セブンハンドレッドクラブ(栃木県さくら市)は「みんなが幸せを実感できるゴルフ場」をビジョンに掲げ、ゴルフ場の魅力を高めるための挑戦や地域連携を行っている。地域が一体となる起爆剤として、フットゴルフのワールドカップ招致に成功したが、コロナで今年10月の開催が中止になったのは残念だ。
その一方で、別のチャレンジも行ってきた。さくら市から依頼されたホテル経営への挑戦である。長らく地元で愛されてきた築35年、19部屋の温泉ホテルが、コロナ禍により閉館となった。場所は当ゴルフ場から近いお丸山公園(栃木県さくら市喜連川)に隣接しており、その再建を期待されてのことだった。
打診を受けたのが嬉しかった。意気にも感じた。自分は東京の人間だが、ゴルフ場は地元に根差さないと生き残れない。その地元からの依頼を無碍には断れない。
買収は昨年12月で、リニューアルオープンは今年の4月。「お丸山ホテル」と名称を変えて、日本三大美肌の湯・喜連川温泉を再興すべく立ち上がった。ホテル業は未経験だから様々な困難に直面している。今回はその一部始終をお届けしたい。
僕は、町の振興・活性化には滞在できる場所が不可欠と考えている。人が集まると賑わいが生まれ、その賑わいの中核になるホテル。そんなことをイメージしつつ、実現方法がわからないから知人の建築家・デザイナーに相談した。それがホテル運営のスタートだった。
「スポーツとヘルスケア」を軸にしながら、すべてを一新するのではなく、古くても良いものはきちんと残す。その際、経済産業省・特許庁が近年推進している「デザイン経営」という、デザインの力をブランド構築やイノベーション創出に活かす経営手法を取り入れた。
デザインを用いて商品開発するときの失敗パターンとして、会社の一部のメンバーとデザイナーが勝手に決めてしまい、気づいたら変わっていたというのがある。これでは社内に一体感は生まれない。そこで今回は社員とデザイナーを含め、対話形式で積み上げる方式をとった。
ムードボード(各々が自社をイメージする写真を持ち寄り会話する手法)を用いた対話や、改修前のホテルを見学し、改善点を写真に撮って共有するワークショップ、未来はどんな会社になっているかについて絵本を作ってもらうなどを通じ、徐々に自分たちが創り上げていく意識が醸成されたと思う。その結果、僕らが大切にしている様々なキーワードや姿が浮かび上がった。「丸」もそのひとつである。
上記の活動で印象的だったのは、「丸形」に近い写真を持参する社員が何名もいたことだ。円陣や観覧車などそれぞれ違うが、丸のイメージをもつ社員が多かった。その気持ちを大切にして、名称を「お丸山ホテル」に決め、ロゴも丸形を基調として、お丸山の場所一体に再び賑わいを取り戻そう、という目標をデザインにも表している。
開業以来の実績、世間の評価 反省と失敗
エントランスや壁がどんより暗かった建物内は、照明等で照らし、サイン(表示物)もアートワークで空間全体を明るくした。温泉はホテルのウリなので、手を加えて露天風呂とサウナを新設した。地域住民にとっては昔から思い入れのあるホテルだから、過去のものをなくすと「自分たちの場所」ではなくなってしまう。そこで大事なのが新旧の絶妙なバランスだが、これをデザインできたと思っている。多くの人が「キレイになった」「最高だ」と褒めてくれ、その一言一言が何よりも嬉しかった。昨年12月のスタートからわずか4か月でリニューアルオープンにたどり着き、一定の成果を出しつつあることに誇らしさも感じている。
その一方で、ホテル業は素人同然なため、悩まない日はないほど現場では様々なことが起きる。まず、コロナ禍で滞在者・宿泊者をどう伸ばすかだが、開業から2か月間で宿泊者を含む滞在者は累計約6000名。これは当初想定の5割ほどで、コロナ禍の中のスタートとしては上出来だと思っている。
当社の強みであるセブンハンドレッドとの連携については、宿泊ゴルフパックなどの企画をPRしているが、これによる来場者は全体の3割ほど。
また、アッと驚き、感動してもらえる食事をどのように提供するかについては、地域特産品の「ヤシオマス」を使ったメニュー等の開発をしているが、これに伴う収支の確保など、難題は枚挙にいとまがない。
従業員は24名だが、その3割がゴルフ場からの異動、もしくは兼務する部分もある。いわゆる素人集団であり、日々のオペレーションをどうやって確立するかさえ難しい。19部屋の最大収容人数は108名だが、宿泊客を迎えながら、日帰り温泉やレストラン利用客も受け入れ、これに会食やイベント、お客様から突発的な申し出があると、パンク寸前になってしまう。僕も現場に出て布団上げやレストランホールの仕事などをこなしているが、本稿を書きながら頭が痛くなるほど課題が多い(苦笑)。
開業前には、事前の訓練にプレオープンと銘打ち5日間のテストオープンをおこなったが、結果は散々なものだった。オペレーションやサービスの根幹等の課題を話し合ってきた。オープンして2か月が経ち、ようやく業務に慣れてきた空気が現場にでき始めた。今後はさらに良いサービスができる確信がある。奮闘中のスタッフには改めて感謝したい。
ゴルフ場がホテルを経営すると、「ゴルファー向けだね」と言われてしまう。ゴルフ場に付帯する施設としてのホテル、という見られ方だ。もちろん、ゴルファーも大切な顧客だが、それに限定するつもりはサラサラない。お丸山の「再興」も兼ねており、地域の物を使い、ラグジュアリーでも質素でもない、誰もが馴染める大きな「器」としてのホテルを目指すつもりだ。
セブンハンドレッドもお丸山ホテルも「誰一人取り残さない」というSDGsの精神を大事にしながら、持続可能な発展ができる場所として存在意義を発揮したい。
■出典
デザイン経営
出典:
https://loftwork.com/jp/news/2020/03/05_design-driven-management_report
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2021年8月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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