1. 社長の記事

ゴルフ場開放宣言 セブンハンドレッド小林社長が描く地域社会との共生

社長の記事 片山哲郎

ゴルフ人口は800万人規模で国民の7%。つまり、一部の富裕層が広い土地で独占的に遊んでいるというイメージが、ゴルフにはある。

今回登場するセブンハンドレッドクラブ(栃木県さくら市)の小林忠広社長は28歳。創業家の三代目だ。それだけを聞けば世間と乖離した「ゴルフ愛」や価値観の持ち主と思えるが、意外なことにゴルフ界の現状を容赦なく斬る。

「業界は思考停止状態」「地域社会に役立たなければ未来はない」――。異色の若手経営者が、ゴルフ界のあるべき姿を明示する。まずは動画、その後インタビュー記事をお読みください。(聞き手・片山哲郎)

ラグビーで育ちました

「いろんなペットボトルがありますねえ。わたし、このお茶頂いてよろしいですか?」

どうぞ。欲しい物を「欲しい」と言えるタイプなんですね。

「はい。欲しいと思ったら取っちゃうタイプなんです(笑)」

それも若さの特権かな。いくつですか?

「1992年生まれで28歳になりました。弊社の社長になったのは2019年の4月だから当時は26歳です。自社調べでは、世界最年少のゴルフ場経営者だったと思います」

ほお、ギネスに申請した?

「いえ、あくまで自社調べですから(笑)。まあ、若さだけじゃなんのウリにもなりませんし」

ゴルフ場経営は家業ですね。三代目ですか?

「はい、セブンハンドレッドは祖父が創業しています。開業は1980年の5月なので40周年を迎えました。ぼくは幼少期から栃木のゴルフ場に通っていたので、ゴルフ場で生まれてラグビーで育ったという人間なんですね」

高校で「花園」に出場したとか。

「そうなんです。慶応の付属校で、10年前の90回記念大会に出ています。すぐに負けちゃいましたけど、当時はラグビー一筋で主将でした。

それで大学もラグビー部から声が掛かりましたが、目標の花園出場を果たして燃え尽きたというか・・・。高校で引退して、大学時代はラグビー協会やオリンピック委員会の仕事をしたり、NPOを立ち上げたり。その後、大学院ではシステムデザイン・マネジメントを学んで、ワシントンDCにも留学しています」

NPOは何をする組織ですか?

「アメリカのスポーツコーチングを日本に導入したんですね。何をするかと言えば、実は何もしません(笑)。コーチングはひたすら聞くことが大事なので」

そうですか。そのあたりは後程伺うとして、小林さんはゴルフ場の若手経営者として注目株だと聞いています。今日はいろいろ教えてください。

「とんでもありません(苦笑)。ただ、わたし自身は家業であるゴルフ場経営やゴルフ業界そのものの在り方に違和感を覚える部分が多いので、みなさんの協力を頂きながら変えたいという思いが強いんですね。じゃないとゴルフ産業は続かない、終わってしまうという危機感があります」

そこはまったく同感ですが、「変革」のイメージはどんな感じ?

「そうですねえ。たとえばセブンハンドレッドがある栃木県のさくら市教育委員会と話す機会があるんですが、自分は東京育ちなので田舎は土地が余っている、子供が遊ぶのに不自由しないだろうと思っていたら、意外と場所がないんだと。

中学の陸上で練習できる場所が少ない、暗くて狭い道が多いから安心して遊べないとか。それ聞いてショックを受けたんですよ」

ショックですか。かなり強い言葉だけど。

「はい。この話とゴルフ場の在り方はリンクしていて、我々の存在意義そのものの問題になるんです。当コースは『みんなが幸せを実感できるゴルフ場』を掲げていますが、『みんな』についての再定義を含めて、果たして我々は社会に貢献しているだろうか、と。

ぼくも父も祖父も東京の人間で、この地域の里山を買い取って木を切って、自分達の庭にして『入山料』をもらうビジネスじゃないですか、ゴルフ場って。

だけど地域に貢献しているかといえばそうではなく、囲いを作って一線を引く。場合によっては地域社会と隔絶している。果たしてそれでいいのかと。ここに大きな疑問を感じるんです」

わかります。一握りの金持ちが広大な土地を占有して遊んでいる。それがゴルファー以外の大方の認識だから、内心反発もあるだろうし。

「ですからゴルフ場は、もっと社会に求められる存在になるべきだと思うんですね。格としての一流ではなく、社会にとって有意義な存在として一流を目指したい。そのためには『地域社会』に根差す意味や意義を生み出さなければと考えています。

ぼくが社業に携わったのは2016年からですが、事業を継承するからには、そのあたりのビジョンを明確にしなければと考えていました」

今後10年で700トライ目指す


それは、ゴルフ場を地域の共有財産にするという考えですね。だけど一方で、俱楽部制度は本質的に排他的です。文化も同じで純度が高まるほど排他的になる。

御社は当初、会員700人に限定した少数の俱楽部制度から始まっています、それが名前の由来だし。

「正確に言うと700法人の会員で運営するというコンセプトでしたが、それは創業時代の話なので、ぼくの代になってからは『みんなの幸せ』を全面的に打ち出しました。

セブンハンドレッドは今後、700のアイデアを出していこう、向こう10年間で700のトライを決めるんだと、それが今の方針です。

ゴルフ業界は昭和のスタイルから脱してないし、少しキツイ言い方をすれば何も考えていないんじゃないか」

それはまあ、ずいぶん刺激的な発言ですが、そのような批判眼は家業を斜めに見て育ったこともありますか? ゴルフ場経営者の家に生まれてゴルフ部に入ったら「ゴルフバカ」になりそうだけど、ラグビー部を選ぶあたり、反骨心が旺盛だったとか。

「ていうか、そもそも小学生で170㎝と大きかったんですね。今は176だから6㎝しか伸びていませんが、当時から足は遅いし俊敏じゃないし、運動神経はよくなかったんです。

それでもラグビーはみんなに活躍の場が与えられる。フィールドに立つのは15人で、メジャー競技の中では一番多いじゃないですか。チビでもデブでも役割があって、いろんな形でチームに貢献できる。そこに魅力を感じたというか」

ポジションは?

「ロックでタックル専門です。役割はとにかく突破することで、常にケガが絶えません。大きなのは眼底骨折で、脳震盪は30回以上やってます。

ラグビーで培った経験が自分の哲学になったというか、『オール・フォー・ワン』『ワン・フォー・オール』の精神は自分にとって非常に大きいです」

ゴルフ場は「昭和のモデル」

それが先ほどの話、地域社会におけるゴルフ場の在り方につながるわけですか? 地域が困っているなら力になろうじゃないか、「ワン・フォー・オール」の精神と言うか。

「そうですね。地域社会は過疎化や高齢化が深刻ですが、それに対してゴルフ場ができることはもっとあるはずです。利用税の面では多少、貢献してると思いますよ。さくら市には年間1億ほど利用税が落ちていて、歳入の1%ほどを占めていますから。

それと、デスティネーションという意味では市外からお客さんを呼んできて、地域にお金を落とす意味もある。だけどそれ以外の部分では昭和から何も変わってなくて、マネジメントやブランディングも然りですよね」

昭和の事業モデルとは?

「まず、概念としてカントリークラブとゴルフ倶楽部がありますが、今は大手チェーンが実質パブリック化しています。ご承知のように日本でゴルフ場が増えたのは会員権の投機ビジネスがあったわけで、今は会員制とパブリック的なコースに大別できますが、会員制は会員を増やしてプレー収益と年会費を得るビジネス。

一方のパブリックは、ともすれば沢山入れて安かろう悪かろうになりがちなモデルなので、個別のマーケティングがありません。あったとしてもゴルファーのためのブランディングに限定されるし、集客をネット予約会社に頼り切ってる現状を見れば思考停止状態だと思います」

