1. 推定20兆円が動いたゴルフ会員権の大暴落 ゴルフ産業を創った男(10)

推定20兆円が動いたゴルフ会員権の大暴落 ゴルフ産業を創った男(10)

社長の記事
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月刊ゴルフ用品界(GEW)2005年1月号~2006年3月号に掲載していた大西久光氏の「シリーズ温故知新」をウェブ用に再編集したものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。なお、写真は文章と直接関係ありません。


大西久光氏が語る10話目の今回は、バブル経済の崩壊で壊滅的な打撃を受けたゴルフ場マーケットの変遷を振り返る。各種データを通読して、破綻の様子を生々しく振り返っている。

特筆されるのは、無法地帯だった会員権取引と錬金術としての預託金だ。ゴルフ場の土地買収も完了していないのに会員を募集して、莫大な「預かり金」を懐に入れたゴルフ場経営者の罪を問う。

ハゲタカと呼ばれた外資系ファンドの買収術も解説している。

毎週火曜日掲載

赤信号、みんなで渡れば怖くない

1999年春、私は長年勤めた住友ゴム工業を退社しました。ダンロップスポーツエンタープライズの社長なども務めておりましたが、それら一切から身を退いて、後事を後輩に託したわけです。

ただ、間髪を入れずに新しい事業を始めました。この年の6月、ターゲットパートナーを設立しましてね、新時代に対応するコンサルティング会社という位置付けです。ゴルフ場の再生や用品開発、テレビ解説やコース設計など、住友時代に築いた経験やノウハウを生かしてゴルフ界の発展に寄与しようと一念発起したのです。

私は日本ゴルフコース設計者協会の理事長(当時)も務めておりますが、そういった経緯から昨今のゴルフ界には思うところが多いですね。

そこでまず、ゴルフ場はなぜ、現在の疲弊を招いたのか‥‥。今回はこの点を検証してみましょう。

ゴルフ産業が崩壊してしまった第一の原因は、バブル経済の破綻です。そのことは誰でも知っていますが、見逃せないのは92年のピーク以降、下降を続けていたマーケットが97年に一度復活して、その後また、さらに縮小の足を速めたことです。

持ち直したかに見えた業界が再度落ち込んでしまったのは、橋本税調の消費税アップが原因で、如何にもタイミングが悪かった。バブルが破裂してからも、国内のゴルフ場は約600コース増えています。ゴルフ場開発は、一度走り出すと途中で止められないわけですが、これによって需給バランスが極端に悪化して歯止めが効かなくなったのです。

ゴルフ場は用地買収と許認可に多くの時間が費やされるため、いざオープンすると市場環境が激変していることも多い。開発を中断するのも難しく、「赤信号、みんなで渡れば怖くない」と集団で渡ってしまいました。

90~93年にかけては毎年100コースほど開場しましたが、仮に今、90年当時のコース数だったなら、需給バランスはとれていると思いますね。ところが過当競争がダンピングを招いてしまい、経営破綻につながったのです。

国内のゴルフ場産業は、1992年の1兆9610億円がピークである。昨年(2004年)が1兆1930億円だから39.1%減、金額にして7680億円を失った計算になる。90年以降の開場数は90年96コース、91年108コース、92年102コース、93年99コースで、大西氏が指摘したように、この4年間で毎年100コースが産声を挙げている。

ゴルフ場経営者達の先見性のなさは厳しく問われる必要があるが、時代の熱気を勘案すれば、あながち無謀とは思えない節もある。

ゴルフ市場の潜在力、つまり成長の可能性は「練習場人口」と「コース人口」の比率に置き換えられ、これが頂点だった93年はコース人口の1340万人に対して、練習場人口は1940万人。練習場人口がコース人口を44.7%上回り、90年の29.9%を遥かに凌ぐ勢いだった。

この数字が意味するものは、ゴルフ場未経験者がゴルフ人口を600万人も上回り、豊富な予備群を抱えていたことになる。当時、都市部での休日の練習場は2~3時間待ちが当たり前で、バブルの後遺症も短期で治癒すると思われただけに、開発ラッシュは止まらなかった。

「ゴルフ悪者論」の実態とは

ここに総務省の資料(平成16年サービス業基本調査)があります。9ホール程度を含めた国内のゴルフ場全体について、99年と2004年を比較したものです。

これによると過去5年間で施設数は5%減(2878→2726箇所)、総従業員数は17%減(15万4610→11万7527人)となり、1コース当たり10人ほど減っています。総事業収入は31%減(1兆5921→1兆818億円)ですけれど、利益は116億円の赤字から171億円の黒字に転じている。積極的なリストラによって体質は好転しており、やりようによっては再生できることを明かしています。

問題はゴルフのイメージですね。私はこれが、ゴルフ産業の疲弊を招いた3番目の原因だと考えます。一言でいえば預託金の問題で、「ゴルフ悪者論」が定着した。

まず、含み資産として市場性を持っていた会員権が紙屑になり、コアゴルファーの懐を直撃しました。その損失を確定申告で落とせたのが多少の救いだったとしても、民事再生が法制化されたでしょ。あれは預託金を切り捨てるための法律ですよ。

今では多くの破綻企業が申請していますが、基本的にはゴルフ場の預託金対策として生まれた法律だと私は思っています。会員の怨嗟が連日報道され、「ゴルフ」がバブルの象徴と見なされるようになったのです。

ただ‥‥。日本独自の預託金制度が諸悪の根源のように言われますし、悪用した経営者は責任を問われて当然ですが、預託金がなければ日本のゴルフ産業は発展しなかったようにも思いますね。

国土の狭い日本では用地買収にお金がかかり、コース建設は極めて困難です。アメリカのゴルフ場は8割がパブリックコースですけれど、日本のパブリックはわずか1割で、9割が会員制になっていることにも明らかです。

もうひとつの事情を言えば、欧米型の入会金と年会費でゴルフ場運営を賄うと一時所得が発生し、税金で半分持っていかれるわけですよ。預かり金にはそれがないし、まして第三者売買で流通すればゴルフ場が預託金を返還する必要もありません。

この方法が生まれたのは60年代でしたけど、仮に違う方法をとったなら、2500コースはできなかったと断言できます。

バブル三悪と呼ばれた会員権

問題は、預かり金にもかかわらず、これを自分のものと勘違いした経営者が多かったことですよ。証券取引が厳しい株は財務省への届出など、しっかりチェックされますが、会員権は有価証券ではありません。単にプレーするための権利にすぎません。

70年代には土地を購入する前に会員を募集した企業もありましたし、会員権業者には資格制度がなく、保証人も必要ない。責任を持つべきオーナーも返すつもりがないなど、まるで無法地帯だったのです。

一方、ゴルファーにとっても会員権は恰好の投機対象でした。上がれば第三者売買で利益が出るため、個人が3口も4口も買いましたし、法人も積極的に購入した。これは単なる推測ですが、トータル20兆円を超える額が会員権市場で動いたのではないか。途方もない金額だと思いますね。

バブル三悪(土地、株、ゴルフ会員権)と称された会員権は、その価値を急速に下げ、預託金の償還期限も迫るなどで破綻企業が相次いだ。今後、法改正により個人会員権が損失計上できない事態にでもなれば、さらに混乱するかもしれない。まさに青息吐息の状態だ。

ここに着目したのが外資系の投資会社である。「ハゲタカ」と呼ばれた投資ファンドは、底値でゴルフ場を買収し、経営を建て直して売却するという青写真を描くなど、国家的資産の草刈場になってしまった。これがのちに、アコーディア・ゴルフとPGМという二大ゴルフ場チェーンの誕生につながっていく。

ハゲタカが買収した方法

彼らが買収するポイントは、金銭的価値の有無にほかなりません。それのみを追求するはずだし、売却によって利益を得るのは当然です。

その際、ゴルフ場の価値判断は大きく2つに分かれます。ひとつは単年度の収支であり、他方は資産価値の観点です。

今のご時勢で18ホールを造ろうと思えば50億円でも無理ですよ。だけど、バブル時代に比べてゴルフ場の資産価値は10分の1に落ち込んでいて、これは下がりすぎだと私は判断します。外資が特に狙うのは単年度収支の悪いところで、ここにアイデアを注ぎ込んでキャッシュフローを発生させ、売却物件の価値を高めるという方法です。

利益が出る目処が立てば売却するのは当然で、躊躇する理由はありません。買値と売値の差額が利益になる。大量の破綻コースを買いまくる外資系ファンドは、上場してお金が入ったら手仕舞いするんじゃないですか。このスキームは5年から10年のターゲットで完結すると思います。

最近では東京建物など、国内の不動産関連が買い始めましたが2~3年遅いですよ。機を見るに敏な外資系に比べて、日本の会社は如何にもアクションが遅いですね。


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片山哲郎

片山哲郎

1962年8月3日生まれ、東京都出身。
「月刊ゴルフ用品界」(GEW)を発行する株式会社ゴルフ用品界社の代表取締役社長兼編集長として、ゴルフ用品産業及びゴルフ界全般の動向を取材、執筆。2014年4月に日本ゴルフジャーナリスト協会の会長に就任(現任)。

ほかにインタラクティービ(J:COM)番組審議会委員(現任)、ゴルフ市場活性化委員会マーケティング委員(現任)、大学ゴルフ授業研究会理事(現任)。

信条は「人の至福は健康で長生きすることであり、これに寄与できるゴルフは『善』である。善なるゴルフ産業が健全発展するために、建設的な批判精神をもち、正確、迅速、考察、提言を込めた記事を書く」――。

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