「新しいゴルフ」を楽しむ動きがはじまっている。
雪上でプレーする「スノーゴルフ」、サッカーボールをカップインする「フットゴルフ」、夜のゴルフ場で家族連れが天体観測を楽しむ企画など、続々登場の気配なのだ。
背景には、プレー人口の減少によりゴルフ場の活性化が求められている事情がある。「新しいゴルフ」を導入して、取り敢えずゴルフ場に来てもらいたい。換言すれば、ゴルフ場の敷居を下げる試みでもある。
探せばこのような企画は沢山ある。あなたもチャレンジしてみてはどうだろう?
プレー人口縮小傾向が止まらない
ゴルフのプレー人口は、年々縮小傾向を辿っている。日本ゴルフ場経営者協会(NGK)は毎年延べ入場者数を調べているが、これによればピークの1992年が1億232万人、2016年度は8574万人まで減ったという。
この四半世紀でゴルフ場へ足を運んだ延べ数が16%ほど減少した。そんなわけで、国内137のゴルフ場を運営するPGMの田中耕太郎社長も危機感を募らせる。
「プレー人口とゴルフ場数のバランスが年々悪化して、価格競争による客単価の下落も影響していると思います。当社はグループ経営だから必要な物を一括購入できるメリットがありますが、単独経営のゴルフ場はさらに厳しいと思いますね」
ゴルフ場経営の厳しさは需給バランスの悪化が最大の理由だというが、このほかにも原因があると見るのがNGKの大石順一専務理事。
「ぼくら団塊の世代は、アイビールックが学生時代の憧れで、みんながそれを着ていました。つまり、ひとつの価値観で全員が動いていた。ゴルフ場経営も同様で、名門から河川敷のコースまで、レストランのメニューはみんな同じ。それでも昔は経営が成り立っていたのです。
でも、今は多様化の時代じゃないですか。これに対応できなかったことで、金太郎飴みたいな市場になってしまったのです」
時代の変化に乗り遅れたゴルフ界。それが苦戦の一因だという。
フットゴルフの来場者150名
このような状況で、多様なニーズを掘り起こす動きが起きている。「フットゴルフ」もそのひとつで、2009年にオランダでルール化されたといわれる。
「日本では4年ほど前に数人が楽しんでいたのですが、現在の競技人口は1万5000人に増えています」
そう話すのは日本フットゴルフ協会(JFGA)の田村一人理事。JFGAの設立は2014年2月と新しく、参加者はサッカー世代の30代男性が大半だが、女性も1割を占めるとか。
「競技としてはサッカーよりもゴルフに近くて、ルールやマインドはほぼゴルフです。子供たちが将来ゴルフをするためのエントリースポーツとして、PGAやLPGAにも評価されています。
これが普及すれば、ゴルフ場も新たな収益源が生まれるはず。そこで我々は、フットゴルフで売上げを補ってもらえたらと提案しているのです」
これに前向きに取り組んでいるのがTBC太陽クラブ(栃木県)である。2016年からフットゴルフを9ホールに導入して、ゴルフとフットゴルフが常時利用できる体制を整えた。同コースの湯浅裕之マネージャーが狙いをこう語る。
「若者にゴルフへの興味を促すのが目的でした。導入当初は通常のプレーヤーから『ショットの際にボールを蹴る音が気になる』とか『大きな歓声を上げる若者のマナーが良くない』との指摘もありましたが、徐々に認知されてクレームは減っています」
ゴルフ場の投資は専用のカップとピン、ヤーデージ板、スコアカードの購入などで20万円ほどと手頃。直近3ヵ月のフットゴルフ利用者は月間150人が平均的で、本業の落ち込みをカバーしつつあるという。
米国では売上の3割をフットゴルフで稼ぐコースもあり、初心者でも18ホールの所要時間は2時間ほどだから、通常営業の最終組後のスタートでOKだ。
「フットゴルフ用のカップをフェアウェイとラフに切っています。ゴルフに比べるとカップが大きいのですが、特別なメンテナンスは不要です」(湯浅マネージャー)
パー5で200yd、パー4で150yd、パー3で60ydほどとゴルフより短く、通常の9ホール分でフットゴルフ用の18ホールを造成できる。現在、フットゴルフの常設コースは全国で10カ所に増えている。前出の田村理事は、
「スキー業界におけるスノーボードのように、いずれは同じ場所でゴルフと共存できるスポーツにしたいですね。そのためには、当時スキー場で何が起きたのか、どのようにスノーボードを受け入れて共存できたのかを勉強する必要があります」
フットゴルフができるゴルフ場を探す
日本で初めての「雪上ゴルフ」
ゴルフ場経営の最大の敵は悪天候。特に降雪は命取りで、雪に弱い関東では月の大半の営業を棒に振るケースもある。そもそも雪国は「年8ヶ月営業」など、年間営業が不可能な状況だ。
ここに新たな提案をしているのがGDOで、「ウィンターゴルフ」の普及に取り組んでいる。海外では世界大会が開催される雪上ゴルフの発祥はフランスで、日本では2016年に同社が初めて開催した。
場所はゴルフ5CC美唄コース(北海道)で、通常のクラブやボールを使用するもの。フェアウェイを圧雪車で固め、ラフは非圧雪、グリーンは圧雪の上に人工芝を敷き、通常より大きいカップ(直径21㎝)を使用する。西條慎一支配人の説明を聞こう。
「新たに雪上ゴルフをするための経費は50万~150万円です。2016年のスタートから延べ200名のゴルファーが参加しています。『降雪でもゴルフができるのが嬉しい』と評判も上々で、今年から通常営業でも実施します。来場者は500~600名が見込まれるので、他のゴルフ場へのビジネスモデルとなれば光栄ですね」
豊富な雪を利用したこの取り組みは、スポーツ庁、文化庁及び観光庁の三庁連携プロジェクトである「スポーツ文化ツーリズムアワード」のチャレンジ部門に入賞したとか。
アジア圏では冬季スポーツを楽しめる国が少なく、今後の観光商材として期待できると評価された。GDOで広報を担当する金丸典子さんは、
「3回目となる来季は、旅行会社と連携してインバウンド施策に力を入れます。宿泊施設への経済効果や地元雇用枠の増加など、さらなる地域活性化につなげたいですね」
ゴルフ場で天体観測の試み
ゴルフアミューズメントパーク(GAPK)という団体がある。ゴルフの楽しみ方を新しい切り口で提案する組織で、過去に様々な試みを行っているが、昨年11月に企画した「天体観測 in GOLF」は注目される企画だった。
これまで収益が見込めなかった「夜のゴルフ場」を活用して、マグレガーCC(千葉県)で天体観測を行ったもの。参加者はGAPKの理事とその家族など22名で、実験的に行われた。
7番ホールのティーグラウンドに7張りのテントを設営して、焚火台を囲みキャンプ場さながら。GAPKの理事で場所を提供したマグレガーゴルフジャパンの松下健課長が話す。
「焚火にはきちんと台を備え、子供が走り回っても芝生の損傷はありませんでした。周辺に遮蔽物がなく空が広いので、需要は見込めると思います。ビジネスモデルが確立すれば、他のコースにも提案したいですね」
星空の下、ドライバーショットで光を発して飛んでいくゴルフボールに子供たちの歓声が上がる。専門家による星座のレクチャーや、焚火を囲んでの酒談義など、参加者は楽しい時間を過ごしたようだ。
収支の簡単な内訳は、参加費(大人5000円、子供3000円)、ゴルフ場への夕食代(実費)、キャンプ用品のレンタル費(約4万円)、ホテル宿泊費(実費)などで5万円ほど赤字になったという。
これをゴルフ場の「定番企画」にしていくには、キャンプ用具の常備や専任スタッフの人件費も必要になるが、
「今後、いくつかのゴルフ場で試行しながら、可能性を探っていきます」(松下課長)
ゴルフ場の有効活用という意味では、派生効果が期待できそう。天体観測をウリにしたファミリー志向のサービスは来場者の満足度を高め、ノンゴルファーに対してはゴルフの敷居を下げられる。前出のNGK大石専務理事は、
「すべてのゴルフ場が同じ経営をしていたら先はありません。様々な考えを受け入れて、自社の色に合った取組みをしていけばいいし、『天体観測』は面白い試みだと思います」
と、新しいゴルフの動きに賛同する。
セグウェイ導入に3億円投資
最後に大胆な試みを紹介しよう。アジア取手カントリー倶楽部とアジア下館カントリー倶楽部(各茨城県)でセグウェイ300台を所有するアジアカントリークラブの取り組みだ。斎藤喜栄子支配人によれば、
「この2コースで2012年に100台導入したのを皮切りに、翌年から100台、50台、50台と買い増して、現在は300台保有しています。1台100万円ほどなので、3億円ほどの投資になりますね」
「セグウェイといえばアジアCC」――。そんなフレーズを訴求して、他社との差別化を図りたいとか。
むろん、事前にコスト計算をしている。まず、ランニングコストは乗用カートの5分の1程度に収まるとか。通常の乗用カートはタイヤの摩耗、バッテリー、ガラスの破損などで、85台で年間2000万円近くの維持費が掛ってしまうという。
セグウェイは充電式なので、ガソリン代が電気代に変わったことで月間20分の1ほどの削減となり、導入から5年を経て初期投資分は償却したという。
気になるのは芝生の損傷だ。同コースではフェアウェイ乗り入れ可能としているため、この点はどうなのだろう。
「ターフタイヤなので芝を傷つけません。乗用カートに比べて急発進や急停止ができないため、芝を削ることもないんです。『ジャイロセンサー』という回転や向きの変化を検知するセンサーが内蔵され、ある程度の高低差も走行可能です」
ただし、セグウェイならではの問題もあるのだとか。それは、楽しすぎて遊んでしまうこと。
「本来セグウェイは、プレーファーストになるはずのアイテムですが、楽しくてセグウェイで遊んでしまい、遅延プレーのクレームが出たこともあります。
これは迷惑行為なので、その場合は強制的に乗用カートに切り替えて頂くよう徹底しています」
いずれにせよ、セグウェイ効果はてき面だという。利用者数は20万人突破を視野に入れ、売上も年々上昇傾向。この勢いを駆って新たに100台の追加導入を計画中だ。
これにより、70代の中心顧客が20~50代に下がってきたという効果も実感でき、
「セグウェイ導入の判断は正しかったと思います」
斎藤支配人は笑みを浮かべる。
旧態依然だったゴルフ界に、新風が吹きはじめた。これらの相乗効果でマーケットが活気づくことを期待したい。
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