「2016年の『三井住友VISA 太平洋マスターズ』にて、松山英樹プロがコースレコードで優勝しました。その時に彼が出した『日本のツアーレコードを意識した』というコメントを聞いて、よし!御殿場コースを新たな舞台に国際水準のトーナメントをしようと決意しました」
そう改修のきっかけを語るのは、太平洋クラブの韓俊社長だ。
同社は、男子ツアー「三井住友VISA 太平洋マスターズ」の開催地でお馴染みの「太平洋クラブ御殿場コース」を17年ぶりに全面改修し、10月1日にグランドオープンした。改修はリース・ジョーンズ氏、監修を松山英樹がそれぞれ担当。この程、明治記念館(港区)にて完成記者発表会を開催した。
改修に当たっては、多方面から「今のままでもいい」という声があったことや、同社の収益の柱である同コースを改修することによる不安などもあったという。しかし、世界を知る松山英樹からの挑戦状が韓社長の心を改修へ突き動かしたのかもしれない。
松山英樹を監修に起用した決意
今回のコース改修は、冒頭の言葉からも松山英樹の挑戦状を受け取った韓社長の決意の表れと言える。同社は、国内に17のコースを保有するが、トーナメントが行われる「御殿場コース」の存在は圧倒的だ。これまで数々の名勝負が繰り広げられ、タイガーウッズが最終日最終ホールでチップインイーグルを決めた「EMCワールドカップ2001」はあまりにも有名。松山英樹自身も、2011年の「三井住友VISA 太平洋マスターズ」で優勝を決めている。
松山自身がどのような意図だったのかは計り知れないが、少なくとも上記のような歴史あるコースで「日本のツアーレコードを意識した」という発言は、名物コースを牽引してきた韓社長のプライドに火をつけたと言えるのではないだろうか。それでも、監修をその松山英樹に依頼したのは
「世界のトーナメントコースと、日本のコースの両方を熟知しているのは、松山英樹プロの右に出る者はいないと思いました」(韓社長)
という想いからだったという。挑戦状を叩きつけた本人とのタッグ。逆転の発想は興味深いが、少なくともこれにより韓社長が世界レベルのコース作りに舵を切ったと言える。松山英樹も改修に当たって下記のコメントを発表。将来的に世界大会を開催するコースを意識していることが伺える。
改修を担当したリース・ジョーンズ氏とは?
改修に当たって、重視したことは戦略性と景観美を極めることだったという。そこで、全米オープンや全米ゴルフ選手権の開催地など220以上の名門コースの改修を手掛けたリース・ジョーンズ氏に改修を依頼。依頼の理由は、同氏が現状の設計を尊重しながら改修できる手腕を持っていたからだという。
9月のPGAツアープレーオフシリーズ最終戦でタイガーウッズが復活優勝を飾った、イーストレイクGCも同氏が改修を手掛けたコースだという。このコースを目の当たりにしたタイガーウッズは、「飛距離によるアドバンテージがあるコースではなく、ショットメーカーが勝てるコースだ。自分はこのコースで勝てる」と同氏に伝えに来たというエピソードも披露された。そのような数々の実績がある同氏だが、今回の改修に関して、
「コース設計者である加藤俊輔氏の基本デザイン自体が素晴らしい。私はそこに時代に合ったちょっとしたものを加えただけ」
とコメント。改修に当たって、韓社長とオーガスタなど世界の名門コースを視察しながら協議を進めたといい
「メンバーにとっては楽しく、誇れるコースに。そしてトーナメント開催に当たっては難しいコースにする。その両方を念頭に改修しました」
と語った。
改修内容は? 目玉はパー70
韓社長によると、改修に当たっては設計家とプロの両方の目線を重視し、ゴルファーの挑戦意欲を掻き立てるコース作りを意識したという。設計家であるリース・ジョーンズ氏が配置した厳しいハザードがフェアなものなのかをプロである松山英樹の目線でジャッジ。プレッシャーのかかった局面において、本当に効いてくるハザードは何なのか。何を作り、何を残す必要があるのかということに拘ったのだとか。
主な改修の内容は下記の通りだ。
1.ティーグラウンド
ティーグラウンドをスクエアな形にし、広げたことにより、各ホールの全体が把握できるようになった。
2.フェアウェイ
アマチュア泣かせのラフは廃止し、フェアウェイを広げ、ライもすっきりさせた。
3.バンカー
リース・ジョーンズ氏の拘りで、全てのバンカーを見直し、バンカーに入りやすいコースに改修。戦略性と景観美を意識した同コース全体のバンカーを「リース・バンカー」と命名。
4.グリーン周辺
各ホールのグリーンのアンジュレーションに沿うような形で、グリーン周辺のチッピングゾーンを改修。グリーン面の全面改修は1ホールのみにも関わらず、アンジュレーションが際立つ錯覚を起こすようにした。
5.パー72をパー70へ
松山英樹の拘りにより、大会開催中は、6番と11番をパー5からパー4へ変更。それによりパー70での開催となる。
上記の主な改修点からも分かるように、スクエアで広いティーグラウンドによってホール全体が見渡せ、ホールごとの攻略プランが立てられるが、ラフを廃し広くなったフェアウェイの中に、効果的に「リースバンカー」を配置することで、挑戦するゴルファーはバンカーのプレッシャーを考えながらショットの落としどころを考えないといけない。ただ難しくするだけではなく、まさしくアメとムチを使い分けた改修と言えよう。
トーナメント向けへの改修が目立つムキもあるが、会員やアマチュアゴルファー向けへの改修も意識されているようで、リース・ジョーンズ氏の発案で、従来のフロントティーとレギュラーティーの間に、新たにミドルティーを増設。シニアゴルファーがフロントティーを使う抵抗感に配慮した措置で、あらゆる層のゴルファーに応える意図があったという。
太平洋クラブ御殿場コースで世界水準の大会を
松山英樹のコメントにもあるように、今回の改修は世界レベルの大会誘致を意識したものであることが伺える。将来的に同コースでPGAツアーが開催ということになれば、ゴルフファンがトーナメント会場に足を運ぶきっかけになり、ゴルフ業界の活性化にも繋がる。そんなことを期待させる改修だ。