Abemaがチャレンジツアー完全生放送で「わかりにくいゴルフ中継」に一石

Abemaがチャレンジツアー完全生放送で「わかりにくいゴルフ中継」に一石
両者にとっては、まさに理想的な出会いだったろう。 「コンテンツを必死に探している時にこの話が来て、すぐにイメージがわきました」 無料視聴のインターネットテレビを運営するAbemaTVの藤田晋社長がそう話せば、日本ゴルフツアー機構(JGTO)の青木功会長も、 「注目度が低かったチャレンジがテレビ中継されれば、選手も気合が入るでしょう。ありがたい話です」 と相好を崩す。1月30日、都内で行われた両社の「年間特別スポンサー契約」発表は、相思相愛のムードを漂わせていた。 不人気にあえぐ男子ツアーは、今年から石川遼が選手会長となって国内ツアーに復帰するが、かつての盛り上がりを取り戻せるかは未知数だ。本質的な改善を図るには、選手強化による層の厚みが不可欠で、若手育成を担うチャレンジトーナメントのテコ入れはJGTOにとって積年の課題。 そこに救世主として現れたのがAbemaTVで、全12試合をスタートから終了まで「完全生中継」するというから、青木会長の喜びも頷ける。今季からチャレンジは全試合3日間競技となり、総賞金額は1億8300万円(1試合1500万円以上)に増額された。チャレンジに年間スポンサーがつくのは初めてで、3月30日の初戦から年間通じて名称を「AbemaTVツアー」に改称する。藤田社長は契約内容について、 「契約期間は話せませんが、ずーっと続ける覚悟ではいます。総投資額についても非公開ですが、新しい試みを積極的に導入して、試合の価値を高め、価値あるコンテンツに育てたいですね」 と意気込みを語った。

激しいコンテンツ争奪戦

「相思相愛」の背景には、インターネットテレビ業界の激しい生き残りがある。2016年4月に動画配信事業をはじめたAbemaTVは現在、ニュース、音楽、スポーツ、ドラマなど約25チャンネルを無料提供し、今年1月には2600万ダウンロードを突破しているが、 「コンテンツ競争は熾烈です。特にDAZNは豊富な資金力をもち、国内ではJリーグの放映権を高額な契約金で獲得しています。この競争に我々が入るには体力不足。メジャー競技の獲得にリスクを取って参入できる段階ではないため、自ら育てることができ、ポテンシャルのあるコンテンツを探していました」 同社は今年1月の初場所から「大相撲」全6場所を90日間生中継する権利を得ており、 「幕下、十両の取り組みから長い尺で番組が作れます。コンテンツが埋められるのは当社にとってメリットだし、視聴者にとっては生で見られる価値もある。今回のゴルフ中継も、長い尺で作れる魅力があります。 ただ、今のところ収益は、あまり考えてないですね。(インターネットテレビは)10年掛かりで作っていくメディアだと思っていますから」(藤田社長) ゴルフ関連メディアでは、昨年末にGGMG(旧アルバ社)がゴルフネットTVを立ち上げて、番組の拡充を急いでいるが、多くの先行メディアがコンテンツの争奪戦を繰り広げており、特にスポーツコンテンツは超売り手市場で高騰中。各社とも投資先行で視聴者の獲得に余念がない。 将来的な収益モデルは意外とシンプルだ。魅力的な番組提供で視聴者を増やし、有料会員と広告収益を獲得するもの。それまでは我慢のしどころで、今回のチャレンジトーナメントも放映権料と制作費が先行するため、一定期間の「持ち出し」を覚悟している。

ビギナーの視点が大事

興味深いのは放映スタイルだ。「AbemaTVツアー」は3月30日のNovil Cup(JクラシックGC、徳島県)を皮切りにはじまるが、第1組のスタートから最終組のホールアウトまで完全生中継するのがウリで、ゴルフ番組が宿命的に抱えていた「録画放送」を根本的に変えていく。同社スポーツ局の古川雄太マネージャーによると、 「カメラの台数など詳細は今後詰めますが、基本的には1、17、18番ホールでの中継に加え、注目組に密着する形になるでしょう。解説のプロゴルファーにはわかりやすさを重視してもらい、ビギナーの視点も交える予定です。テロップにも工夫を凝らしたいですね。選手のマニアック情報を挿入して、視聴者に親近感をもってもらうことも大事です」 これらが実現すれば、ゴルフ中継の在り方に一石を投じるかもしれない。わかりにくいゴルフ用語が当たり前のように使われて、解説の内容も「プロ目線」からの指摘など、敷居の高さは否めなかった。同伴競技者のラインを踏まないよう、妙な格好でカップインさせる光景など、ゴルフには不思議なシーンが満載だ。 こういった状況を丁寧に説明すれば、ゴルフ人口の底辺拡大に寄与できるかもしれない。

AKB戦略を踏襲?

無名の選手がレギュラーツアーに昇格し、有名になっていく過程を追い駆ける楽しみもある。AKB48は、高校野球の予選から甲子園に至るまでの選手の成長に共感を覚える、という企画主旨でファンを獲得したコンテンツだが、それと同様、「わたしだけの選手」を見つめて応援する醍醐味もあるだろう。 これとは別に、ある程度の視聴者数を稼げれば、無名選手にも用具提供や契約話が転がり込むかもしれない。そうなれば、生活苦にあえぐ若手プロにとっては朗報だ。 チャレンジの完全生中継は、様々な面で「トーナメント中継改革」を起こす可能性がある。レギュラーツアーの視聴を上回ることにでもなれば、旧弊な在り方に激震が走る。