エンジョイ派と競技者向け ゴルフルールが2つに分かれる?

エンジョイ派と競技者向け ゴルフルールが2つに分かれる?
「ルールは世界にひとつ」――。ゴルフ規則を統括する英R&AとUSGA(全米ゴルフ協会)は、常々そのことを強調している。今年1月に発行されたルールブックの裏表紙にも「R&AとUSGAは世界中のすべてのゴルファーに適用される1つの規則を発行しています」と明記してある。 老若男女が技量の違いを超えて、同じフィールドで楽しめるのがゴルフの特徴。腕前の違いはハンディキャップやティエリアの位置を変えるなどで補うという考えだ。 が、「世界にひとつ」が時に問題を生じさせる。代表的な例が高反発クラブの扱いだ。 2008年1月、飛びすぎるドライバーを規制する目的で「高反発規制」が施行され、規制のct値を超えるクラブは「ルール違反」となった。 そのため飛距離の減少に悩む高齢者は、高反発ドライバーの使用を断念してゴルフをやめるか、あるいは他人の目を盗むようにして使い続けるかを迫られた。日本のゴルフ市場は団塊の世代に支えられており、高反発規制はゴルフ人口の減少に拍車を掛けると懸念された。 当時、これを受けて規則の「二分論」が勢いを得ている。高校野球は金属バット、プロ野球は木製バット。それと同様、ゴルフ規則もエンジョイ派と競技者向けに規則を分けるべきとの主張である。日本では競技ゴルファーが1割未満であり、残り9割の大多数が「競技規則」に縛られるのはおかしいとの論調だった。 むろん、この主張は「世界にひとつ」の前に退けられて現在に至る。高反発ドライバーを製造販売するメーカーは「ビジネスとルールは別」との論陣を張り、賛否両論が渦巻いた経緯もある。

ツアーは距離計を禁止する

エンジョイ派と競技者向け ゴルフルールが2つに分かれる? ところが、ここに来て新たな動きが出始めた。距離計測器を巡る規則の扱いがそれである。 周知のように、昨年までのゴルフ規則は各競技の委員会(運営者)がローカル規則で認めれば距離計を使用でき、ゼネラル規則と呼ばれる「本規則」では使用を禁じていたが、ルール改定後は本規則で全面解禁、ローカル規則で禁止できるとなった。 これを受けて、世界のツアー競技がローカル規則で禁じる動きが目立っている。日本ゴルフ協会(JGA)で規則統括部長を務める市村元氏によれば、 「わたしの知る限りではUSPGAツアー、ヨーロピアンツアー、アジアンツアーなど世界のほとんどのツアーでは、ローカル規則で距離計測器の使用を禁じています。また、JGAは昨年末に競技委員会を開き、今年の日本オープン、日本シニアオープン、日本女子オープンで距離計測器の使用を禁じるローカル規則の制定を決めました」 国内男子ツアーを統括する日本ゴルフツアー機構(JGTO)の田中謙治広報部長も、 「我々も世界の潮流に倣って禁止する方向で考えています。今後、選手会に説明する方針ですが、改めて対外的に発表するかどうかは考えていません」 このように、ツアー界は総じてローカル規則を採用するが、この動きを拡大解釈すれば、「プロルール」はローカル、エンジョイ派向けの「アマルール」は本規則という二分論が、現実味を帯びてきたと言えなくもない。 そもそも今回のルール改定は、世界的なゴルフ人口減を重く見て、難解な規則を大幅緩和、ゴルフへの敷居を下げることも狙いのひとつ。スポーツマーケティングサーベイ社の2017年度調査によれば、世界の登録ゴルファー数は2012年比で2・4%減少しており、英国では4・3%減、米国は7・9%減と深刻だ。 日本では、団塊の世代が後期高齢者に突入するとゴルフリタイアが一気に進み、プレー人口の激減が予想されている。 このような状況下、先述した高反発ドライバーを含む厳しい規制は、百害あって一利なしとの指摘もあるだけに、本規則で解禁し、逆にプロや競技者向けのローカル規則で禁じる動きが出てもおかしくない。 むろん、ボールを含む用具規制をすべて取り外せば、飛距離はどこまで伸びるかわからず、ゴルフ場は飛来する白球の戦場となりかねない。また、規制があるからメーカーは技術革新に磨きを掛ける。 その意味で用具規則にはメリットとデメリットが共存するが、すべてを競技者向けの規則に統一することの不備は再考する必要があるだろう。 木製バットと金属バット――。ローカル規則の活用によってエンジョイゴルファーの「後ろめたさ」を解消できれば、既存ゴルファーのリタイア防止にもつながるはず。そう考えれば、距離計を巡るローカル規則の運用法は今後の参考事例になるかもしれない。