1. 社長の記事

異形ユーティリティ『UFO』でキャスコ阿部社長の考え方

社長の記事 片山哲郎
独自の主義と開発でブルーオーシャンを泳ぐキャスコ

キャスコは昨年1月、創業60周年を迎えている。『ドルフィンウェッジ』や『アカパタ』(赤パター)、『KIRA』ボールといったように、他社と一線を画した商品開発が持ち味だ。

現在はユーティリティ(UT)に特化したブランド『UFO』が快調な売れ行きを見せている。

阿部二幸社長が語気を強める。「当社は飛距離を追求する開発をやめました。ニッチャーの戦略でブルーオーシャンを泳ぎます」

その際、重要なのが新しい価値の「発見」だ。需要を自ら創造するキャスコ流に迫ってみた。

企業再建で覚悟を決めた

企業再建で覚悟を決めた

企業として還暦になって新しい周期に向かいますが、過去の歩みを簡単に振り返って下さい。

「ご存知のようにキャスコは高級ドレス手袋で創業した会社です。以後、ゴルフ市場へ参入して、試行錯誤はありましたが、今はニッチャーの戦略を重視します。競争が激しいレッドオーシャンではなく、独自の商品開発でブルーオーシャンを志向しています。

企業ミッションは『楽しいゴルフ宣言』というものですが、この60年間、いろいろありました。香川(さぬき市)にボール工場がありますが、一時はクラブの鋳造やグリップも自前で作りましてね。

総合メーカーを目指した時期があって、プロ契約も含め大手と同じような歩みをしたわけです。

ただ、今の市場環境で生き残る術を考えると、強みを生かしたニッチャーの戦略でやるしかないと。ですからマスでは戦わない」

マスで戦わない。すなわち独自市場の「発見」ですが、実はこれが難しい。

「おっしゃるとおりです。なのでゴルファーの困り事を常に探して、改善・改良しながら開発する。

『良品完成』を信条として、ゴルファーに喜びを提供することですが、そこに新技術、新素材、新発想がないとただの便利屋になってしまうので、そうならないためのエッセンスを如何に入れるかが勝負ですね」

最大の転換点は、事業再構築を経てマミヤ・オーピーの傘下に入ったことですね。

「はい、2010年にマミヤ・オーピーの傘下に入り、そこから自分達の特色を出して現在の姿になっています。昔の総花的なやり方ではなく、選択と集中に切り替わりました」

それだけを聞けば淡々とした話ですが、大変だったでしょう。当時は日本中でファンドによる企業のテコ入れが相次いだ。典型的なのがゴルフ場だし、御社も例外ではなかったですね。

「当社の場合は2006年ぐらいから再生スキームに入りまして、ファンドが再建をする中でマミヤ・オーピーがスポンサーに名乗りをあげたわけです。

ほぼ4年掛けて完全黒字化の体制を作り、現在の形になりました。当時は300名超の従業員に対して100名規模の人員削減に踏み切りました。以後、従業員数は200名規模でほぼ変わりません」

毎年「40億円規模」の安定成長

毎年「40億円規模」の安定成長

キャスコの持ち味は緻密な営業網ですね。

「おっしゃるとおりです。取引は4000口座ありまして、ゴルフ場の口座が多いんですね。ゴルフ場と練習場で5割を占めます。

グローブやボールなど消耗品が多いから、大手が行かない売場もフォローする。これは、当社の体質と言えるかもしれません」

リストラ前、ピーク時の営業所数はどれくらいですか?

「全国で20ありましたが、再構築で12まで減りまして、再度復活したところもあるから今は14です」

売上の推移はどうですか。

「前期は43億4000万円で、推移としては毎年微増です。5年前が41億9000万円なので、まあ、堅調の部類だと思ってます」

キャスコ UFO by powertornado

クラブはユーティリティ(UT)の『UFO』が好調ですね。ヘッド形状はタコ焼きのバリというか、型押しではみ出た部分が特徴になっている。

「そうですね(苦笑)。まあ、大きな流れで説明すると『UFO』は『パワートルネード』の十代目で、初代は1999年に発売して30万本の大ヒットを記録しました。

当時はリョービの『ビガロスメディア』やプロギアの『ZOOM』など、UTに特化したクラブが引っ張りましたが、今は『ゼクシオ』のドライバー購入者は『ゼクシオ』のFWやUTを買う。

テーラーはテーラー、キャロウェイはキャロウェイといったように大手ブランドで揃える傾向が強く、UTを別枠で選ばなくなった。この流れを覆すためにはUTならではの個性を極める必要があって、それがあの『バリ』の形状です(笑)」

キャスコ UFO by powertornado

UTならではの個性とは?

