「ゴルフ産業Q&A」しぶとく生き残る「ゴルフ場利用税」の謎解き

「ゴルフ産業Q&A」しぶとく生き残る「ゴルフ場利用税」の謎解き
Q1 なぜゴルフには「税金」がかかるの? ゴルフには「ゴルフ場利用税」が課せられます。スポーツを楽しむのに課税されるという、俄かには信じられない状況ですが、なぜ、このような税があるのか教えてください。 A1 ゴルフ場利用税の背景を知るには、戦前まで遡る必要があります。往時、日本のゴルフは、華族や財界人が欧米のプライベート・クラブを範とした会員制ゴルフクラブを立ち上げて、普及しました。クラブには選ばれたメンバーしか入れず、排他的です。これによりゴルフは「特権階級の贅沢な遊び」との認識が根付きました。 特権階級には「社会の為」という意識があり、それが「寄付行為」につながります。実際、文献にはいくつかの事例が残っています。まずは大正期、福岡県のゴルフ場が開場時に県への寄付金を会員から募った記録があり、昭和初期には埼玉県で「未舗装道路を車で通行すると、砂埃により田圃で作業する人達に迷惑を掛けるのは忍びない」として、プレーの時に「道路舗装費」を徴収して寄付したこともありました。 税金にかかわる記述としては、1933年、静岡県が川奈ゴルフコースに対して奢侈税(しゃしぜい=贅沢税)を徴収する動きがあり、オーナーの大倉喜七郎氏が「そのような税を払うくらいならゴルフ場を閉鎖する」と、断固反対の姿勢を見せました。実際に3ヶ月間営業を停止して、県側が翌年に撤回したというエピソードが残されています。 その後、金融恐慌が起きた1927年に映画館や遊園地等の利用に地方税として「観覧税」が新設。1929年世界恐慌、1931年満州事変、1937年日中戦争が勃発して、1938年に戦費調達としてゴルフ場入場料の1割の「入場税」が国税として導入されました。 この「入場税」は1943年に「戦時特別入場税」と名称が変更され、1944年には15割へと大幅な増額となります。以上のように、第二次世界大戦に向かって戦時色が強まる時代背景の中で、一般庶民の娯楽(映画館や遊園地)はもとより、担税力のある富裕層の娯楽と見なされたゴルフへの課税が強化された経緯があるのです。 1945年に終戦を迎え、戦後復興に向かう中でも「入場税」は存続し、1948年に一旦地方税、1950年には再度国税となった後、1954年に一部が地方税に再移管されました。 この再移管された時点で、地方税として「ゴルフ場・パチンコ店等の利用」について「娯楽施設利用税」と名称が変更され、1989年の「消費税」導入まで存続します。「消費税」の導入時には、ゴルフ場利用以外は廃止となりましたが、ゴルフ場の利用についてのみ「ゴルフ場利用税」と名称を変えて存続します。存続の理由は、「ゴルフ場開設は地方自治体の行政サービスと密接な関連がある」「ゴルファーには担税力がある」「財源の乏しい地方自治体にとっての貴重な財源」の3点です。 消費税導入の前年、1988年度のゴルフ場利用による「娯楽施設利用税額」は1009億円と、現在の2倍以上の税収がありました。これを廃止すると地方財政への影響があまりにも大きく、他の娯楽施設利用への課税は消費税と相殺される形で廃止となったものの、ゴルフだけが例外的に存続されたのです。 ゴルフ場利用に対する「娯楽施設利用税」の標準税率は、3~4年の間隔で税率が改正され、最終的には「1100円」となっていましたが、消費税導入時に税負担水準を維持するとの考えから、消費税相当分(3%=300円)を引下げるとして「800円」となりました。その後、バブル経済の崩壊や三度の消費税率改正においても標準税率は見直されず、税収の10分の7がゴルフ場所在地の市町村に入る制度が現在も維持されているのです。 この間ゴルフ界は、「スポーツ課税」は不当であるなどと主張して「完全撤廃」の運動を展開しますが、撤廃一本鎗で代替案がなかったことも存続の一因と考えられます。 Q2 「ゴルフ場利用税」をなくすための方法論は? ゴルフをカジュアルスボーツにする際、「利用税」はその分プレー料金が上がるため足枷になります。どうすればこの税はなくなるのでしょう。 A2 戦前・戦後においてゴルフへの課税は仕方なかったとは思います。しかし、1956年度の経済白書に「もはや戦後ではない」とされ、その後、高度成長期に「1億総中流」という意識の中でゴルフは国民的娯楽になりました。 今日、超高齢社会の中で、スポーツや文化的な活動を通して心身ともに豊かな「人生100年時代」をを迎えようとしています。豊かな国民生活に不可欠なレジャーへの課税が「ゴルフ場利用税」として残ることは納得できません。 ヨーロッパでは、スポーツ施設の利用や観戦を「付加価値税」の軽減税率対象としていますが、日本では同様の検討はされませんでした。その一方、ゴルフ場利用税は消費税との「二重課税」であるとして、その正当性を疑う向きもありますが、実際にはプレー料金に消費税を課し、これにゴルフ場利用税を「併課」することから「二重」には当たらないとの主張もあります。 「ゴルフ場利用税」の撤廃には、国会での税制改正決議が必要ですが、本税により利益を受ける側がある限り、撤廃は困難でしょう。別の例で申し上げれば、1957年に「社団法人制ゴルフ場」の設立が「公益に資する要素が少ない」として認可されなくなりましたが、既存の「社団法人制ゴルフ場」は存続となったことと同様の現象です。 また、「ゴルフ場利用税額」は都道府県の決定基準によって複数の等級区分で決定されています。各自治体で税額は異なりますが、ゴルフ場の規模等により数百円から千二百円まで細かく分類されるものの、合理性に欠けるものが散見されます。 「ゴルフ場利用税」は基本的に廃止すべきものですが、地方税の課税根拠は国税に比較して希薄であり、徴税可能な対象から徴収する傾向があります。そもそも根拠が希薄なため、「ゴルフ場利用税は誤っている」と正論を押し立てることは可能でしょうが、理屈で撤廃を主張するだけではなく、条件闘争を含めた実践的な対応が求められます。 6年ほど前の税制審議会の議事録に「ゴルフは、ジャケットを着て行くのだから、担税力のある人達のする娯楽」との発言が残っています。時代錯誤の呆れた発言ですが、このような認識が根強く残ることも事実。撤廃運動が成就していない理由は「富裕層の娯楽という誤った認識」と「ゴルフ界の勉強不足による運動の方向性の誤り」にあったと考えられます。これを撤廃するためには、地道な活動ですが、ゴルフの様々な「価値」を粘り強く発信し続け、「富裕層の娯楽」という世間のイメージを払拭し、国民の方々から理解を得ることが、重要だと考えています。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2021年6月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら