首都圏を中心に20店舗を運営する有賀園ゴルフが、新事業を展開する。レンタカービジネスへの参入がそれだ。有賀史剛社長の目論見を聞いてみよう。
「新たにレンタカー事業をはじめることで、ゴルフ場への『足の問題』を解決したいと思います。同時に、クルマと試打クラブを貸し出せばゴルフがもっと手軽に楽しめる。市場活性化の効果も期待できるでしょう。夏以降の導入を検討しています」
レンタカーで新たな収益を生み出し、若年層における「足の問題」(クルマ離れ)を解決することで、ゴルフ場へのアクセスを容易にしたいと考えた。一石二鳥の試みといえるだろう。
しかし、最大の狙いは違うところにある。郊外型の量販店は広い駐車場を完備する必要があるが、満車になることは稀で、稼働率が低く「お荷物」になっている。特に平日の駐車場は閑散としており、スペースの有効利用ができていない。レンタカーの導入でこの問題を解決する意図があり、一石三鳥を狙ったものだ。これが成功すれば、同じ悩みをもつゴルフショップの追随もありそう。
スマホの普及で外出率が低下
具体的な展開はこうだ。同社は4月、レンタカー事業を全国展開する伊藤忠系列のエネクスオートとFC(フランチャイズチェーン)契約を交わし、「カースタレンタカー」を駐車場内に併設する。
当初は好立地の4店舗(新横浜、川崎、西東京、池上店)から着手して10店舗まで広げる方針だ。1店舗当たり5~10台を保有して、カースタの予約サイトから受け付ける。
小型のファミリーカーが中心で、会員の支払いは12時間で5120円から。4人1組で同乗すると1人当たり1280円の負担となり、ここに試打クラブを4セット貸し出せば手ぶらでゴルフが楽しめる。最新の試打クラブが気に入れば、販売につながる可能性もある。
「都心のレンタカー需要が高まっているのは、駐車場代が高いからです。若者がクルマをもつためには、維持費やローンの支払いなど負担が大きいじゃないですか。
そのような事情でクルマ離れが加速すると、ゴルフ場から足が遠のきます。ゴルフの楽しさを覚えても、毎回乗せてもらうのは気詰まりですよね。そういった悩みを解決できると考えました」
有賀社長はそんな青写真を描いている。
実は、若者のクルマ離れは経済的な理由だけではなく、複雑な要因が絡んでいる。そのひとつが、家にこもる若者が増えていることだ。
国土交通省は20代の「休日外出率」(2015年)を調べており、これによると男性は51%、女性は60%で減少傾向にあるという。
この世代の免許保有率も2005年の89%から2015年は84%に下降しているが、逆に世帯間のインターネット・スマホ普及率は上昇中。2005年の70%から2015年は83%と、10年間で13ポイント高まっている。国交省はこれらの要因を俯瞰して、「内向き傾向」の高まりがクルマ離れの一因と分析する。
クルマでの外出が減り、ネット通販が台頭した結果、郊外に大型店を構える小売業は苦戦中。ゴルフ量販店も同様だ。
「お荷物」を武器に
有賀園は昨年8月からレンタカービジネスの可能性を探っていたという。有賀社長が経緯をこう話す。
「たとえば当社の新横浜店の場合、収容台数は100台ですが、平日の稼働率は2~3割に過ぎません。満車になるのは正月の初売りとGWぐらいで、有効活用できていないのです。
そこでレンタカー会社に調べてもらったところ、立地条件が非常にいいから『採算が取れます』と言われました。レンタカーは一度借りると同じ店で借り続けるそうです。すると、当初はクルマが目的だったのに、店内も見てみようと興味を覚える。
そんな流れでゴルフに触れる機会が増えれば、市場の活性化にも寄与できる。ゴルフへ行くひとには特別価格でレンタカーを提供するなど、8月を目処に様々なサービスをはじめます」
「お荷物」だった駐車場が、需要創造の拠点になる。そんな逆転の発想で新ビジネスに踏み切った。
異業種との連携で新サービス
改めて言うまでもないことだが、ゴルフとクルマは密接な関係にある。自動車業界にしてみれば、外出の動機が増えるほどクルマの需要が高まってタイヤも消耗する。ゴルフ市場が活性化するほど、好影響が期待できるわけだ。
国内の二大ボールメーカーはいずれもタイヤメーカー(ブリヂストン、ダンロップ)に発祥しているが、ダンロップスポーツ(住友ゴム工業)は合宿制の自動車教習所と提携してゴルフスクールを企画した経緯がある。異業種間の連携で相乗効果を狙ったものだ。
そして、このような異業種交流は徐々に目立ちはじめている。ゴルフ場は単にプレーを楽しむ場ではなく、ワインの試飲会やミニコンサート、ネイルサロンの併設など多様な付加価値を備えはじめたのだ。それぞれの専門企業がアイデアを持ち寄れば「ゴルフ」の魅力を訴求できる。そこに商機が生まれれば、異業種にもメリットがある。
有賀園のレンタカー事業は当初、駐車場の有効利用が目的だったが、ここから派生して新たなサービスを描くことも可能だろう。いずれ自動運転の時代になれば、往復の車内で健康をチェック。そのデータをゴルフショップで蓄積すれば、高齢者に「健康とゴルフ」のアドバイスをできるかもしれない。
するとまた、そこから新サービスが生まれるかもしれない。異業種との提携で、ゴルフショップの役割は広がりそう。