
周囲からの揶揄もあり、ガラッと変えたい! そんな希望もあり、ヘッドはイオンスポーツが展開する「ジニコ」のマッスルバック『MBアイアン』に。ペラッペラのヘッドのロフトは7番で34度。シニアが使えそうな仕様ではないが、これに組み合わせたシャフトが女性でも使えるといわれる50g台の『メビウスEQ IX LITE』である。
「驚くことに、飛距離は変わらなかったんです。クラブ長も同じ7番ですが37.25インチ。2番手ほど短くなりましたが、同じ7番でも短くて振りやすかった。錯覚なんでしょうかね」
ロフト角8度の差、そして1インチ短くなっても飛距離は変わらない。驚きの結果は、理由がほかにもあるという。それは、クラブ重量だ。
ヘッドスペック
短く重いクラブでインパクト効率の上昇
「その人が使っていた飛び系アイアンは、7番で総重量350g程度。それが『ジニコMB』と『メビウス』のシャフトで374g。20g以上重くなりましたが、それでインパクトエネルギーが強くなり、短いからミート率も上がった。ロフトが8度寝ても飛距離が変わらなかった最大の理由かもしれませんね」
周囲から「反則」呼ばわりされたシニアゴルファーの悩みは解決された。
「冒険的なセッティングでしたが、信用してもらえた。そこが嬉しい」
と笑う。佐藤氏が最後に付け加えた。
「今回のケースは、ロフト角&クラブ長よりも、クラブ重量が飛距離につながったケースです。誰にでも推奨できるセッティングではありませんが、私としては引き出しが増えて嬉しいですね」
目からの鱗のフィッティング「マイカスタム」は、特定のゴルファーに向けたセッティングだが、今回のマッスルバックと女性でも使えるシャフトの組み合わせは、思わぬところで工房店主の引き出しを増やす結果となった。
シャフトスペック
メーカー担当者コメント
イオンスポーツ 東日本マネージャー 渡辺政光氏
「昔から佐藤さんのフィッティング技術は高いと思っていましたが、『MB』はシニア向けのアイアンじゃないので、我々としても驚きの組み合わせです。これからはシャフトで予期せぬ組み合わせが出てくる時代になると思いますし、今回のケースは勉強したいので、すぐに佐藤さんに電話します!(笑)」
SPARKとは
〒359-0011
埼玉県所沢市南永井1116
埼玉スポーツセンターゴルフ練習場内1F
TEL&FAX:04-2968-5778
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2023年8月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。