1. 社長の記事

メルセデス上野金太郎社長が考えるゴルフとクルマ業界の相性

社長の記事 片山哲郎
メルセデス・ベンツ 代表取締役社長兼CEO

メルセデス・ベンツ日本は今年3月、今季男子ツアー24戦を支援するため日本ゴルフツアー機構(JGTO)と公式パートナー契約を交わした。「メルセデス・ベンツ トータルポイントランキング」(9部門)を設定し、年間1位の選手に賞金100万円と2000万円相当のSクラス車を進呈するもの。

同社は2012年から国内女子ツアーに同様の支援を行っているが、男女ツアーをサポートすることで「ゴルフ愛」の姿勢を鮮明に打ち出す。

なぜか? 長身の上野金太郎社長に、クルマ業界の現状やメルセデスとゴルフの関係性、その他諸々について話を聞いた。文末の動画と併せてご覧頂きたい。(聞き手・片山哲郎)

シニアの暴走と免許返納

一時は連日のように報道された高齢者の暴走運転と免許返納問題。これはかなり深刻ですが、まずはその印象から伺います。

「そうですねえ。わたし自身、返納制度自体についてはポジティブに捉えておりますが、運転の能力には個人差がありますので、年齢で一括りにするのは少し危険かなと思っています。

実は、わたしの母は79歳で返納しましたが、日常生活で転んだり、運転も小さなミスが目立つようになったので話し合いで決めたんですね。この問題に関しては、返納制度に準拠して決めるのもひとつの方法だし、自動運転が普及すれば高齢者の移動手段として期待できると思います」

その自動運転の状況ですが、現在はレベル2~3、つまり高速道路の運転で先行車の急停止を避けられるという段階ですね。完全自動化はレベル5になりますが、そこに届くまでどれくらい時間が掛りますか。

「まず、自動運転につきましては世界で統一的な基準が制定されていないのが現状です。国によってインフラの状態が違っていて、そのひとつがデジタルマップなんですね。つまり、自動運転には最低限必要なデータソースを統一する必要があるわけで、これが整っておりません。それと、メーカー独自のアルゴリズムやレーダーなどの機能をどうやってクルマに組み合わせるのか、この面での課題も残っています。

複雑な要素が沢山あって、ひとつの基準だけでは進まないわけですよ。これらを網羅する段階には各社とも至ってないのが現状といえます」

なるほど。そういった状況の中、御社の自動運転技術で特筆すべき性能は何ですか?

「当社ではディストロニック(アクティブディスタンスアシスト・ディストロニック=自動再発進機能)と呼んでいますが、これはクルマのフロント部分にあるステレオマルチパーパスカメラとレーダーセンサーにより、先行車の速度に応じて車間距離を調節する機能があります。

停止した先行車も検知できるもので、先行車との距離が突然縮まった場合は警告を鳴らすなどの技術です。高速道路の渋滞で自動停止した場合、30秒以内に先行車が発進したら、アクセルを踏まなくても自動で再発進する機能もついています」

自動車メーカーからの提案

自動運転が一般化すれば、高齢ドライバーにも多くのメリットがありますね。特にゴルフ業界は、シニアの割合が非常に高い。例えばゴルフ場大手のPGMの場合、70歳以上の来場率が23%、つまり4分の1を占めている。シニアの免許返納が進めばこの層のゴルフリタイアが激増する懸念もありますが、自動車業界の立場からアドバイスはありますか。

「アドバイスというのは特にありませんが、モビリティの賢い活用方法を広げることが大事ではないでしょうか。これはあってはならないことですが、酒気帯び運転や前夜に深酒をしての運転は問題なので、そのときは電車で行く、相乗りで自分が運転しないなどほかの選択肢を考える必要があるでしょう。

わたし自身、行きは相乗りで帰りは電車とか、交通手段を組み合わせてゴルフに行くようにしています。当社はクルマ屋ですからね、当然クルマを利用して頂きたい。でも、諸条件を勘案すればクルマ以外の選択もあるのかなと。大事なのは一日ゴルフを楽しんで、事故なく帰宅することですから」

まあ、頷ける話ですが、何か具体的な提案はありますか?

「そもそも、そういう相談を受けたこともありませんしね(苦笑)」

受けたら真剣に考える?

「もちろんです。以前、高速道路のサービスエリアに駐車して、そこで乗り合って出掛けることが問題になりました。これは勝手にやるから問題なわけで、きちんとした仕組みならいいと思うんですよ。

その際、私どもには販売店が全国216拠点ありますので、そこに朝集まって、メルセデスをご体験頂きながら相乗りでゴルフ場へ向かうとか。検討したことはありませんが、このようなやり方は仮定の話として考えられます」

新車の試乗も兼ねて一石二鳥。仮定の話だけど可能性はある。

「そうですね(笑)」

クルマは中古市場と好循環

ところで、前期で33期を終えた日本法人の業績は好調ですね。

「ありがとうございます。数年前までは5万台前後の販売数でしたが、この3年ほどは7万台のレベルに成長しました。最大の要因は小型車種のAクラス、Bクラスに注力して、その層が広がったことでしょう。

私どもでは34車種159モデルを扱っていますが、一番安いのはAクラスの328万円、一番高いのはSクラスで2000万円レベルです。価格的には大きく5段階に分かれていて、購買年齢は40代後半から50、60代の幅ですが、最近は小型車種の影響で40歳未満の方にも購入を検討して頂けてます。

購入にはファイナンスローンを使った残価設定型をお薦めしていて、5~6年前は利用率が35~40%でしたが、現在は6割を超えています。これは販売価格ではなく月額訴求を重視する考え方で、数百万円は『ムリ』となるかもしれませんが、月額いくらです、という形ですね。

すると乗り換えもスムーズになって、3年で2万5000キロぐらい走ったクルマが中古に出回り、中古車市場も活性化するという循環です」

そのあたりはクラブメーカーの参考になるかもしれません。クラブの流通形態は中古やオークションサイトの個人売買など、非常に複雑化していて、実際にどのような動きをしているか誰もわからない。メーカーも頭を悩ませていますが、クルマ業界の手法を真似すれば、というアドバイスはありますか。

「真似すれば、なんて大それたことは思いませんが(苦笑)、私どもは販売店にプロダクトエキスパート(PE)を揃えていて、すべての機能をご説明しています。仮に300万~400万円の車種を購入されても、すべての機能を使いこなすのは難しいじゃないですか。そこでPEがメルセデスの特性や他社との違い、優劣をきちんと事前に話すわけです。ただ、ゴルフクラブの場合は、自分で打ちますからねえ」

技術がないと性能を発揮できない(笑)

「という面もありますし、わたし自身は80台が出たら嬉しいというレベルのゴルファーですが、フィッティングでアドバイスをもらっても、その時に普段と違うスイングをしたら適切なクラブを選べませんよね。なので、具体的にはわかりませんが、通常のスイングをしやすい環境作りも大事では、と考えます」

クルマとゴルフの親和性

さて、JGTOの話です。今季から男子ツアーのサポートも始めましたが、その理由は何でしょうか。

「まず、メルセデスを購入される方の7割ほどがゴルフと接点がある。これが非常に大きいですね。自動車のマーケティングを考えたとき、関連性が高いフィールドにスポーツがあるんです。その場所へ行くまでにクルマが必要だし、モータースポーツのようにクルマ自体でスポーツを楽しむこともある。

ゴルフがメルセデス・オーナーの7割と接点があるのは、移動の利便性や走行性能、安全性等で選んで頂けるのでしょう。ゴルフは長距離走行が多いので『メルセデスは疲れない』と口コミで広がり、他の方も『それじゃ乗ってみようか』と。それで実際に乗ると安全で疲れない、走行安定性と操作性、安全性への評価だと思います。

実は、メルセデスは1939年に安全部門を設立して、その20年後に衝突実験を開始、1969年にはドイツのシュトゥットガルトの警察と連携して、死亡・傷害事故の現場検証に立ち会いはじめているんです。リアルな事故の状況を把握して、開発にフィードバックするためです。そのような歴史を含めてメルセデスは、安全性能に自信があります」

ところで、今は「ベンツ」ではなく「メルセデス」と呼ぶわけですか?