激しい言葉ですねぇ。ゴルフ場は頭を使ってない。

「そこをどうやって突破するかを考えたとき、当社のステイトメントでは『みんなが幸せ』を掲げてますが、業界関係者やゴルファーだけではなく、社会を巻き込んで『ゴルフって変わったよね』と思われないと、ゴルフ産業は終わってしまいます」

プレー人口800万人規模、国民の7%を相手に争奪戦をしていると産業自体が疲弊する。コロナで瞬間、3密回避でゴルフ場入場者は増えたけど、基本的には縮小局面での価格競争が常態化している。ゴルフ場だけではなく、クラブメーカーも同じです。

「そうですよね。で、いろんなゴルフ場のHPを見ましたけど、例外なく『ゴルフ』って言葉が入ってます。でも、ゴルフ場の利用者はゴルファーに限定する必要はないと思うんですよ。

キレイに整備された土地に『人々がそれぞれの目的をもって集う場所』と再定義すれば、ほかにやりようがある。我々の場所を求めるのはゴルファーだけじゃないよねって」

自分は優秀じゃないんです

「オレの土地だ」って守るんじゃなく、開放する。開放して新しいセンスが入ってくると多様的な価値が生まれる。

「そこなんですね。ゴルフ産業はゴルフ産業だと頑なに言い続けるのではなくて、観光産業かもしれないし、わたしはヘルスケア産業だと思っていますが、多様な観点があるべきです」

いろんなゴルフ場経営者と話しますが、ここまで突き抜けてるのは珍しいですね。

「そうですか(苦笑)」

進歩的と言われる経営者でも、ベースはやはり「ゴルフ」になる。御社の場合はコース名もセブンハンドレッドで「ゴルフ」が入っていませんが、小林さんが社長になってから?

「いえ、以前からセブンハンドレッドクラブです。セブンハンドレッドゴルフ俱楽部とかならもう少しゴルフ寄りになるのかもしれませんが、基本は地域のカントリークラブを目指しています」

そういった志向性の元をもう少し深掘りします。話を多少戻しますが、NPO設立の目的は?

「立ち上げは大学4年ですが、そもそも体育会系の指導法は体罰やネガティブなやり方が幅を利かせて、選手の可能性を限定したり、萎縮させる。そこに問題があると思ったんですね。

逆にアメリカのコーチングは自分の能力をポジティブに信じる方向なので、これを日本でも広めたいと。その後、2017年1月に法人格を取りました」

日大アメフト問題で明らかになったのは、外部の指導者が学内に聖域を作って、推薦入学の枠も確保する。中学・高校の運動部に絶大な影響力をもっていて、下手すれば運動部ゴロですね。

一般教養科目の体育教員と体育会の指導者は根本的に立場が違って、部外者が我が物顔で振る舞っていた。

「その背景には勝利至上主義があると思うんですね。『一番になりたいか?』と聞かれれば、誰だって『なりたい』と答えますし、資本主義社会では総じて勝つことが大事です。

でも、勝利できる人はほんの一部で、高校ラグビーは花園に出て、野球は甲子園で活躍して推薦をもらいますが、一部の選手しか報われないのは問題です。

なので、学生スポーツは勝利を目指す過程に価値があると再定義しなければなりません」

大学でラグビーをやらなかったのは挫折感もあったわけですか? ふつう、表舞台でやりたいでしょう。

「いえ、ぼくは主将だったので大学のラグビー部から声が掛かりましたが、燃え尽きたということのほかに、ちょうど進学のタイミングで東日本大震災が起きたんですね。

それで、日本がこんなに大変なのにラグビーのマッチョな連中が、自分のためだけに練習してていいのかと。ワン・フォー・オールの精神で言えば、今こそボランティアで被災地に行くべきだと。

少しでも力になりたくて、被災地で活動してました」

ラグビーで鍛えた体力を社会に役立てる。

「純粋にそう思ったんです。NPOの話に戻せば、14人の仲間と立ち上げてワークショップとかをする活動なんですね。とにかく話を聞きますが、その際ポジティブな精神状態や環境が凄く大事で、そういった状態に置いてあげることもコーチングの役割です」