「UTの困った点の解決です。上がりにくい、つかまりにくいといった声を吸い上げて、これを解決するために特化した形状が個性になっています」

普通、開発の現場がユニークな発想をしても、上司に企画を上げる過程でどんどんつまらなくなっていく。承認する人間が増えるほど常識的な形状になりますね。

「そうなんです。ただ、そうならないために当社の開発チームは社長の直轄なんですよ。コンセプト段階からわたしが見るので、原型と完成品のブレは非常に少ないと思いますね。

『UFO』の場合は研究に2年、開発が5年、商品化までに計7年を費やしています。

ただ、この形状を商品化するにはかなり勇気がいりましたね。片山さんがおっしゃるバリの部分を当社では『ユニバーサルウイング』と呼んでますが、これを付けると重心が非常に深くなって、球が上がり、つかまりやすくなる。

限界までメリットを追求すれば異形状になるのは当然で、タコ焼きもバリの部分が美味いじゃないですか。『UFO』も同じなんですよ(笑)」

GEWの試打映像を見たら7番で9番の高さが出ていた。

「あの高さを出すのがバリでして、何番で打っても球が上から落ちてくる。ピンをデッドに狙えるから『上から攻める』というキャッチフレーズが生まれました。

実は我々も他社同様、飛距離を追求した時期があるんですが、UTに特化する決断をしたときにやめました。正確性が大事だし、飛び過ぎてもいけない。

高齢化が進めばアイアンを振るのが厳しくなるから、将来はアイアンの代替えとしてUTがもっと注目される。そう考えてスパッと開発方針を変えたんです」

それで「上から攻める」という新しい価値を発見した。開発者の視界も開けるでしょう。

「だと思いますよ。過去の連続から抜け出せないと、どうしてもレッドオーシャンに入ってしまう。そこを脱してブルーオーシャンに漕ぎ出すと、開発の自由度が一気に開けるんです。

『上から攻める』というお題に向かうと思いっきりそっちに走りますし、開発の熱量も上がります。

『UFO』は『33』から『99』まで7番手あるわけですが、上の2本はFW、真ん中の2本がロングアイアンとUT、下の3本をミドル・ショートアイアンの代替えとして、ほぼ4度刻みのロフト展開で構成しています」

つまり「飛ばす」よりも、如何にピンに「近づける」かが開発テーマになってくる。

「そこなんですよ! 我々は『近づける』というお題に対して『楽しい』とか『喜び』を加えているんですね。するとディスカッションが生まれます。楽しいってどういうこと、どんな場面で喜ぶの?

先日、バンコクに出張したんですが、現地の言葉がわからなくても『ポケトーク』で通じるじゃないですか。

アレと同じで、高齢者は無理に練習しなくてもクラブでカバーできれば楽しいし、ゴルフを長く続けられる。楽しい、喜ぶという要素が非常に大事だと思いますね」

一日240件のメールをチェック

kasco ウェザーフリー

今年は面白い展開を始めるそうですね。

「はい、今日はそれを話したかったんです(笑)。

具体的には『ウェザーフリー』という新ブランドの発売で、去年、大型台風でゴルフ産業は大打撃を受けましたが、悪天候による来場者減をカバーする目的で立ち上げます」

どんな商品ですか。

「主にゴルフ場のインショップに向けた提案商品で、雨の日に少しでも快適にプレーできるよう水をはじくボールとか、逆風に負けない低弾道のボール、暑い日に涼しさを感じるグローブや日傘を開発しましてね、天候要因による不快さを緩和してプレー意欲の減退を防ごうと、そんな主旨の商品です。

これによってゴルフ場のインショップにコンサル的な提案をできるし、この商品に関してはモノとコトの融合を強く意識します」

売上全体に占めるゴルフ場の割合は?

「現状、全体の約3割と多いですね。この点が他社と一番違うところで、ゴルフ場の口座も1600ほどあります」

全国2200コースとすれば、7割以上を抑えている。

「はい。当社の14営業所が日々対応していまして、具体的には40名の営業マンが一日6件ほど訪問するイメージでしょうか。

北海道から沖縄まで、日々、様々な情報が集まるのがウチの強みです。全営業マンが日報システムを共有して、そこには画像も貼ってありますから、いろんな情報が集まります」

40人の営業マンが一日6件の日報を送ると240件。これを全部見るんですか。

「そうですね、毎朝1時間かけて見ます。もちろん中には重要じゃないものも含まれますが、深い情報がいっぱいあるんですよ。

毎朝7時50分に出社して、日報を見るのがルーティンです。酒は毎晩飲みますが、12時には必ず寝ます」

「深い情報」って何ですか?