「私どもは『メルセデス』と呼んでいます。その方がフェミニンですよね(笑)」

そのメルセデスが日本のLPGAとパートナー契約を交わしたのが2012年からだから、8年目に突入した。

「はい。LPGAとのパートナー契約は、通常のマーケティングでクルマだけを見せるのではなく、スポーツを通じてもっと知ってもらおうと。それでLPGAと相談してメルセデス・ランキングを作り、ゴルフにコミットする姿勢を表したのです。

わたしはLPGAの表彰式に年8~10回ほど出ていますが、お陰様でトーナメント会場では『毎週見てます』とお声掛け頂くことも多くなって(笑)。毎週は行ってませんけれど、わたしはトーナメントを応援して、選手を応援して、ゴルフを応援する立場なので、ギャラリーの皆さんは好意的に接してくれます」

その効果を査定できますか。

「まず、様々な方からアプローチャブル、つまり声を掛けやすい企業になったと思いますね。メルセデスは敷居が高いという印象から、気軽にご提案頂けるようになりました。

それと、メルセデスのオーナーズコンペも増えています。サテライト店からの参加者を含めると4000人近い規模になって、毎年夏の北海道で70~80人が参加するファイナルを開催するんですね。その上位3名とお連れの方をドイツに招待して、ゴルフの世界大会を開きます。

これは国別と個人戦で競うもので、日本チームのユニホームを作ったりして大いに盛り上がる。私どもはクルマ屋ですが、お客様のニーズを精査して、希望を叶える仕事だと思うんですよ。これはどのような仕事も同じだし、日本独自のサービスを構築すれば可能性は大いに広がるはず。その際、ゴルフはとても有効だと思っています」

なるほど。自動車は工業製品だけど、付加価値を高めるにはソフトが大事になる。そのアイデアを発想するためには現場感覚が重要で、だからギャラリーと一緒にコースを歩く。会議室の発想ではなく、現場の空気感や気づきが大事になるわけですね。

「そこは本当にそうなんです。わたし自身、ツアーのプロアマ大会に招待されて、華やかさや楽しさを経験しています。そこで経験したことを、真似事のようではありますが、プロアマに行き着くことのないゴルファーに対して、メルセデス独自のプロアマをやって楽しんでくださいと。

それで年1、2回、大々的にやっていて、本当に華やかなんですよ。これ以外では夏休みにアコーディアの石岡GCを借りて、メルセデス・オーナーのご子息向けにジュニアレッスンもやっています」

敷居を下げてゴルフ界との協調進める

そういった流れでLPGAからJGTOといったように、ゴルフ界との接点を広げている。

「はい。今季から男子のサポートを始めたのは、LPGAとの関係性が安定期に入ったこともあるんですね。当初は何をすべきかわからなかったし、メルセデス・ランキングの露出も少なかった。それが徐々に浸透して、今はゴルフ雑誌にも常時掲載されています。

女子ツアーとの関係が安定期に入ったので、次は男子だと。実は男子のダンロップフェニックスは27年間スポンサードしていて、迫力あるプレーに魅力を感じていたんですね。『男子も応援してよ』と言われることが多くなって、踏み切ったという経緯です。メルセデス・ランキング1位には、女子が賞金500万円と1000万円相当のクルマ、男子は100万円と2000万円相当のSランクを進呈します」

女子の金額が5倍高い。

「金額はね。だけどクルマは男子のほうが高いですから(笑)。男子プロはSクラスが似合いますが、20代の女子プロゴルファーがこれに乗るのは違和感があるのかなと。

いずれにせよ、私どもは自動車業界ではありますが、ゴルフ業界の方々が温かく迎えてくれて、一緒に仕事ができないかと声を掛けて頂けます。ご提案にはマーケティングのスポーツ担当が対応しますが、わたし自身、プロアマでコースにいる時はいろんな話を伺います」

聞く耳をもっている?

「もちろんです!」

メルセデスは敷居が低い会社だと。

「おっしゃる通りです(笑)」

*月刊ゴルフ用品界(GEW)8月号「VIPの視点」から抜粋・要約。以下、上野氏との動画インタビューを2パートに分けて掲載する。

Part1(約5分間)

Part2(約5分間)


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片山哲郎

片山哲郎

1962年8月3日生まれ、東京都出身。
「月刊ゴルフ用品界」(GEW)を発行する株式会社ゴルフ用品界社の代表取締役社長兼編集長として、ゴルフ用品産業及びゴルフ界全般の動向を取材、執筆。2014年4月に日本ゴルフジャーナリスト協会の会長に就任(現任)。

ほかにインタラクティービ(J:COM)番組審議会委員(現任)、ゴルフ市場活性化委員会マーケティング委員(現任)、大学ゴルフ授業研究会理事(現任)。

信条は「人の至福は健康で長生きすることであり、これに寄与できるゴルフは『善』である。善なるゴルフ産業が健全発展するために、建設的な批判精神をもち、正確、迅速、考察、提言を込めた記事を書く」――。

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