ゴルフ場を活用してもらい新たな種を生む
ぼくが経営するセブンハンドレッドクラブ(栃木県)のミッションは「世界一なんでもできるゴルフ場」だ。この標語はゴルフ場の常識にとらわれず、社員が様々なトライをすると同時に、「外部」のアイデアや情熱を当社に持ち込んでもらう狙いがある。
外部というのは、地域の商店街や学校、行政や社会福祉法人などで、街の関係者の困りごとを「セブンハンドレッドだったら解決できるのでは?」と持ち込んでもらい、一緒に取り組み、イノベーションの種を生んでいくことに尽きる。
その結果、地域に新しいコトが生まれ、街が存続し、「この地域にゴルフ場があってよかったね」と言われる存在になること。実は、すでに具体的な取り組みが生まれている。今回はそれを紹介しよう。
民業圧迫? さくら市が無料のフットゴルフ場を開設
セブンハンドレッドは2019年9月、コース内にフットゴルフの環境を整えた。フットゴルフはサッカーボールを蹴って、直径21インチ(約53センチ)の穴に入れるもので、詳細は以前、この連載にも書いた。その取り組みが地元さくら市の職員にも飛び火して、2020年7月に官民連携の「フットゴルフタウン推進委員会」を設立。ぼくは副会長に推挙された。
以来、子どもから大人まで楽しめる市主催のフットゴルフ大会が通年で開催され、セブンハンドレッドのトライから始まった取り組みが、皆の取り組みとして広がっている。
撒いた種は啓蒙普及のイベントにとどまらず、思わぬ方向に枝葉を伸ばした。なんと、さくら市フットゴルフ協会は、市営公園の「ゆうゆうパーク」に市運営のフットゴルフ場をオープンしたのだ。しかも、プレー料金はタダである。
実は、この公園はセブンハンドレッドから車で15分圏内のところにある。しかも当コースのフットゴルフ場は大人1人2750円(9Hプランの場合)〜と有料だから、同一商圏にライバルが登場したことになる。それを自治体が主導するとなれば民業圧迫であり、なおややこしいことに、圧迫している自治体側の副会長をほかならぬ僕が務めているのだ(笑)。
自社の収支だけを考えれば事前に阻止すべきことである。だけど僕らの存在意義からすれば、この出来事こそ大事だと思っている。僕らの「やりたい!」意志が市民の「やりたい!」という種に変わり、それが結実した事例なのだから。
宇都宮大学の授業でゴルフ場の存在意義を考える
さくら市との官民連携を通じ、別の活動もはじまった。市役所からの紹介で宇都宮大学との関係ができ、2021年度より宇都宮大学・地域デザイン科学部のメイン授業「地域プロジェクト演習」に、地域パートナーとして参加している。
この演習は、地域デザイン科学部に所属する全3年生が混成で5~7人のグループに分かれ、地域が抱える課題を調査・整理。我々が1年間伴走しながら、解決策を提案するPBL(問題解決型)授業である。ほかの地域パートナーは栃木県内の行政やNPO・社団法人が選ばれているが、弊社は唯一、市の推薦で株式会社の地域パートナーとして参加している。我々の公益・社会性が認められたもので、心底嬉しい。
演習のお題は「地域とゴルフ場・ホテルの関係性デザイン~セブンハンドレッドクラブとお丸山ホテルが地域集会場となるためには~」というもので、お丸山ホテルは弊社のグループ企業である。
学生は、ゴルフ場ができる地域貢献の価値を真剣に考えてくれ、その結果、セブンハンドレッドで開催する市主催さくら市民体育祭で「e-sportsイベント」を実施。子ども達を市民体育祭・ゴルフ場に呼び込む企画を提案・実施してくれた。
子どもにゴルフ場に来てもらうために、という観点から生まれた発想だが、ゴルフ場なのに屋外でなく、屋内でe-sportsゲームを行う逆転の発想。ぼく自身、考えたこともなかった。近隣の市の体育祭においても「e-sports」の事例はなく、栃木初の試みではないだろうか。この成果に市民も強い興味を持ち、来年度以降も市の体育祭で「e-sports」開催の検討が始まっている。
セブンハンドレッドの存在意義
我々だけでは想像できなかった取り組みが、少しずつセブンハンドレッドで芽生えている。その根底にあるのは他人事ではなく、自分事として「やりたい!」という意志の種を当コースに植え付け、社会に生み落としていく。「地域にゴルフ場があって良かった」と思ってもらえる未来を創るためだ。
これからもセブンハンドレッドは「僕たちのトライ」だけではなく、「皆のトライ」を応援しながら、一緒に実現するための取り組みを進めていきたい。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2023年3月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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