去年の8月1日、コロナに罹患してしまった。重度の症状で、この間「生きることの意味」を朦朧とした意識の中で考え続けた。そんなわけで本連載はほぼ1年休載したが、今は元気に日常生活に復帰している。本号から再開する連載では、病床から得た教訓を含めて皆さんにゴルフ場の挑戦を隔月で伝えたい。よろしくお願い申し上げます。
起 ゴルフ場を核とした地域づくりを目指して
「地域にゴルフ場が存在する意味を創る」。栃木県のセブンハンドレッドクラブを3代目として事業承継したときに思った想いは今も変わらず、挑戦を続ける原動力になっている。経営ビジョンを「みんなが幸せを実感できるゴルフ場」と改め、ノンゴルファーにとって馴染みのないゴルフ場を、どうやって身近に感じてもらえるか? という問いと日々向き合い続けている。
1つの解決策として、2021年9月に導入したフットゴルフがある。近隣市町村やスポーツ好きの間で少しずつ浸透していき、毎月300名程の来場がある。ゴルフの来場人数と比較すれば微々たるものだが、「ゴルフ場に初めて入った!」という新経験を、毎週100名に提供できていると思うと、本当に喜ばしい。実は、2020年の「フットゴルフワールドカップ日本大会」は当セブンハンドレッドが会場だったが、コロナで流れてしまった。しかし、その関りから生まれた地元自治体・さくら市との連携は当コースを大きく成長させてくれた。
承 お丸山ホテルを通した地域活性
さくら市商工観光課からの紹介で、コロナ禍で廃業した地元・喜連川のお丸山公園内にあるホテルを購入し、「お丸山ホテル」とリブランド。このチャレンジは、お客様に好評を頂くホテルとなってきた。日本三大美肌の湯・喜連川温泉に、地元食材を使った料理、そしてスタッフの心がこもったサービスがお客様から高い満足度を得ている。オープン当初はコロナ禍もあり、非常に苦しい闘いが続いた。
2022年2月の第6波では、経営的に最も厳しく、全社員を集めて会社の銀行残高を説明したくらいだ。しかしながら、スタッフの獅子奮迅の努力もあり、今ではホテルを目指して来るお客様も増えてきた。
お丸山ホテルのビジョンは「さいこうを目指す」というもので、「最高」のホテルサービスに加え、地域を「再興」するためにイベントを「催行」し、「さぁ、行こう!」と言ってもらえるようなホテルを目指している。このビジョン策定中に、光栄なことにさくら市主催の「お丸山会議」のワーキンググループの司会役を仰せつかることが出来た。
日夜、商工や観光振興関係に携わる市民の方々と、どのような喜連川・お丸山公園を目指していくかを議論している。今年度のワーキンググループ終了時には、本誌にもぜひ結果をお知らせしたい。
転 コロナで死の淵を見たことで覚悟が出来た
フットゴルフも始め、コロナ禍も乗り切れそうと思っていた矢先、2021年8月1日にコロナに感染した。
容体がとても悪く、朦朧とした中で生まれたのが「本質的な問いと向き合い、人の底力を信じ共に育ち学び合い、新たな価値作りを通じて、真の豊かさと美しさを創る」覚悟だった。正直、コロナで死んでもおかしくなかったため、生きているだけで幸せだが、生かされたからには、その生を全うしたいと強く思うようになった。
企業の本質は組織であり、人である。事業承継してゴルフ業界に関わるようになり感じた業界の課題は、「人財育成」に対する向き合い方だと感じていた。
オーナーのためのゴルフ場ではなく、スタッフ・お客様・地域のためのゴルフ場となるべく、これからの時代は「指示型組織」ではなく「自律分散型組織だ!」と言い続け、社内の組織開発を率先して行うことで個々人の主体性を磨いてきた。
「人の底力を信じ共に育ち学び合い」を自分の使命に掲げたからには、今まで以上にやり切ろう!と、対話の質を上げてきた。その結果生まれたのが、想像もしていなかった「農業」事業だった。
結 いちごを通じて地域おこしを目指す

ゴルフ場の相ケ瀬圭司支配人と対話をしている時「僕、実は農業をやりたいんです」との申し出があった。「やりたいことが出来る組織になる」ことを目指しているため、自分は即答で「やりましょう」と答えた。ついにゴルフ場から責任者がいなくなってしまった(笑)。なんて喜ばしいことなんだろうと思えた瞬間だった。
栃木と言えば「いちご」。このイメージは定着しているが、本気で急拡大を狙っている企業は少ない。僕らはこのギャップに挑戦すべく、今年度からいちご畑1・5町歩(1万5000m2)の栽培を開始した。
勿論、課題だらけ!
いちごの栽培方法を勉強するところから始め、圧倒的な人手不足の中、夏の異常気象でいちごの苗が全滅し、ちゃんと育ち出荷できるのかという不安を常に抱えているが、立ち止まることなく、出荷が出来る状態になる今年の冬まで猛烈なスピードで突き進んでいきたいと思う。
そんな中、更なる飛躍の機会を頂いた。セブンハンドレッドを通じた様々な取り組みや地域連携、お丸山ホテルの経営と商工観光に対する意気込み等が評価されたのか、光栄なことに、今年度より栃木県のとちぎ観光地づくり委員会(DMO)の委員の役目を仰せつかった。栃木のみならず日本を代表する商工観光に携わる方々と意見交換をすることで、「街づくり」や「地域振興」に対する視座が高まり、自社の特異性についても理解が深まっている。
委員会の中で気づいたことは、ゴルフ場経営は、誰よりも自然や土地と向き合う仕事であること。この自社アイデンティティを新しい強みと捉えなおし、これから一層「農業・いちご」の栽培に力を入れていく。目指すはゴルフ場と融合した観光農園と宿泊(農泊)体験の提供で、栃木を代表する企業になること。
セブンハンドレッドから始まる地域づくり。勿論、ゴルファー向けの取り組みも強化すべく、今年の秋には初めての会員募集を用意している。これからもゴルファー向けの取組はもちろん、ノンゴルファー向けの取組みでも日本のゴルフ場業界をリードできる存在になるべく突き進んでいきたい。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年11月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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