「GEW」2006年1月号を振り返る 日本女子プロゴルフ協会清元登子副会長 子どもにゴルフやらせて家が崩壊って、バカ親ですよ

「GEW」2006年1月号を振り返る 日本女子プロゴルフ協会清元登子副会長 子どもにゴルフやらせて家が崩壊って、バカ親ですよ
[archives key="蔵出しインタビュー" order="124" previousWpId="" nextWpId="" body="取材当時、日本女子プロゴルフ協会(LPGA)の副会長だった清元登子さんは、2000年から6年連続賞金女王になった不動裕理を10歳から指導。ほかに大山志保、古閑美保の賞金女王3選手を育てるなど、女子プロ界の「名伯楽」だった。

LPGAでジュニアの指導者を育成する一方、2004年7月にゴルフ関連10団体が加盟する「日本ジュニアゴルファー育成協議会」(JGC)がNPO法人として認可され、その執行委員長として尽力していた。

熊本県出身の火の国の女。前述の3選手も同郷だ。口は重いが、一言一言に独特の愛嬌と愛情を感じさせたのが印象的。2017年9月、78歳で他界。なお、文中の数字、部署、資格制度内容、役職その他は取材当時のもの。"][/archives] [back_number key="200601"][/back_number]

上前なんかハネませんよッ

LPGAの組織図を見ると、TPD委員会(トーナメント)とGBD委員会(ゴルフビジネス)、これに広報委員会を加えた三本柱が中心なっています。 「ええ」 清元さんはGBD担当の副会長ですが、具体的には何をするわけですか。 「GBDはゴルフ・ビジネス・デビジョンの略で、トーナメントに出られなくなったLPGAの会員や、外部でインストラクターをやっている人の教育部門。そんな役割が中心です。 3年ほど前に新体制をつくりましてね、TPDとGBDを明確に分けました」 教育というのは、接客業としての素養ですか。レッスンプロは「先生」とか呼ばれて、頭を下げることに慣れてない……。 「まあ、それだけではありませんけど、そこに力を入れてますよ(苦笑)。プロは勝負の世界ですからね、試合ではライバルを圧するオーラが必要でしょ。だけど、いずれ現役を引退したらレッスンを始める人が大半になる。 勝負で発揮していたオーラを出すと、生徒さんが逃げてしまうじゃないですか(笑)。言葉遣いや丁寧な物腰を身につける必要がありましてね、それを指導するのが教育部門です」 なるほど。インストラクター会員は何人ぐらいですか。 「全体で200名かしらねえ」 その200名に就職の斡旋を行うのもGBDの仕事ですか。 「斡旋というか、インストラクターを派遣してください、って依頼が来るんです。一番多いのは練習場さんからになりますけど、それで頂いた募集内容を用紙に書き込んで、情報を会員に教えてあげる。双方のタイミングが合えばLPGAから紹介するという仕組みです。 こんなこと言ったら叱られるかもしれませんが、やっぱり男子プロよりも女子の方がね、物腰が柔らかいじゃないですか(笑)。 そんなこともありましてね、最近はもう、完全に需要過多なんですよ。 依頼をお断りするケースも多いので、すべての希望に応えるには今の3倍、6 0 0人は必要じゃないかしらねえ……と思っています」 すると、何社ぐらい順番待ちなんですか? 「ありませんねぇ」 ない? 「ありませんねえ。なぜなら派遣はタイミングが大事でしょ。いま欲しいという場合がほとんどなので、お断りしたら『じゃあ、いいです』 と……」 もったいない。 「ほんとにねえ。本当に残念なんですけど、機会を逸するケースが非常に多いんですよ。LPGA のホームページには『求人求職コーナー』もありませんから、改良の余地はまだまだ残されています」 インストラクターを派遣したら、 紹介料というか、LPGAが上前をハネるわけですか? 「ハネませんよッ、失礼な(苦笑)…… 。この事業はLPGA会員の職業機会を生み出すのが目的ですからね、紹介だけにとどめてます。派遣そのものをビジネスにする考えもありません」

