ゴルフ・ドゥ佐久間社長の「SDGs的経営術」

ゴルフ・ドゥ佐久間社長の「SDGs的経営術」
中古ショップ73店舗を運営するゴルフ・ドゥは4月、46歳の佐久間功氏が社長に就任。組織の若返りを図っていく。 同社は過去10年以上、児童虐待防止の「オレンジリボン活動」に携わるなど、社会貢献に前向きな会社。リユース重視の考えから売上の7割が中古クラブなど、体質的にSDGs。今後の経営方針を縦横に語った。まずは動画をご覧ください。

中古の台頭は2000年から

中古ゴルフショップの台頭は2000年前後。いわゆるレンタルショップからの転身でゴルフ市場への参入が相次ぎましたが、御社もそのひとつですね。 「はい。当社はビデオ・CDレンタルを主業務とするボックスグループの一事業として、ゴルフの中古ショップを始めています。 当社の松田会長はレンタル業界で名前が知られた存在でしたが、当時は企業の上場が注目されていて、」 あの頃は起業→上場→創業者利益という流れが活発でした。東証、大証、名証などが上場への敷居を下げた流れもあって。 「ただ、ビデオ・CDのレンタル業だと上場のハードルが高かったみたいなんですね。単品の在庫管理が細かすぎるのが難点で。 そこでゴルフ事業に絞って上場しようと考えまして、2000年にゴルフ部門を切り離してゴルフ・ドゥを設立したわけです。 当時から松田会長はビデオ・CDはいずれオンデマンドになる、物としてなくなると推測して、事実そうなったわけですが、ゴルフクラブは残るだろうと。 御徒町あたりの中古ショップを見にいくと、サラリーマンが目をキラキラさせて物色している。その光景を見て確信したようです。 ボックスはリユース事業を以前からやっていましたし、FCのノウハウもありました。そのシステムを活用すれば扱う物が変わるだけなので、一気に立ち上げようと。当時は年間20店舗以上出しています」 その際、地域の有力企業とFCで提携する形を取っています。たとえば九州地区はヨネザワがFCの元締めですが、ここは何の会社ですか? 「九州で有名な眼鏡チェーン店で、180店舗以上展開しています。ゴルフ・ドゥも8店舗運営したわけですが、実は去年、契約が終了したので2店舗を閉鎖、6店舗を当社の直営にしたところです。 これを含めて現在は直営が25店舗、FCが48店舗、トータル73店舗になっています」 中古最大手のゴルフパートナーは練習場インショップを含めて400店舗規模だから、御社とはかなり開きがありますね。 「たしかに数の面では負けていますが、それ以外では、特に地域内の1店舗勝負では負けていない。そう思っています」 なるほど。ところで佐久間さんの入社は何年ですか? 「2002年です。27歳で転職して、販売員からスタートしました。創業期のことはリアルには知りませんが、当時は5~10坪の小さな売場を出店していて、わたしが入社した頃は30~50坪のコンビニサイズが中心になっていました。 このあたりから競合他店との中古クラブの取り合いが激しくなって、ゴルフパートナーさんは20坪ほどでガンガン広げた印象ですが、当社の場合は試打席をひとつ入れるのが基本だから、その分スペースが広くなります」 という流れで名証のセントレックスに上場したのが、 「2006年の4月です」

中古クラブを「自社製造」

上場するには会社の体裁をよくする必要もある。それで店数を増やしたこともあるでしょう。 「そうかもしれません。先ほどの話、年間20店舗超の出店なんて今では考えられませんし、現状は年2~3店舗ほどのペースですから。 当社はエリアFCという形で、九州のケースもそうでしたが、加盟企業になるとその地域での営業権が与えられます。 中四国ではビデオレンタルの会社がやはり8店舗ぐらい。名古屋も同じくエリアの買い取りで10店舗程度。地場の優良企業との提携が肝になりますね」 それで本部の御社は暖簾代を稼ぐ? 「暖簾というか、加盟金です。当社のFC店になるにはまず、初期投資として加盟金がありまして、売場面積100坪以上が500万円、100坪未満は300万円です。 あとは練習場のパッケージもあって、これが100万円。受付の横みたいなスペースに15坪ほどの中古コーナーを設ける形ですが、出店のタイプは様々ですね」 加盟金以外の収益は? 「あとは加盟店からのロイヤリティで、売上の3%が基本です。細かく言えば内容に応じてパーセンテージは変わりますが、これには『運営指導費』も含まれていて、FC事業本部から数か月に一度、人間を派遣して細かい部分までチェックします。 一般的にはスーパーバイザーと呼びますが、当社の場合は『FCコンサル』という言い方をしています」 FCコンサルは何名ですか? 「部長を入れて4名です」 売上はどれくらいですか? 「開示している売上は50億円ほどですが、FCを含めたゴルフ・ドゥ全体の規模感としては約80億円になります。直営店は単純に売上の合計ですが、FCの場合は売上ではなく、ロイヤリティを加算する形になりますので」 了解です。だいたい御社の概要がつかめました。 「よかったです(笑)。このような取材は初めてなので、多少、緊張しております」 外野席から眺めると、中古ショップは一括りにされがちですが、会社によってそれぞれ特徴はあるんですか? 「もちろんです。たとえば当社は中古クラブを『自社製造』するということで、自分たちで中古クラブを『作る』イメージなんですね。そこが当社の特徴です」 中古を自分たちで作るとは? 「アメリカの古着を日本へ輸出する会社があるんですが、向こうの人は体格が大きいから洋服のサイズも大きいですよね。それでその会社は、古着を日本人に合わせて作り直しているんです。古着の素材感や雰囲気が出るじゃないですか。 この話を我々の商売につなげると、買い取った中古クラブを磨き上げて作り直す。傷ついたアイアンヘッドを鏡面仕上げでピカピカにする作業で、販売スタッフはそのための技術を習得するし、店内には工房も完備しています」 そこがゴルフ・ドゥの個性ですか? 「大事な個性のひとつです」 なるほど。近年、ほかの中古ショップは新品や自社ブランドを作って販売するケースも目立ちますが、御社の場合、中古クラブの販売比率は全体の何割ですか。 「7割を占めます」 それは高いですね。 「だと思います。それ以外の販売構成比を申し上げると、新品クラブが8%で用品やボール等が12%、リペア収益が10%ですから、中古クラブの高さが突出しています」 中古クラブへのこだわりは、御社ならではの経営思想もある? 「はい。そこはまったくおっしゃるとおりで、中古ショップの本義はリユース業だと思うんですね。リユースはリサイクルよりも環境に優しく、一度使命を終えた中古クラブを自分たちの手で磨き込んで、新たな生命を吹き込むわけじゃないですか。 それが当社のポリシーだし、価値もある。他社に比べて中古比率が圧倒的に高い理由です」