二十歳そこそこで表舞台ではなく、裏方の面白さを見出すセンスがユニークですね。

「あのぉ、全部できる選手だったら、そうはならなかったと思うんです。主将でしたがスタメンじゃなかったし、足も速くない、できるのはタックルだけで」

あれは難儀な係でしょう。突っ込んで蹴られて踏んづけられて、脳が揺れたり目ン玉折ったり。

「はい(苦笑)。ですから、自分は優秀じゃないなと思ったときに、仲間にいろんなお願いをしたり、助けてもらったり。その中でチームのビジョンをつくってみんなで達成して、さらにビジョンを更新する。そこにぼく自身、遣り甲斐や喜びを感じました」

「自己学習」する組織

そういった人生観が、独自の組織論なり新たなゴルフ場の在り方につながるのかな。

「そうですね。ウチのゴルフ場もそうなんですが、個人オーナー系で残ったところはトップダウンが多いですよね。祖父や父の代もそうでしたが、ぼくの場合は現場の声を極力拾うようにしています。

それぞれの社員が経営者感覚でオーナーシップを発揮して、組織自体が学習するというやり方です」

ゴルフ場の組織は異質でしょう。経営会社がある一方で理事会もある。大半のコースは地権者が3割ほど土地をもっていて、地主が理事会に入るケースもある。地主は時間と金があるからゴルフが上手くて、やたら威張り散らすとか。

「ウチのゴルフ場は今、地権者はほとんどいないんですね。それと会員は無記名法人だから理事会もなくて、この点はラッキーだと思います。

それと、ウチには支配人もいないんですね。『支配するヒト』って役職自体、なんかヤバくないですか(笑)。

セブンハンドレッドは割と高級路線で、域内の烏山城やジュンロペまではいきませんが、いいお客様に愛されて残ったゴルフ場なんです。一方では知名度が低いのが欠点で、東急セブンハンドレッドと勘違いされますけど」

事業の規模感はどうですか?

「そうですねえ。まず、専有面積は100万㎡ほどで、来場者は年間3万3000人です。2019年度の客単価は8000円台で昨年は7000円台でした。

平日は7000円あたりで土日が1万4000円かな、それでもちゃんと利益は出ています」

大手ゴルフ場チェーンの場合は客単価9000円が収支の攻防ラインです。理想としては客単価1万円で5万人の5億だけど、御社はその半分という感じですね。

「5億までいけば理想ですが、ゴルフ場経営は規模感だけで測れない面もあるんですよ。ウチの売上規模で利益が出ているのは比較的フラットな地形だから、コース管理費が安い強みもあるんですね。それと正社員は36名で、」

それはかなりコンパクトですね。

「だと思います。この36人を3チームに分けてオペレーションしていますが、支配人はいないけど部長がいて、業務部長、総務部長、コース管理部長の3名です。

業務はレストランやスタートルーム関連の仕事、総務は営業企画や新規事業を統括して、部長の下のリーダー格が補佐するという形です。

で、ぼくがゴルフ場へ行くたびに必ず何か変わってるんですよ。先ほど社員一人ひとりがオーナーシップを発揮するのが理想と言いましたが、これはMITの教授が提唱する『学習する組織』に則ったもので、組織自体が知見を溜めて自己学習する経営論です」

MIT(マサチューセッツ工科大学)だと経営工学の分野でしょうね。ナマモノである会社組織を工学的に考察する。

「おっしゃるとおりです。企業文化の側面を含めて、組織にとって大事なことを、組織自体が遅滞なくジャッジする。一例がぼくの社長室で、ゴルフ場に毎日来るわけじゃないから『社長室いらないよね』って何気なく言ったら、ある日突然物置になっていて」

物置って?