「わたしが一番吸い上げたいのは得意先が困っている情報で、イコール商品開発にもつながります。表面的な現象、つまり何が売れているとか『今の情報』は、どちらかといえば軽く流しますね。

ゴルフ場では何が困って、どんな企画を打ちたいのか、その際、何が障害で、我々がどのように解決できるのか。困り事の発見は、ふとしたコメントから得られることが多いんです」

そこは定性分析ですね。終わった数字よりも生の声が大事だと。

「おっしゃるとおりで、そこを大事にしています」

逆風に強いボール

逆風に強いボール

話を『ウェザーフリー』に戻しますが、「風に強いボール」ってちょっと強引じゃないですか。要するに低弾道のボールですよね。

「まあ、強引と言えば強引かもしれませんが(苦笑)、低弾道のボールはアゲインストに強い『風用ボール』と言うこともできるじゃないですか。

我々は『コト訴求』、社内では『シチュエーション訴求』と呼んでますが、モノってね、状況や環境の違いに合わせて使えば、本来の性能をより効果的に発揮しますよね。

先日の展示会で『アゲインストはいいけどフォローで損するじゃないか』と言われましたが、逆風に強いのは間違いない。だからアゲインストに強いんだと、それを言い切る力ですよ」

言い切って何が悪いんだと。

「そうですよ(笑)。で、言い切って『風の日はこれ』ってPOPを作ります。

風が強いと花粉が飛びます。花粉が落ちやすいウインドブレーカーはこれですよと。防虫ハイソックスもありますよ。暑い日に手の甲が冷えるグローブはコレですと。

当社は『7つの不快』を定義しましてね、具体的には寒さ、虫、花粉、風、暑さ、雨、紫外線です。『ウェザーフリー』はこれらの解決に注力するブランドなんです」

天候の違いで売場に変化をつけられる。その点も大事な要素ですね。

「そうなんです。毎日同じ売場だと素通りされてデッドスペースになりますが、天候で変化をつければ活性化しますよね。

似たような商品は他社にもありますが、『ウェザーフリー』というブランドにまとめて、力強くアピールすることが大事です」

アイテムはどうなりますか。

「スタートは今年の3月ですが、4月からはじまる来期に向けて拡充する予定です。

今は雨用キャップ、ボール、グローブ、日傘、アンダーウエアの5品目で、順次品数を増やしますが、『ウェザーフリー』で売上の1割を2年目に達成したい考えです」

プラス4億のビジネスですね。

「はい」

面白いと思うのは、これって失敗しても軽傷ですよね。つまり新ブランド全体の話じゃなくて、個々の商品はダメならすぐに引っ込められる。このあたりが実践的です。

「実はそうなんですよ。ウチは自社工場なので商品開発でトライ&エラーしやすいんですね。さっきの話、『風に強い』でダメだったら『ごめんなさい』って引っ込められる(笑)。

これ、決していい加減な話をしてるんじゃなくて、スピード感の話です。もちろん機能は真剣に開発しますが、これだけ変化が激しく需要が細分化している現代では、実践主義が求められますから」

調べて、分析して、商品化したら市場は変わっている。というか御社は市場を創る立場だから、他社動向や市場傾向に気を奪われる必要がない。

「ですから『ウェザーフリー』はそこへの挑戦でもあるんです。これからも楽しいゴルフを提供して、すべてのゴルファーに感動を与えたい、そのために様々な挑戦をします。

従業員に希望を持たせるという意味でも成長は必要だと思いますし、そのための新規ビジネスも考えています」

成長のベンチマークは?

「今の規模を倍にするとかの話ではなくて、メーカーとしての立ち位置を確立することを念頭に置きます。

まあ、5年後の世界は誰も予測できませんが、少なくとも2022年に50億はやりたいなと。これを実現するためにはモノとコトの融合が不可欠で、来期中に詳細を発表する予定です」

ヒントをください。

「言えませんが、固まったら真っ先にお知らせします(笑)」


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ライター紹介 ライター一覧

片山哲郎

片山哲郎

1962年8月3日生まれ、東京都出身。
「月刊ゴルフ用品界」(GEW)を発行する株式会社ゴルフ用品界社の代表取締役社長兼編集長として、ゴルフ用品産業及びゴルフ界全般の動向を取材、執筆。2014年4月から3期6年、日本ゴルフジャーナリスト協会会長(現顧問)

ほかに武蔵野美術大学特別講師(ゴルフビジネス論)、インタラクティービ(J:COM)番組審議会委員、大学ゴルフ授業研究会理事、ゴルフ市場活性化委員会マーケティング委員(各現任)

信条は「人の至福は健康で長生きすることであり、これに寄与できるゴルフは『善』である。善なるゴルフ産業が健全発展するために、建設的な批判精神をもち、正確、迅速、考察、提言を込めた記事を書く」――。

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