鉄の塊からウエッジを削り出すのが、レッドホイルのクラフトアドバイザー鈴木伸也氏。ひとりで工房を切り盛りするが、その技に引き寄せられて多くのこだわりゴルファーが集まってくる。その一人が53歳のA氏。14歳でゴルフを始め、30代のころはドライバーのシャフトが90g台と常識外のスペックを使っていた。ただ、スイングで身体を痛め、指をケガ。以降、HSと飛距離は落ちてクラブは軽くなっていく。そのA氏が50歳を迎えるのを機に鈴木氏が薦めたのが、ターフの高反発ヘッド『バディ・ハイパー』とスイス発シャフトの『TPT21Hi』シャフトだった。
「重い」が正義だと思っている 自分の能力や感覚と向き合わない
レッドホイルの常連客は競技ゴルファーが多い。だから、
「プロのクラブを参考にする人が多く、重いシャフトを使いがち。『重い』が正義だと思っています。それは、自分の能力と真正面から向き合っていない。数値ばかり追って、自分の感覚を重視しないゴルファーが多いですね」
例えば、軽いクラブは、スイング中に遠心力で引っ張られない傾向が強い。それによって、
「クラブとゴルファーの力関係は、ゴルファーが主導権を握ることになります。スイングの精度が求められ、感性も磨かなければならず、鍛錬も必要。でも、みんな逆なんです」
この考え方は、今回の登場人物A氏にもつながる。30代の頃はHS48m/sでシャフト重量は90g台、クラブバランスD9のドライバーを使っていた。しかし、指のケガでHSは現在42m/s。セッティングは軽量の高反発ヘッドと、軽量だがアスリートが使うシャフト。ゴルフはどうなったのか?
パワースイングで指に負荷 一気に開放して飛ばしていた
もともとA氏のスイングはパワースイング。超重量級のクラブを一気にテークバックし、同時に下半身は左に回転し始め、トップで一気に上げたクラブを左手の親指で受け止め、その反動で一気にダウンスイングに入っていた。その反動が長年続き、親指をケガ。慢性的な症状で重く硬いクラブは打てなくなってきた。
A氏が軽量クラブを求める中で、鈴木氏が薦めたのが、ウエイトなしで189.5gターフの超高反発ヘッド『バディ・ハイパー』と40g台と軽量で低振動数ながらアスリート向けの『TPT21Hi』。
「このヘッドの恩恵を受けるのはHSが35m/s以下のゴルファーだと思います。一方、『TPT』は軟らかいスペックでもシャフトは締まったアスリート向け。この組み合わせは軽量を求めないなら、普通はあり得ません」
ただ、A氏はベテランの元アスリートゴルファー。スイングが出来上がっているから、先の話の通り、軽いクラブで主導権がゴルファー側になって、クラブを操れる。そして、
「スイングの精度が求められるので、飛距離や方向性を考えれば、ケガもあるから、力いっぱい振れなくなる。そこが狙いなんです」
結果、A氏はスイング中の親指の痛みもなく、全盛期の飛距離とまではいかないが、平均スコアは70台に戻った。さらに、ゴルフが続けられる状態を維持しているという。
第二のゴルフ人生を作る ゴルファー寿命を延ばす
A氏は次のように話していたという。
「ケガによって、そしてこのクラブとの出会いによって、飛距離への執着を捨てられました。誰もが300ヤード飛ばしたいと思う。ただ、できもしない事をやろうとしているのではないでしょうか。自分の能力を卑下するのではなく、認めることで私は第二のゴルフ人生を作ることができました」
完成したクラブは振動数214cpm。元スーパーへビー級のクラブを使っていた男が、いまでは総重量266.4gの超軽量ドライバーを使っている。鈴木氏がA氏について、付け加える。
「もともと超アスリートですから、スイングはできている。ただ、クラブが軽くなると主導権がゴルファーになり、速く振ろうとか、何でもできてしまう。だからこそ、余計に力が入らないようにスイングの精度を上げていかなければならない。クラブとしては難しくなります」
でも、それ以上のメリットがある。
「それはスイングの精度を突き詰めてスコアが縮まったことに加え、これから10年も20年もゴルフが続けられるということです」
通常では考えられないヘッドとシャフトの組み合わせが、ゴルファーのプレー寿命を延ばしている。
メーカー担当者コメント
TPT輸入代理店 ベガサスジャパン 堀口宜篤氏
「もともとアスリート向けのシャフトとして日本に上陸したので、そのイメージが強いですよね。そのイメージではセッティングしない組み合わせですが、いまでは軽く柔らかいシャフトもラインアップしています。とはいえ、高反発ヘッドとの組み合わせには驚きます。今後は軽く、柔らかいシャフトにも注目してもらいたいです」
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この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2024年3月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。