指導者には学問も必要です

インストラクターの資格を取るには、どれぐらいかかるんですか? 「Aクラスで6年間」 えっ………、 「以前は13年でした」 そりゃまた、ずいぶん長いですねえ。資格認定制度はティーチングアシスタントを皮切りにC、B、Aの4段階ですが、6年間は長い。 「まあ、Aクラスになるまでには一定期間の経験が必要だし、プロテストを経ていない一般からの受講者はそれなりの技量を満たさなければなりません。トーナメントから来る人は実技を備えていますけど、やはり学問は必要でしょ。 大学の単位みたいなものですよ。Cクラスでも109時間の受講が条件など、 非常に厳しくなっています」 副会長自ら教壇に立つわけですか? 「というか、学問はPGA (日本プロゴルフ協会) の資格認証部でお世話になっているんですよ。ここには優秀な講師がずらりといらっしゃるので、わざわざ女子が自前で備える必要はありません。それだけのお金もないですから(笑) もちろんPGAとLPGAは連携を密に保ってまして、質の高い授業を維持しています。講師は20人ほど、生徒は120人ぐらいです」 LPGAは法人格の性格上、利益をガンガン追求する組織ではありませんが、それでもゴルフの普及や発展という「公益」を実現するためには一定の資金が必要ですね。 「ええ」 昨今はトーナメントスポンサーも多いでしょうが、全体の資金は、 「そのあたりは樋口会長に聞いてください」 聞きますが、GBDとしてはどうですか。 「来年は黒字になると考えています」 どのように? 「まず、LPGAはスクールを持っているので、これが収益を上げています。次が商品販売で、一番売れたのがメトロノームなんですよ(笑)」 音楽の? 「そう。私が(師弟関係の)不動の指導で使ったもので、スイングリズムをつくるのに最適なんですね。不動が使っていることが話題になって、協会でも販売していますと……。 作ってるのはセイコーさんで、1台1000 円だったかしら。これを定価の2〜3割引きで会員に卸して、そこからスクール生に販売したんです。 二番目に売れたのがスタンスチェックで、 こう、棒みたいなやつですね」 わかります。いくらですか。 「4000〜5000円くらいかしらねえ。そこはあなたの方が詳しいでしょ」 はい、調べておきます。

不動プロが100万円寄付してくれました

そうして集めた資金は一部、「公益」にも振り向けられるわけですね。その際、LPGAや清元さん個人としても、ジュニア育成を重視されています。 「そう。これやらないとゴルフの普及はおぼつきませんから。」 清元さんはJGC (ジュニアゴルファー育成協議会) の役員も務めていますが、ジュニア育成はLPGAが業界で主導的な立場になるわけですか。 「そんなことはありませんよ。 各団体がそれぞれの特徴を活かして、 いろんな活動をなさっていますから」 その「いろんな活動」の基点というか、最大の受け皿がJGCになるわけですか。 「そうです。ですからLPGAはJGCにインストラクターを派遣する。そういったご理解でけっこうです」 共通の目標はありますか。5年以内にジュニアを何百人誕生させよう、とか。 「ありません」 ジュニアのビジネスを産業としてデカくするとか。 「あのね、アナタみたいになんでもお金に結びつける考え方は…困りますよ。そういったビジネスの話ではなくて、もっと大きな視点に立って、ゴルフに触れてもらう機会を増やすことが大事なんです。 もちろん、私自身『結果』の大切さは誰よりも知ってますよ。不動プロを育てなければ、私の話なんか、誰も聞いてくれなかったわけですから(笑)。ラッパだけ吹いて結果が出なければ誰もついて来ませんよね」 なるほど。じゃあ「結果」という意味で、LPGA内部の成果、進捗はどうですか。 「そうねえ……。まず、3年前からジュニアを指導するスペシャリストを養成しています。今はインストラクター200名のうちスペシャリストは13名しかおりませんが、これは児童のことを専門に勉強する必要があるので狭き門です。 スペシャリストは丸一日の講義を年に10 回受けます。資質としては、優しくて、思い遣りにあふれた人間であること、ヒトが好きなことですね。その上で、ジュニアの心や身体を熟知していなければなりません。 これまでのジュニアレッスンは大人の小型版だったでしょ。それではダメで、大人のコピーじゃダメなんですよ。子どもにはそれぞれ個性がありますので、それを我々がしっかり認識しなければね。 そういった専門家を養成するために、それなりの資金を振り向けてます。たとえばスペシャリストを目指す人は講義が無料、交通費のみ自己負担とか……。専門の講師も雇いますが、そのお金はジュニア育成基金から出しています」 それはLPGAの基金ですか。 「そうですね。6年前に不動が賞金女王になったとき、『あなた、100万円寄付しなさい』って、」 むしり取った? 「人聞きがわるいッ。でもまあ、そんな感じかしら(笑)。ほかにも寄付やみんなのアルバイトで貯めたお金を出し合って、今は千数百万円ほどになりました。 なるべく手を付けないようにはしてますが、スペシャリストの育成に惜しむつもりはありません。最初はね、この基金でジュニアトーナメントをやろうとか考えましたが、今はスペシャリストの養成が最優先です。 ここやらないと、子どもたちがゴルフと触れ合う機会をつくれませんから」

