1. 社長の記事

許認可や権利関係でコストが莫大になった  ゴルフ産業を創った男(12)

社長の記事 片山哲郎

月刊ゴルフ用品界(GEW)2005年1月号~2006年3月号に掲載していた大西久光氏の「シリーズ温故知新」をウェブ用に再編集したものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。写真は文章と直接関係ありません。


日本ゴルフコース設計者協会の理事長を務めたこともある大西久光氏は、日本のゴルフ場の開発コストが莫大な理由を、単に地価の問題だけではなく、複雑な許認可制度に伴う支出や地権者への対応もあったという。

また、ゴルフ場の成立基盤もそれぞれ異なっており、再生計画にも複数の道があったと振り返る。

日本のゴルフ場はどのような構造で成り立っていたのか? この点を改めて浮き彫りにしよう。

複雑に入り組む許認可制度

日本とアメリカのゴルフ産業を比較すると、決定的に違うのが造成に関わる諸条件です。それが日本の高コスト体質を育んだと言えますし、振り返れば諸悪の根源だったかもしれません。

たとえば許認可の問題です。用地外周の30mに手を加えたらいけない、ホール間には30mの自然林を残さねばならない、用地全体の5割を自然林として残せなど、様々な制約が加えられる。無論、自然保護は尊重されてしかるべきですが、実態にそぐわないものも多いんです。

百年に一度の災害を想定した調整池などが最たるものでしょう。あるゴルフ場では防災関連だけで数十億円も出費したし、同じことは許認可にも言えますね。図面や環境アセスメント等、申請には多くの要件が求められ、関連費用が2億円など、本来の造成と無関係なところで多額の費用が発生したのです。

まだまだあります(苦笑)。国内のかなりのゴルフ場は一部を借地で賄っており、日本の場合は1コースにおける地主の数が100人、200人にもなってしまう。それぞれ考え方や家庭の事情も違うわけで、そういった人達を同時に口説くのは想像以上に難しいんです。結果、バブル前の地上げでは路線価よりはるかに高い買収費用を払うことになりました。

ゴルフ場

古い名門コース、たとえば西宮CC(兵庫県)などは敷地が20万坪程度で造れましたが、新しいコースは規制によって倍程度の面積が必要になったわけです。

韓国では国が認可を行ないますが、日本は県単位だから統一できません。昭和48年(1973年)、神奈川県はゴルフ場開発をストップして、だから県内52コースは当時のままなわけですが、もし国が神奈川県のような指導力を発揮していたら、大きな破綻はなかったでしょう。許認可は利権と密接につながっていたので、国策よりも情実を優先した面が否めませんね。

ゴルフ場開発が高コスト体質になったのは、1988年に制定されたリゾート法(総合保養地域整備法)の存在もある。バブルの上昇気流に乗った日本経済は、時短による余暇時間拡大策をとり、その受け皿として活発なリゾート開発が行なわれた。

開発が制限されていた国立公園地域や水源保安林、農業振興地域なども指定解除や用途変更が認められ、不動産会社による土地の買い占めが始まった。同年のゴルフ場数は1640だったが、往時、一説には1000ヶ所を超えるゴルフ場開発が計画されるという空前のラッシュが勃発した。

ゴルフ場の成立形態は3種類

仮に国家がゴルフに理解を示し、国策として有効に活用していれば、様相はかなり違ったはずです。

たとえば国内には1万コース分を超える広大な休耕地があると言われています。戦後、食糧難に陥った日本はその体験から、平坦な土地をすべて農地にした。今は必要ない休耕地がほとんどですが、だとすれば農協がゴルフ場を運営するとか、有効な対策があったわけですよ。

農地は治水のインフラが整っており、平坦なため造成も安くなる。つまり、預託金をかき集める必要がありませんから、アメリカのように8割がパブリックという健全な姿も期待できたと思うんですね。

まあ、過去を悔やんでも仕方ありませんけどね。問題は将来の姿ですよ。私は経営難のゴルフ場を再生する仕事もしていますが、そういった観点からゴルフ産業の未来像を考えてみましょう。

まず、ゴルフ場の実態ですが、前回でも触れたように全体の半数が厳しい状況に陥っている。その中で起きている紛争は、会員とゴルフ場運営会社の対立に集約されています。

コースの設立形態は、おおよそ3種類に分けられます。ひとつはゴルフ場に対して運営会社、金融機関、会員(預託金)という三者の資金が絡んでいるケース。次に金融機関からの借り入れがなく、預託金と運営会社の出資で開場したもの。3つ目は会員のいないパブリックコースです。