「・・・物置です。突然ゴルフボールとか景品が置いてあって、本当に物置にしてしまった(笑)。

レストランのメニューも気づけば変わっているし、お客さんが『チャーシュー美味しいね』って言ったらお土産で販売して、自家製のドレッシングも売ってます。これらは小さい話かもしれませんが、」

組織を「考える生き物」にする。ヒトの情緒を含めて工学的に思索するのが面白いですね。組織は情緒の集合体だし。

「はい。この動画見てください。社内では定期的に研修や発表会をやっていて、このときはセブンハンドレッドのイメージを持ち寄った発表ですが、部長ではなく一般社員が仕切っているんですね」

楽しそうですねぇ。ヒトは誰かから期待される、役立っているという充足感が喜びになるし、組織の力も倍加する。企業が社員を管理する手法とは対極ですね。

「そこなんですよ。昔は部下が上司の顔色を伺う、部長が社長の顔を見る組織だったかもしれませんが、現場の判断が良ければもっと任せるべきだと思うんです。

レストランの服を変えたいなら、好きなの選んで事後報告でお願いします、みたいな。それで成功体験や自己肯定感を得る循環を生み出すのが『学習する組織』です」

なんもやってないですね

大本の教育は誰がやるんですか。

「わたしがやります」

ほかに社長の仕事は何ですか?

「けっこう今、なんもやってないですねえ(笑)」

なんもやってない?

「はい。基本は新規事業の立ち上げですが、ゴルフ場のほかにも個人的にいろいろやっていて、常時複数の仕事をしてるんです。

現場に来るのは週イチぐらいで、何もしてないはアレですが(笑)、企画開発関連や外部とのコネクションが多いです」

外部とは?

「ゴルフ場関連では、所在するさくら市の市民課や健康増進課、教育委員会との打ち合わせも比較的多いんです。市主催のマラソン大会をウチのゴルフ場でやったり、喜連川中学のコミュニティスクールを地域の企業と連携したり」

実学に近いところでやる。

「非常に近いですね。地域の魅力を発見したり、地域の中で子供を育てる活動は自民党が力を入れてるので、今後注目されると思います。

ぼくは歳が若いこともあって、みなさんから『謎の期待』をされるんですが、」

東京からたまに来て、なんかわからんけど、なんかやってくれるだろうと。

「そうそう(笑)。そんな活動をしてますが、ほかのゴルフ場の社長は何をしてるんですかね?」

ゴルフ場は施設産業だから、キャッシュフローが順調なら現場に任せればいいわけで、業界活動が中心でしょう。

「なるほど。まあ、自分の仕事で一番大事なのはビジョンメイクで、それを実現するための体現者になることなんです。

『みんなが幸せを実感できるゴルフ場』を掲げた場合、幸福感は人それぞれだから唯一の『解』はありませんが、これを組織に落とし込むと、組織として不当なやり方をしたり、誰かを貶める、悪口を言う、納入業者を叩くのはやめようと」

SDGsは企業マーケではない

非常に観念的だけど、美意識がありますね。実はこれからの経営は美意識なり思想が不可欠で、物質的な豊かさを嫌悪する世情さえある。

脱炭素社会が卑近な例ですが、御社のHPはゴルフ場には珍しく「持続可能性」を掲げている。いわゆるSDGsへの取り組みですね。

「はい。社長になる前、2018年10月に今のビジョンに変えました。みんなの考えを持ち寄って、個々にどうなりたいのか、会社として何が理想なのかを集めて、ぼくの言葉に転換したんです。

留学時代、論文のテーマがサスティナビリティだったんですね。SDGsは気候変動が注目されますが、実際には飢餓や性差、教育を含めた格差の是正など17のゴールがあって、そのために169のターゲットがある。

結局のところ誰一人置き去りにしない、目の前の利益を取ることで誰かを不幸にするのは不条理なんだという考えで、」

ラグビーに似ている。

「はい。それで今、日本のテレビがSDGsウイークをやり始めたり、CSR(企業の社会的責任)の延長にSDGsを置いて企業マーケティングの一環に成り下がる風潮ですが、そうではなく、大事なことはSDGsの本質を一人ひとりが理解して、会社においてはぼく自身がその体現者になることです。

ガンジーの非暴力、無抵抗主義じゃないですが、幸せになるって言葉の意味を全員が理解してこそ、高いレベルの『組織学習』が実現するし、ウチだけではなく、みんなが実践することでSDGsは達成されます」

地元の温泉宿を買収した

その文脈にゴルフ場ビジネスの再定義がある。

「それが地域社会におけるゴルフ場の在り方なんです。先ほどマラソン大会や夏祭りの話をしましたが、ウチはさくら市の健康増進課と連携協定を結んでいるんですね。

体育館でやっていたおばあちゃんの体操教室がコロナで中止になって『どうにかできませんか?』と頼まれたり」

「謎の期待」ですね(笑)

「ええ(笑)。それでゴルフ場を開放して、ランチも食べて頂いて。

いろんなゴルフ場が地域イベントを開催していますが、ウチの場合は市や教育委員会の主催行事を依頼されて受ける立場なんです。ここがよそと違っていて、地域のニーズを叶えられるなら『なんでもやります』って姿勢です。

すると『次はああしよう』『こうしよう』って広がるし、その流れで別の案件が出てくるという循環になります」

それで温泉宿を買収した。

「はい、去年の12月15日に上物だけ買い取りました。経営難で廃業した物件で、コロナで旅行業が大変な今『なぜホテルなの?』と聞かれますが、喜連川温泉は日本三大美肌の湯ということで、数少ない地元の観光資源なんですね。これがなくなると地元は大打撃で、」

何部屋ですか?

「19部屋です。セブンハンドレッドからクルマで10分以内のロケーションで、コースには宿泊施設がありませんし、平日は7~8割が地元需要だけど土日は県外が3~4割だから泊まれるメリットもある。

社内で議論しましたが、ぼくがやる気満々で(笑)。ゴルフ場のスタッフ総出で大掃除、この春に開業する運びです。

ただ、自分が重視するのは地域の魅力づくりなんですよ。さくら市は人口4万4000人で、宇都宮のベッドタウンなんですが、観光資源がありません。さくら市は氏家と喜連川が合併した市で、ウチはちょうど中間なんですね」

地元の応援も期待できる。

「はい。日頃から地域とつながっているから、ホテルの話にもなるわけです。目先の利益ばかり追いかけてたら違う展開になったでしょうね。

話は違いますが、前の氏家市民と喜連川市民は仲が悪いんです」

「平成の大合併」で似たような自治体は多いですね。財政やインフラのレベルが違うと豊なほうが割を食うから合併を嫌がる。あるいは歴史的にいがみ合う場合もあって。

「それで、どうせ仲が悪いなら年に一度大ゲンカしましょうと。ゴルフ場を開放するからスポーツチャンバラで戦いませんか、って企画も構想中です(笑)」

面白いですねえ。賞品は?

「んー、なんだろう。勝ったほうが1年間、さくら市じゃなくて元の市名を名乗れる権利とか(笑)。終わったらノーサイドですっきりすればいいんです」

ゴルフ大会じゃなくチャンバラというのが小林さんらしい。参加の母数が格段に違うし、メディア受けする。さくら市が主催するとなお面白い。

「不動産は、魅力や活力がないと死ぬんですね。ウチに年間3万3000人来場するのはゴルフ場の魅力ですが、周囲に畑作って健康的な食材を収穫して料理する」

それを温泉ホテルで提供する。

「となれば、ヘルスケアとしての魅力も出てきます。要は発想の在り方で、地域密着の視点で考えればアイデアは沢山出てきますし、ゴルフ場が『場』を開放すればいいんです」

世界一給料が安いゴルフ場経営者

今年はフットゴルフの世界大会もやるそうですね。

「そうなんです。9月の予定ですが、コロナで来年になるかもしれません。

日本を含む3か国が世界大会の誘致に動いて、その会場がセブンハンドレッドに決まりました。そもそもウチはフットゴルフのフィールドを常設してるんです、コースの未使用地に36個の大きな穴(カップ)を開けて。

