プレー人口激減期(18-23問題)とゴルフ場(第13回) NHKアーカイブスに見る「ゴルフ場開発」の記憶(3)

プレー人口激減期(18-23問題)とゴルフ場(第13回) NHKアーカイブスに見る「ゴルフ場開発」の記憶(3)
コロナ環境下で一時的にゴルフ人口が増えているという報道もあるが、人口減少や少子高齢化の推移を見ると、今後もゴルフ人口の減少傾向が続くことは間違いない。この連載では、筆者が提唱する「18―23 問題」(2018年~2023年にかけてのゴルフ人口激減)に立ち向かうための改善策や基礎資料に基づく提言を述べさせて頂く。

相次ぐ河川敷ゴルフ場の存続危機

現在、国土交通省関東地方整備局では、治水事業(荒川洪水調節池群の整備)が進められている。荒川流域は東京都と埼玉県にまたがり、流域内には、日本の人口の約8%が集中している地域とされ、特に埼玉県南部及び東京都区間沿川は人口・資産が高密度に集積している。この整備事業によりエリア内の荒川河川敷ゴルフ場においては、借りている土地の占用許可が解除の危機にあることは、既に報じられている通りである。 こうした「国の方針転換による存続危機」以外にも、近年は地球温暖化による突発的な気温上昇や台風の増加などにより、河川敷ゴルフ場の営業再開が困難になるほど深刻な影響を受ける事例も増えている。2019年10月の台風19号被害を受けた新東京都民ゴルフ場が「廃業寸前」と報じられたのち、10か月後に営業を再開し「奇跡の再オープン」と報じられたのは記憶に新しい。 だが、同じ台風19号の被害を受けた、利根川河川敷の上武ゴルフ場(群馬県)は、復活することができず2021年3月に閉業している。上武ゴルフ場は1971年に県営として初めて群馬県に開設されたゴルフ場であったが、開業50年の節目で閉業に追い込まれた。

「群馬県営ゴルフ場事業あり方検討委員会報告書」(2022年3月)

こうした状況もあり、群馬県は「群馬県営ゴルフ場事業あり方検討委員会」を設置し、その報告書を2022年3月にまとめている。この背景には「近年のゴルフ場利用者数の減少に伴う市場の縮小」、「民間ゴルフ場の値下げによる価格競争」、「施設の老朽化や自然災害の頻発」、「県営ゴルフ場を取り巻く状況の変化」等としている。 廃業した上武ゴルフ場のほかに、現在営業している群馬県営のゴルフ場は、玉村ゴルフ場、前橋ゴルフ場、板倉ゴルフ場、新玉村ゴルフ場の4つがあるが、これらの「必要性」、「運営方法」、「クラブハウス等の設備のあり方」等、報告書にはまとめられている。主に、ゴルフ場利用者や関係者に対するアンケート調査などを踏まえ、検討委員会の総論として下記の事項が挙げられている。 ・総合的にみて県営ゴルフ場は必要である。 ・各ゴルフ場の特色やターゲットを明確にし、ニーズに合ったサービスの提供を行う。 ・クラブハウスの更新は高額にならない簡素なものを検討されたい。 ・4ゴルフ場が全て同様の設備である必要はなく、プレースタイルに応じてレストランや浴室、ロッカールーム等の廃止や縮小の検討をされたい。 ・ドレスコードの撤廃(Tシャツ・短パンでの来場可又はプレー可等)について検討し、利用者に周知する方策を講じられたい。 ・県民割引等の導入を検討し、料金の見直しを検討されたい。

群馬県内の民間ゴルフ場支配人が考える、県営ゴルフ場のあり方

この報告書には、群馬県内の民間ゴルフ場支配人に対するアンケート調査結果が掲載されている。これによれば、回答した39名中38名の支配人(97・4%)が「群馬県営のゴルフ場は必要」と回答している。複数回答可で「必要な理由」も調査されているが、最も多く挙げられたのは「裾野拡大に貢献している」(55・8%)であり、次いで「気軽にプレーできるから」(21・2%)であった。また、「群馬県営のゴルフ場は必要でない」と回答した支配人は、その理由について「民間でも十分な選択肢があるから」、「河川敷にあり水災を受けるから」としている。 同業者(民間支配人)からは、県営ゴルフ場は顧客を奪われる競合他社とは捉えられておらず、お手軽感のある県営ゴルフ場は必要であり、ゴルファーの裾野拡大のためには重要である、と考えられているというのは興味深い。 だが、この調査対象が、現役利用者(ゴルファー)と民間ゴルフ場支配人であることから、真に、県営施設としての在り方を問う調査としては疑問が残る。

