シリーズ十代目となる『ゼクシオ10』が12月9日に発売された。
2000年のデビューから足掛け18年を経過して、業界最大のヒット商品に成長したが、今回の『ゼクシオ』は従来と異なり、「小売店泣かせ」との評判がある。
その理由は
「飛びの理屈」がわかりにくい、説明するのに骨が折れるからでもある。
発売元のダンロップスポーツが掲げたキャッチフレーズは「芯食い体験」というもので、たしかにこれだけを聞けば難解だ。
一体、どういった理論なのか、噛み砕いて説明しよう。
ゼクシオがついに10代目。ダンロップ、初代から40ヤードアップしたXXIO Xを発表
写真で振り返る新製品発表会 ダンロップスポーツ「ゼクシオ10」
柔道と同じ「引っ張り合い」
ダンロップが掲げた「芯食い理論」は、ヘッドのスイートエリアにボールが当たる確率を高める理論で、ふたつの要素によって成立している。
ひとつはヘッドのスイートエリアを拡大したこと。ふたつめは独自のシャフト構造により、安定したスイング軌道で「芯」に当たりやすくしたというものだ。
前者の理屈は単純だが、後者の理屈が難しい。それが「小売店泣かせ」といわれる所以である。ティーチングプロの永井延宏氏は、
「今回の『ゼクシオ』の特徴は、単に飛びやすいヘッド構造というだけではなく、ヒト、スイング、クラブの関係性に着目したところが斬新です。従来にない開発コンセプトといえるでしょう」
と前置きして、基本的な考え方をこう語る。
「ダンロップは新製品の発表会で、足場が固定されていないスイングロボットがクラブを振ると倒れてしまうシーンを流しました。
あの光景が示したのは、スイング中のクラブと人間のやり取りです。つまり、
双方の関係は柔道や相撲と似ていて、クラブの遠心力で外側に向かう力と、これに負けまいと頑張る人間との引っ張り合いみたいなやり取りがある。
これまでのティーチング理論は、スイングプレーンやフェースをコントロールすることに主眼が置かれ、この部分が見逃されてきたんですね。
ぼく自身、スイング中の現象は『相撲や柔道と似た関係』があると観念的に思っていたけど、その正体がつかめなかった。今回、ダンロップがスイングの本質を可視化してくれたのです」
言うまでもなく、スイングはヒトとクラブの「合作」だが、従来の指導法はヒトのみに焦点が当てられて、クラブとの関係が軽視された。これとは逆に、物理的な視点を重視するメーカー側は、クラブ単体の進化に多くの研究を費やして、ヒトとの関係を軽視してきた傾向がある。
永井氏のコメントはこの点を指摘したものだ。
これを受けてクラブコーディネーターの鹿又芳典氏は、永井氏と異なる視点で近年の開発傾向を説明する。メーカーによって「ヒト寄り」と「モノ寄り」の開発に分かれるという指摘。同氏の言葉に耳を傾けてみよう。
「開発傾向には、ふたつの傾向があると思うんです。近年の例をあげると、『モノ寄り』の代表がキャロウェイの『EPIC』でしょう。
ヘッド内部の2本の柱でインパクトのエネルギー効率を上げる仕組みは、高度な製造技術も必要で、それらのテクノロジーにゴルファーが『頑張って着いて来い』という方向です。
一方の『ヒト寄り』が『ゼクシオ10』で、ゴルフで一番難しいのが芯に当てることだから、それを解決するひとつの方向を示している。ヒトはスイング中に遠心力で引っ張られ、前後左右にブレる中で、どうやってアジャストさせるのか。この点を研究課題にしています」
で、「ヒト寄り」と「モノ寄り」はどちらが正解なのか。鹿又氏はこう答える。
「一言でいえば、正解はないと思いますね。ヨネックスの『XP』もヘッドを重くしたカウンターバランスで当てやすく、曲がり難いという意味では『ヒト寄り』だし、『ゼクシオ』が行った今回の提案もひとつの方向だと思います。
いろんなアプローチがあるので、どれが正解とは言えないでしょう」
メーカーは、各社の持ち味によって様々な開発のアプローチを行っている。過去に蓄積した膨大なスイングデータとITの解析技術で他社との違いを追求しており、今回の『ゼクシオ10』もその産物といえるだろう。
ペットボトル20本分を振っている
以上の話を前提にして、「芯食い理論」の詳細に触れていこう。
前出の永井氏が指摘したように、人間の身体はスイング中、遠心力によって地面(前方向)に引っ張られる。その力はHS40m/Sのゴルファーがドライバーを振った場合、2ℓ入りのペットボトル20本分(40㎏)の負荷に相当するというのがダンロップの見解だ。
そして、その負荷が掛る中心点は両肩の間で「喉元」になる。これにより身体のバランスが崩れてしまい、ジャストミートの確率が低くなる。
そこで同社は、身体のブレを抑えるためには40㎏/f(キログラム・フォース)の負荷を減らすことが有効と考えた。減らすためには、シャフトが身体に近いところを素早く通れば、遠心力によって外側に引っ張られる力が弱くなる。
これを実現するために、シャフトの手元側を柔らかく、身体に巻き付くように振れるシャフト構造が効果的と考えた。円弧が小さくなればクラブは加速し、その反力で腕が減速するため、身体に掛る遠心力は小さくなり、結果、身体への負荷が減少するという理屈である。
そのようなシャフト構造を製品化した結果、ペットボトル1本分の負荷が軽減(2㎏、5%減)できたという。広報部の安達利也部長によれば、