紛争解決に法的措置を必要とするのは、基本的には一番目の形態ですね。金融機関が融資を回収するのは当然だから、国も民事再生で支援した。新法の導入によって銀行の権利を法的に裏付けたわけですよ。

銀行の不良債権はようやく解決の目処が立ち、ゴルフ場は国家的問題ではなくなっている。会員の権利が「国家的無関心」になりつつあるのです。

仮に会員権が出資金なら、フェアだったと思いますよ。だけど、出資ではないゴルフ会員権には法的な権利がありません。調停役の弁護士はゴルフ場、会員の双方について、破産しても料金を取る。だから弁護士は法的な処理を薦めますが、権利が担保されない会員は取られ損じゃないですか。いずれにしても弁護士が儲かる仕組になっているのです。

会員にも責任はあった

こういった経緯から生まれたのが中間法人というもので、簡単に言えば会員で組織される理事会を法人化したものだ。株式会社の簡略化である。理事会では担保設定ができないが、中間法人はそれができる。会員から代表者を3名ほど選んで預託金を権利化し、会社が売却できないようにガードする狙いがある。

ゴルフ場

だけど、中間法人にも問題があるんですね。これは会員側の組織だから、ゴルフ場会社とはイコールにならないでしょ。利害対立の根本的な問題が解決しにくいわけですよ。

そこで預託金を株式化する方法もありますが、こちらも問題を抱えている。大半のゴルフ場は数百人、場合によっては千単位の会員も珍しくなくて、これだけの人数を株主にすると上場企業並の監査が求められる。ほとんどのゴルフ場は中小企業じゃないですか。だから監査法人に耐えられる能力はなく、よほど気合を入れないと実現が難しいのです。

最近では中間法人が経営者を選出する例も増えており、個人的には良い方向だと思いますが、権利関係が複雑に絡むゴルフ場の再生には特効薬が見つかりません。

ただ、新しい試みは出始めています。私はさるゴルフ場の再生を手伝ってますが、これは先ほど示した2つ目のケースです。銀行からの借り入れがなく、会社の出資と預託金によって構成されている。従来は会社が100%の経営権を握ってましたが、これを会社側35%、会員側65%に再配分して、メンバーの半数が役員になるというものです。

考え方としては以前の和議に近いですね。和議法は債権・債務者の利害調整を裁判所が行ないましたが、裁判所の代わりに民間人がコーディネーターを務めるもので、例は少ないと思いますよ。

金融機関が介在しないケースでは、必ずしも法的処置が必要ではありません。両者の話し合いで解決した方が、長い目で見て理想的だと私は確信します。

先日、この件で会員さんと話し合いの場を設けました。再生への協力をお願いしたわけですが、そこで私は「会員にも多少は責任があった」と申し上げました。だって、会員権の値段が上がったら売る、下がったらゴルフ場に返してもらう。そんな投資はありませんよ。

日経会員権指数によれば、90年3月で930だった指数が03年6月には46にまで落ちている。つまり、会員権の価値が20分の1になったわけですが、経済環境全体を考えれば、これはどうしようもない面もありました。

単にゴルフ場の問題ではなく、経済環境が密接に絡んでいる。私の説明に皆さん頷いておられましたが、こういった話を丁寧にしながら地道に理解を得ることが大切です。

いずれにせよ、ゴルフ場の再生には市場の活性化が必要ですが、私は大丈夫だと考えています。次回、その理由を説明しましょう。


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ライター紹介 ライター一覧

片山哲郎

片山哲郎

1962年8月3日生まれ、東京都出身。
「月刊ゴルフ用品界」(GEW)を発行する株式会社ゴルフ用品界社の代表取締役社長兼編集長として、ゴルフ用品産業及びゴルフ界全般の動向を取材、執筆。2014年4月に日本ゴルフジャーナリスト協会の会長に就任(現任)。

ほかにインタラクティービ(J:COM)番組審議会委員(現任)、ゴルフ市場活性化委員会マーケティング委員(現任)、大学ゴルフ授業研究会理事(現任)。

信条は「人の至福は健康で長生きすることであり、これに寄与できるゴルフは『善』である。善なるゴルフ産業が健全発展するために、建設的な批判精神をもち、正確、迅速、考察、提言を込めた記事を書く」――。

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