まずはスナッグゴルフを一生懸命

清元さんが言う「子供」というのは、JGAがやってるエリートジュニアのことですか。 「違いますよ。ごくふつうの、一般家庭のお子さんです。 そういった子どもたちにゴルフの楽しさを教えるのが私たちの目的で、先ほどの育成基金も理想的には4000万〜5000万円、それだけあればかなりのことができると思います」 法人からの寄付はありますか。 「ないですねえ。以前、LPGAの幹部が個人企業のオーナーを口説かれて寄付をいただきましたけど、基本的には難しいんですよ。そこで私が声を大にして言いたいのは、寄付金に対する課税です。これ、とんでもない話ですよ。 私たちがやっている『スナッグゴルフ』にしましても、ボランティアが支えてる面が強いでしょ。そういった無償の行為に対しては、もっと評価していただきたいですよ」 「スナッグ」というのは、プラスチック製のクラブでテニスボールみたいな球を打つ、的当てゲームですね。アメリカが発祥とか。 「そうです。ゴルフって不愉快なスポーツじゃないですか。当たらないし飛ばないし……。だから最初から子どもに忍耐を強いると、みんな嫌いになってしまうのね。 スナッグみたいに大きなクラブヘッドで簡単なら、誰でも最初から楽しめるでしょ。 そこで5年前、うちの会長に『やりますから!』って宣言したんです(笑)。PGAとも話し合ってJGAにも持ち込みました」 JGCは全国の小学校にスナッグを寄贈して活動を広げてます。 「そう、広げることが大事です。そのためには指導者に子どもの基礎知識を持ってもらうことで、多くのボランティアの協力も必要です。それでボランティアの部分をJGC、その上の指導層をLPGAや他のゴルフ団体といったように、補完作用が整っているわけですよ。 でもこれだけではゴルフへ誘導するのが難しいので、近い将来、スナッグからゴルフへつなげる仕組みも導入します」

人生懸けてやってますよ

11月にアニカ・ソレンスタムが来日した際、契約のキャロウェイが彼女の名前でゴルフクラブ350本をJGCに寄贈した。あれ、清元さんが仕掛けたそうですね。 「違います。あちら(JGC委員)のお骨折りですよ。ただ、日米の女子プロにおいて、社会貢献やボランティアへの意識差は本当に大きいと痛感しています。 それを世界のトッププロのアニカさんがやることで、LPGAの会員に目覚めてもらう意図もあって、自覚を促がす狙いでした。 もっとも、日米には社会通念や教育の違いがありますから、一概に日本の女子プロがダメとは言えない面もありましてね。いずれにしても、意識を向けさせることが大切です」 そもそも根本的な質問ですが、子供にゴルフは良いんですか? スイングは成長期の身体に支障があると言われるけど、 「あのねッ、どんなスポーツもやりすぎは身体にわるいですよ。ゴルフに限った話ではなく、当たり前じゃないですかッ。 だから私たちはジュニアのスペシャリストを養成して、発育と運動の適正を勉強してるんです。それと我々は、子どもにとってゴルフが一番と言い切るつもりもないんです」 一番じゃない? 「そりゃそうですよ。最初に選択肢を与えれば、あとは水泳だろうとサッカーだろうと、自分に合ったスポーツを選べばいいんですよ。 ただ私は、ゴルフで生きてきた人間ということもありますが、人間教育としてのゴルフの素晴らしさを確信しているわけですね。 善悪の判断や根気、集中力を養うには最適だし、審判がいないスポーツでしょ。OB杭にかかってるボールをどうするか、他人が見てないところで何をするか……、いろんな誘惑があるなかで、適切に処置しなければいけません。 これは一日の波、人生の波とまったく同じで、人間教育には絶好の教材なんです」 藍ちゃんという好例もあるし。 「ほんとですねえ。宮里さんの立居振舞は、本当に素晴らしいと思いますよ」 彼女はLPGAの努力の成果ですか。だとすれば、ジュニア育成のシステムによって第二第三の宮里を輩出できるわけですけど。 「違います。彼女の場合はご両親が素晴らしいということもありますが、やはり沖縄のゴルフ環境が一番でしょうね。本人の資質もありますので、我々のプログラムやシステムによって生まれた存在ではないと思います。 それにしても今、私が心配するのは親御さんたちの過剰な反応ですよ。自分の子どもが藍ちゃんになれると思っている。多いでしょ?  借金してエリートジュニアを目指そうと、家庭そのものが崩壊する。そんな『バカ親』が多いんです。『親ばか』じゃなくてバカ親ですよ。 大切なのは、ふつうの子どもとして健全な大人に育てること。その過程でゴルフが少しでもお役に立てるならば、こんなに嬉しいことはないんです。 だいたい我々に未来ありませんから、これからいなくなるだけでしょ(笑)。せめて将来を担う子どもたちに、夢や希望の持てる社会を用意しておきたいじゃないですか。その一心でやってますよ、人生懸けて……」
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