「ヒューマンテストの結果、負荷が5%減ることで、
打点のバラつきが前作比で平均28%減ることがわかりました。5%と28%には計算式としての関連はなく、実証値としてのデータです」
このような新シャフトのメリットについて、前出の永井氏は、
「スイングは、時計の10時から8時で垂直方向への力が働くので、この間、手元を柔らかくしてシャフトが身体から離れ難くする。そして、6時のインパクトに効率的に向かうという意味では、理屈は合っていると思います」――。
以上がシャフトの効果だが、『ゼクシオ10』は先述のように、ヘッドのスイートエリアも広げている。契約プロの中嶋常幸は、
「以前なら芯を外したと思えるショットでも、芯を食った感触が得られます。そこが『テン』の凄いところだよね」
と、多少リップサービスを交えて話しているが、実際、そのような構造になっているようだ。
ダンロップは、ゴルファーが「芯を食った」と感じる反発エリアを反発係数0.770以上(スイートスポットは0.820~0.822=COR値)に設定しており、
「前作の反発エリアは直径30.6㎜の円に相当する面積(735平方㎜)でしたが、今回の『テン』は35.4㎜(984平方㎜)に広げました。つまり、反発エリアが34%拡大したわけです」(安達部長)
反発エリアが34%広がったヘッドの効果と、打点のバラつきが28%減ったシャフトの効果を合わせて、ゴルファーが「芯食い感触」を得られる確率は前作の59%から73%、つまり14ポイント高まったという。
このような「芯食い確率」の向上によって、平均飛距離が前作比で
5.0ヤード伸びたのが『ゼクシオ10』の成果だとか。
高反発規制で開発の方向に変化
ところで、ダンロップが主張する「芯食い」の開発コンセプトは、どのような経緯で生まれたのだろうか。
この点、2008年1月に施行されたルール改訂(高反発規制)がきっかけだったと見るムキは多い。少し過去を振り返ってみよう。
1990年にチタンヘッドが登場して以来、メーカーのクラブ開発は長くて軽くて大きい「長・軽・大」が全社共通のテーマとなっていた。往時は金属メーカーとの素材開発やOEM工場の製造技術を高めるなど、物性としての完成度を高める時代だったといえる。
ところが、高反発規制はヘッド開発に多くのシバリを科すことになり、ヘッドを中心としたメーカーの開発姿勢に変化が生じはじめる。ダンロップの木越浩文企画本部長は、
「おっしゃるとおりです」
と前置きして、次のように続ける。
「当社はスイングとクラブの研究を『ヒューマン・プラットホーム』と呼んでいますが、これに本腰を入れはじめたのは『ゼクシオ7』からで、高反発規制を強く意識したものです」
そのような姿勢を如実に表すのが、申請特許の内容だ。特許に詳しいゴルフライターの嶋崎平人氏によれば、
「今回『ゼクシオ』の特許を過去に遡って調べたところ、七代目からシャフト関連の申請が多くなり、八~九代目からはスイング関連の特許が増えていて、ヘッドを重視していた六代目以前とは明らかに様変わりしています。
たとえば『スイングしやすくして飛距離が出るゴルフクラブ』といったもので、従来は感覚的だった『振りやすさ』を数値化したり、スイング軸周りの慣性モーメントの数字を規定するものもある。スイング解析や計測法の特許もありますが、これは他社も似たような傾向です」
規制の強化によって、多くのメーカーが新たな方向性を探ったわけだ。
このような変化は、「用具規則」の中でシャフトへの規制が甘いこともある。ヘッドは細部まで細かく規制されるが、シャフトについては長さ規制(48インチ以内)など比較的簡素で、「素材」や「積層」といった構造の領域に踏み込めないでいる。
シャフトの規制を明文化することは、ヘッド規制よりも遥かに難しく、ゴルフルール研究家の第一人者であるマイク青木氏は、
「R&Aはシャフトの素材や構造等について規制したい考えがあるでしょうが、これを規則化するのは難しい。ですから、この面ではメーカーの設計自由度が保たれると思います」
と話している。「シャフトとスイング」に注力するダンロップの特許申請には、必然性があったわけだ。
高反発ヘッドが規制されて、多くのメーカーはドライバーの飛距離アップに苦慮してきた。一部では「ドライバーの飛距離競争は終わった」との悲観論も出ていたが、規制をテコにして新たな開発テーマを模索する動きが目立っている。
そのあたりの姿勢が、『ゼクシオ』に関わる特許の変遷にも表れる。
以上、『ゼクシオ10』が提唱する「芯食い理論」について詳述した。初代から前作の九代目に至るまで、様々なキャッチフレーズを掲げてきたが、節目となる十代目で大きな挑戦を行ったようだ。
果たしてゴルファーの支持を得られるか? 12月の販売状況を注目したい。
訂正 12月19日 16時50分 読者から「芯食い理論」に関わる表現について「解釈が違うのでは」との指摘があり、ダンロップスポーツに確認したところ、下記の回答を得たので訂正します。
元文 円弧が小さくなれば遠心力も小さくなり、身体への負荷が減少する。
訂正文 円弧が小さくなればクラブは加速し、その反力で腕が減速するため、身体に掛る遠心力は小さくなり、結果、身体への負荷が減少する。
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