栃木県営「栃木県民ゴルフ場」(鬼怒川河川敷)

群馬県と同様に県営ゴルフ場を保有する栃木県も、2008年にゴルフ場の在り方に関する報告書をまとめている。この報告書はゴルフ場に特化したものではなく「企業局事業等あり方検討委員会報告書」の項目の1つとして、栃木県民ゴルフ場について検討された。 発表されたのが10年以上前(2008年12月)であるため、状況が当時と変化している可能性があるが、利用者数の減少に伴う経営状況の悪化が長期に渡っており、報告書では廃止も含めた検討がされている。しかしながら、都市計画法に基づく都市公園という位置づけからは廃止は困難であり、公園施設に改める場合にも莫大な費用がかかることや、法律上(河川敷地占用許可準則)も民間譲渡も不可能であることなどが確認されている。その結果、指定管理者を新たに導入して「ゴルフ場」として継続し運用せざるを得ないことが報告されている。 日本において、公営ゴルフ場は、山形県(1)、栃木県(1)、群馬県(4)、山梨県(1)、宮崎県(1)の、5県で8つのゴルフ場が存在する。いずれのゴルフ場においても指定管理者による運営が行われているが、山形県と山梨県を除く6ゴルフ場が河川敷コースとなっている。

NHK総合「包囲された河川敷―荒川のゴルフ場ラッシュ―」(1992年3月19日放送)

前述のように、河川敷を開発するには、国の特別な許可が必要であるが、荒川沿いなどゴルフ場が所狭しと並んでいる河川敷エリアがある。 1992年3月19日の「イブニングネットワーク リポートくらし」(NHK総合)では、「包囲された河川敷―荒川のゴルフ場ラッシュ―」という特集が放送されている。       当時のゴルフブームを背景に、ゴルフをする人にとっては、ゴルフ場がまだまだ足りないという思いの一方で、河川敷がどんどんゴルフ場に変わり、以前のように身近ではなくなっていることを残念に思う市民の様子も伝えられている。 番組の中では、建設省(当時)が1991年に熊谷市と川越市で実施した「荒川に関するアンケート」の結果を紹介している。これによれば、「荒川でどんなことをしたいですか?」という問いに対して、一番多かった回答が「水遊び」で、次いで「散歩」、「キャンプ」、「釣り」などであった。ゴルフやテニス、あるいは野球といった回答は少なく、多くの人たちが水辺に親しむ場所としてや、のんびりと過ごす場所としての役割を荒川河川敷に求めていた。

河川敷ゴルフ場がもっと身近であるために

河川敷ゴルフ場事業者においては、国有地使用許可を得て営業しているとはいえ、それらの管理・保全は国ではなく、ほぼ全てを事業者が担っている。冒頭に述べた「新東京都民ゴルフ場」の例のように、河川の氾濫や暴風雨など、河川敷コースは天候や自然の影響を受けやすいため、ゴルフ場を維持・管理する事業者の苦労は大きいだろう。 河川敷のゴルフ場はコースに起伏が少ないため初心者やゴルフを再開するには適している。大学生のコースデビューにもピッタリだろう。だが、ゴルフをしない人にとっては、開発ラッシュ時に経験した河川敷の変貌の記憶のままで止まっている可能性もある。 前述の県営ゴルフ場のあり方検討報告書の事例に見られるように、河川敷ゴルフ場は現状を維持して有用に活用することが様々な点でベターである。ゴルフを親しみやすく身近に感じてもらうための「あり方」を検討するためには、ゴルフをしない人や、地元住民の意見を積極的に収集・分析し、河川敷ゴルフ場が持つ様々な可能性を引き出す検討が必要ではないか。 参考文献 ・群馬県企業局(2022)群馬県営ゴルフ場事業あり方検討委員会報告書 ・栃木県企業局(2008)企業局事業等あり方検討委員会報告書
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年6月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら