『GEW』は2021年5月号より「ゴルフ産業を社会に広めるネットワーク・マガジン」とリニューアルしたが、筆者はその初回から連載をしている。そこでせっかくなので、ゴルフ場経営者として社会に広めたいことをこの誌面で伝えたい。それは、コース管理についてである。
ゴルフ場の主な商品はゴルフコースであり、その商品を維持管理するのが「コース管理」という部署である。業界関係者は当然、ご承知のことと思う。
私は1996年に入社以来、10数年コース管理に身を置いていた。当時、有馬カンツリー倶楽部はパッティンググリーン以外のジェネラルエリア(当時はスルーザグリーン)を完全無農薬で管理。それを始めてすぐの頃だった。
当コースは、関西圏のベッドタウンとして10年連続日本一の人口増加率にもなった、北摂三田ニュータウンと隣接しており、現在のSDGsに先駆け、周辺環境に配慮してのことだった。2003年までの7年間にわたり、完全無農薬および化学肥料を一切使わず有機栽培管理を行ったが、結果は大失敗。10万平米以上の芝生を入れ替える羽目になった。
詳細については、有馬カンツリー倶楽部のホームページを参照頂くとして、こうした状況に対して一番迷惑をこうむったのは、もちろんお客様だが、経営方針に翻弄されたコース管理職員も被害者といえる。懸命に努力したが、スポーツターフを維持することができなかった。
お客様がプレーしている最中も作業を行っていたため、プレーの進行方向とは違う方向で待機する我々コース管理職員目掛け、ボールが飛んできたこともある。「こんなコースでゴルフができるか!」と、怒りを表したのだと思う。
何が言いたいかというと、コース管理の評価は原則的に、減点方式だと筆者は考えている。
良いコースコンディションが当たり前で、パッティンググリーンにエアレーションと目砂などの更新作業が行われた直後にプレーされた方から「こんな砂だらけのグリーンでパターができるか!」とクレームがでることもしばしばある。
芝生が旺盛に育成する初夏はどうしてもグリーンスピードが遅くなるが、「もっと速く転がるグリーンを作れないのか!」と言われ、また梅雨の長雨時期はグリーンの表面が柔らかくなり、コンパクションが出ない。そんなときには「ボールマークだらけでグリーンが汚い」と言われる。良いコンディションの時にはお褒めの言葉や書き込みをいただくが、コースレイアウトに対する誉め言葉が多く、管理している職員の心にまで響かない。
コース管理にも光を
近年、コース管理職員にも「ゴルフ場は接客業なので、お客様に笑顔で挨拶しよう!」と指示が出る。当然のことと分かっているし、筆者も指導する立場だが、無理強いさせることだけは絶対にしたくない、と思っている。
弊社のコース管理事務所はクラブハウスの近くにある。そのため他部署の職員と顔を合わせることは多いのだが、それでもどこか「仲間外れ意識」が強くある。業務の「質」が違うことも一因だろう。
キャディーやフロント、レストランが行う接客は、当日プレーされるお客様にゴルフを楽しんでもらうための業務である。しかし、コース管理の多くの業務は、いま来場されているお客様のための作業ではない。明日以降に来場されるお客様、または3か月後、半年後に来場されるお客様のために行う作業が多い。前述した更新作業や薬剤肥料の散布などがそうである。
そのため、作業当日や作業後すぐにプレーされるお客様には嬉しい状態ではない。初めてのゴルフ場でのプレーを楽しみに、たまたま来場されたビジターのお客様には迷惑な話とも言える。コース管理の仕事とはそういうものである。
そのためにどうしても他の部署とは微妙な距離感が生まれる。「同じようにしろ」と言っても、なかなか上手くいかない。私自身も過去の経験上、強制ができない。でもこうした状況を打破して、何とかしたいと強く思っている。
そこで熟考――。お客様に気持ちよく接することができるようになるためには、ゴルフ場での役割を明確にして、各々の自尊感情の醸成が重要と考えた。自分を価値ある存在として尊重し、認める心を持つことが何よりも大切である。
2つの策を考えた。
1つ目は、年1回発行している会員向け会報誌にグリーンキーパー(コース管理のトップ)の写真を入れたインタビュー記事を掲載して、コース管理の想いを会員に知ってもらうことである。これにより、お客様との距離を縮める効果も得られるのではないかと考えている。
2つ目は、「ファーストティ」や「Gちゃれ」といった初心者向けゴルフイベントに、コース管理を積極的に参加させて、作業のデモンストレーションなどを行い、直接「すごい!」といった声や拍手をたくさんもらうこと。これによって自尊心が芽生え、仕事に対する前向きな意識が生まれるのではないか。
会報誌については2022年2月発行の号で、ファーストティなどのイベント参加は2021年夏より開始した。贔屓目かもしれないが、少しずつ変わり始めたのではないかと思う。
これからゴルフを楽しむときに、そのコースを懸命に維持するコース管理の人たちがいるんだということを、少しでも理解して気遣ってもらえたら嬉しく思う。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年4月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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