これもゴルフ以外にコースを開放する方針の一環で、本大会は世界から1000人が集まって2週間休業しますが、営業補償関係なく無料で貸します。『いいんですか?』って言われたけど、フットゴルフ協会はお金なさそうだし(笑)

お金といえば、ドローンの練習にもコースを開放してますが、こちらは『払います』と言われたのでいくらかもらってます」

なるほどねぇ。取材の前段までは若者にありがちな理想主義者かと思ったけど、むしろ実践主義者ですね。しかも思想が入っている。

「はい、自分は思想ファーストです。その上でぼくがやりたいことは事業の立ち上げなんですよ。ゴルフ場経営とは別にいろいろやってますが、今年はもっとゴルフ場に注力します。

自分、世界一年収が安いゴルフ場経営者だと思うんです。新卒とあまり変わらないし、部長の半分以下じゃないですかね。独身だし、自宅だし、お金必要ないんです。

事業の立ち上げも金儲けが目的じゃなくて、魅力的な事業をつくりたい、その一心なんですよ。

先ほど、向こう10年で700のトライを決めたいと言いましたが、社員にも『やる前から否定論を言わない』を徹底しています。積極的にトライすると地域文化や産業発展の姿が見えてくると思うんですね。

ゴルフ業界が止まっている間に社会はトランスフォーム、つまり劇的に変容しています。ぼくは性善説ですが、ヒトは基本的に変わりたいと思っていて、人間は本質的に良き変容を求めると思うんです。

そこには社会的なアジェンダも必要だし、自分が楽しければいいではなく、豊かな社会の実現に向けて組織や地域をつくりたいと」

自分の時間や身体を「公器」と捉えているのかな。同様にゴルフ界を社会的な「公器」にしたい?

「そのあたりがゴルフの在り方の再定義だと思ってますが、我々だけでは難しいので、いろんな方と連携して実現したいですね」

28歳だから時間は沢山ある。

「いえ、28はオッサンですよ(笑)」


\ SNSでシェアしよう! /

GEW - 「ゴルフ通」に刺さるオリジナル情報メディアの注目記事を受け取ろう

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

GEW - 「ゴルフ通」に刺さるオリジナル情報メディアの人気記事をお届けします。

  • 気に入ったらブックマーク! このエントリーをはてなブックマークに追加
  • フォローしよう!

    この記事をSNSでシェア

ライター紹介 ライター一覧

片山哲郎

片山哲郎

1962年8月3日生まれ、東京都出身。
「月刊ゴルフ用品界」(GEW)を発行する株式会社ゴルフ用品界社の代表取締役社長兼編集長として、ゴルフ用品産業及びゴルフ界全般の動向を取材、執筆。2014年4月から3期6年、日本ゴルフジャーナリスト協会会長(現顧問)

ほかに武蔵野美術大学特別講師(ゴルフビジネス論)、インタラクティービ(J:COM)番組審議会委員、大学ゴルフ授業研究会理事、ゴルフ市場活性化委員会マーケティング委員(各現任)

信条は「人の至福は健康で長生きすることであり、これに寄与できるゴルフは『善』である。善なるゴルフ産業が健全発展するために、建設的な批判精神をもち、正確、迅速、考察、提言を込めた記事を書く」――。

この人が書いた記事  記事一覧

  • ゴルフ場開放宣言 セブンハンドレッド小林社長が描く地域社会との共生

  • JGTO2021年ツアーは24試合 「選手の営業」で新規大会獲得

  • 激安販売に終止符か? ゴルフクラブ安売り競争の鎮静を探る

  • 「ゴルフ愛」で事業をつくるGDOの経営術

関連記事

  • 「ゴルフ愛」で事業をつくるGDOの経営術

  • 若者ゴルファー激増は本当か? 業界各所を総力取材

  • ISPS半田会長「宗教とゴルフ」の在り方を熱弁

  • バブル期に売上世界一のコトブキが「このままじゃゴルフショップはなくなる!」

  • クラブ開発の「飛んで曲がらない」を打破するのは「ゆらぎ」

  • ISPSが有観客で4試合 感染者が出たら「休業補償を出しますよ!」