SDGsについて話し合う

当期は売上が好調だったそうですが、理由は何ですか。 「ゴルフは3密回避で若者が増えたとか言われるので、調べてみたんですよ。すると35歳以下の動きが活発で、特に25歳以下の会員は昨対10ポイントほど伸びているんです。 この部分は新規ゴルファーが大半だから、新たに道具が必要になる。新品は高いから中古にしようという流れでしょうね。中古のフルセットにキャディバッグ付きで3万~5万円が売れ筋です」 ゴルフ・ドゥに来てみたら、ピカピカの中古が並んでる。いいじゃないか、と。 「そこはとても大事でして、先ほどの話、店舗スタッフは日々技術を磨いているんです。 わたしも現場上がりだから出来ますが、アイアンヘッドの傷直しは紙やすりを使って粗削りして、浅い傷の場合は消してしまう。バフを掛けて、マニキュアを塗って、新品とほぼ変わらない鏡面仕上げにするんです」 1店舗当たりの在庫高は? 「平均3000本ぐらいです」 それを全部鏡面仕上げにするんですか。 「いえ。ウッド系は形状や構造が複雑なので、鏡面仕上げまではやれません。やっぱり中心はアイアンですね。 ただ、すべての在庫は必ず何らかの手間を掛けてから並べます。中古ビジネスは買い取りが増えると売上が伸びる、それに比例して作業量が増えるので、朝早く出勤して磨いたり、現場はかなり大変だと思います」 あのぉ、中古ユーザーをナメてるわけじゃないんですが、「安くてそこそこ満足」というゴルファーが多いんですか? 「いえいえ、そんなことはまったくありません。多分、新品ショップに比べて中古は客層が多様だと思うんですね。 たしかに支出額は少ないかもしれませんが、だから欲求のレベルが低いわけじゃなくて、クラブを真剣に探す人が多いんですよ。 地クラブのレア物や、珍しいシャフトが刺さっているクラブを探しに来る方もいらっしゃるので、新品ショップとは一味違う、楽しい売場だと思います」 古本屋の楽しさと同じかな。ふつうの本屋に絶版本はないし、若い頃に読んだ本が100円で並んでるから読み返したり。古本屋にはいろんな「出会い」がありますから。 「それと同じだと思いますね。これは当社の自慢でもあるんですが、新品ショップで働くよりも、中古ショップの販売員は商品知識が豊富だと思うんです。 十数年前のクラブも現役で売っているし、これを毎日磨き込むから進化の変遷もリアルにわかる。それとフィッティングにも注力していて、当社の直営は全店スカイトラックを装備して試打結果を可視化できるんです。 豊富な在庫から最適な一本を選び出す。それをきちんとフィッティングする。我々とお客様は医者と患者の関係に近いと思いますし、そうありたいです」 一連の話を聞いて思うのは、御社の企業体質そのものがSDGs的ですね。「節度ある生活」が見直される昨今、思いを込めて中古を磨くとか、質素倹約の気風とか。 「ありがとうございます(笑)。SDGsは最近、社内でも話題になることが増えました。 正直なところ、それを意図してビジネスをしてきたわけではありませんが、SDGsの項目の中には『作る責任と使う責任』もあって、リサイクルよりもリユースのほうが間違いなく環境に優しいので、これまでやってきたことは正しかったと改めて実感するんです。 あとは今後、どれだけ深掘りできるのか、当社にも廃棄するクラブはあるわけで、どう扱っていくのかも考える余地はあります」

各店舗の自由度が高い

廃棄クラブは産廃に出しますね。 「そうですが、実はそうしない方法もあるんですよ。 たとえば小さなお子さんと来店されて、子供がゴルフに興味がありそうなら、その場で廃棄するようなクラブを短く切ってグリップ付けてプレゼントするとか。当社には工房があるからすぐにできるんです。 これは当社が徹底している『感動接客』の一環で、個々の販売員がお客様の期待を超える、驚きを与える接客を心掛けているんです。 多少、会社のルールから外れたとしても、それをやった理由を胸張って言えれば問題ない、どんなことをやっても構わないと」 店長の判断? それとも店員の独断ですか? 「ケースバイケースですが、クラブを切ってプレゼントするとかは店員レベルの判断ですね。 現場の自由度が高いのも当社の特徴で、予算を達成した店舗に対しては5万~10万円の『感動接客予算』を出すんですが、お客様を喜ばせるためなら何に使っても構わない、と。 ある店舗はマッサージチェアを買いましてね、理由を聞いたら『試打して疲れたお客様に無料で休憩してもらうんです』と(笑) 全店で『お客様が感動したちょっといい話』も共有して、半期に一度表彰するんですが、つまり、自由に楽しむ社風なんです。そのためには個々の店の情報共有も不可欠です。 毎朝一本、本部から各店にメールを打つんですよ。内容は様々ですが、バックヤードに社訓を掲げる店もあって、シャレてるなと思ったのは『商売は笑売だ』とか。これ、写真撮って共有しました」 ワークマンのFC店もそれと似たところがあって、非常に自由です。先日、老夫婦と息子夫婦の4人が経営している店で、 「ワークマンのFCは基本、家族経営なんですよね」 みたいですね。それで試着をしていたら、店の老婆が「アンタ、そっちよりこっちが似合うわよ」って(笑)。ここ何十年、我々日本人はマニュアル接客に慣れているじゃないですか。だから逆に新鮮で、駄菓子屋で飴玉買うような感じ。 「わかります。人間味がありますよねえ」

児童虐待防止活動に積極的

オレンジリボン活動についても聞きたいですね。 「ありがとうございます。この活動は一昨年、11回目を迎えました。去年はコロナで中止しましたが、オレンジリボンは児童虐待防止運動で、伊東(前社長)の肝入りではじめたんです。 『ゴルフで社会貢献』は当社の企業ポリシーのひとつでして、毎年ひととのやCC(栃木県)でオレンジリボンのチャリティコンペをやっているんです。 わたしはチャリティで集めたお金や、メーカーに協賛してもらった賞品を施設に届けているんですね。お菓子やオモチャを届けると、子供たちがとても喜んでくれる。その笑顔を間近に見ると本当に嬉しくて。最初は少し驚いたんですが、」 驚いた? 「はい。施設には幼児から高校生までいるんですが、なかなか世の中に適合できないというか、高校生になっても巣立てないケースがあるんだなぁと」 虐待や育児放棄で傷ついた子供を自治体が保護して、特別な施設で育てるわけですね。 「はい。まずは一時保護ですが、親は職員とのやり取りで『そんなことはしてません』と。それでまた家に戻されたり。 ただ、親御さんに戻せない子も多いので、施設はいっぱいという話も聞きました」 御社は埼玉県の児童養護施設に寄付していますが、県内で何か所あるんですか。 「県内で22か所だと思います。これまでのチャリティ金額は累計1000万円を超えました。 チャリティコンペの参加者は160人がマックスですが、募集を掛けると数週間でいつも満員になるんですね。 3000円の参加費の半分をチャリティにまわして、残りを参加賞に充て、かつ企業からの協賛もあるんです。1口1万円とかの場合もありますし」 協賛企業はゴルフ関連の会社ですか? 「そこは様々なんですよ。ウチが店舗をオープンする際の内装業者など取引企業の協賛もありますし、ゴルフメーカーの場合は新品のクラブを提供してくれたり。 一時は上位5人ぐらいまで最新のクラブが賞品だったので、それもあって参加者の5~6割がリピーターになっています」 で、終わったら現金が手元に残る。それを? 「県内の施設に届けるよう、当社で均等に案分するんです。22施設以外にも児童虐待防止の支部が2か所あって、金額を24等分する形ですね。 1回につき150万円ほど集まるので、お金は基本、銀行振込なんですが、目録やお菓子、オモチャなどはわたしを含む2~3人で持って行きます」 オモチャは佐久間さんが選んで買うわけですか。 「いえ、メーカーからの協賛品です。協力会社には菓子メーカーや玩具メーカーもあるんですが、社名は明かさないでほしいと言われる会社も多いんです」 なぜ? 「んー、わかりませんが、売名行為にしたくないとか、陰で協力したいという気持ちなんでしょうね」 タイガーマスクと同じかな。 「かもしれません。野球道具やバスケットボール、幼児が遊ぶオモチャのクルマとか、いろんな物が集まります。わたしが訪れる施設には20~30人の子供がいて、」 どんな雰囲気ですか。暗い感じが漂うとか。 「そんなことはないですよ。わたしが外部の人間だから明るく振る舞うのかわかりませんが、みんな元気だし、職員の方とは親子関係みたいでふつうに叱っているし。 大きい子供が小さい子を面倒見るという感じもあって」 大家族みたいにカラッとした感じですか。 「というふうに見えますね。もちろん、内面に複雑な想いを抱える子供もいるんでしょうが」 SDGsには17の活動項目があって、「貧困の撲滅」や「格差の是正」「教育を受ける権利」も含まれますが、そう考えると御社はリユースを含めて、体質的にSDGsが備わっている。 「ありがとうございます」 今後、ゴルフ・ドゥをどんな会社にしたいですか。 「そうですねえ。わたしの性格もありますが、何事も楽しくやりたいですね。ゴルフをもっとカジュアルにしてプレー人口を増やしたいし、これに寄与できる会社でありたい、と。 ゴルフは老若男女が等しく楽しめますし、高齢化社会では健康長寿にも寄与できる。 そういった大きな青写真の中で、お客様と我々の絆をどれだけ深められるかが重要です。 当社の企業理念は『世界の人々に夢と感動と心の満足を提供する』なんですが、『心の満足』には大小あると思うんですね。 店舗から定期的に送られてくる報告を読むと、こんなことをしたら喜ばれた、それが嬉しかったという内容が多いんです。 なので遣り甲斐を感じる職場づくりが自分の使命だと思います」