栃木における農業の可能性
ぼくは栃木県さくら市にあるセブンハンドレッドクラブの3代目社長だ。幼い頃、セブンハンドレッドでプレーをした後、地元の水田にある農家の直売所に行くことが大好きだった。今思い返せば、その直売所での買い物もゴルフ体験の一つだったように感じる。そして、そこでは忘れられない美味しい「お米」との出会いがあった。自画自賛をするようだが、我がさくら市のお米は、日本随一の美味しさだと思っている。
その美味しさはお米だけに限らない。東京に生まれ育ったぼくにとって、栃木の農産物は宝物のように感じられる美味しさを持っている。高品質なのに、低単価。栃木の県民性も相まって、どこか保守的・控え目で、売り出していこうという気持ちよりも、「良いものを作る」という気概が感じられる。
この魅力的な栃木の農産物をゴルフ場レストランやグループ会社のお丸山ホテルで地産地消にて紹介するだけでなく、もっと県外に広めていきたい!とずっと思っていた。
農産物直売所の指定管理を受託
セブンハンドレッドで行う新たなトライとして、さくら市が運営する農産物直売所「菜っ葉館」の指定管理者になるべく手を挙げた。
菜っ葉館(さくら市氏家地区農産物直売所)は、女性起業等の新たなアグリビジネスの展開による農業・農村の振興を目的として、組合が主体となり2007年にオープンした施設である。毎朝農家が、自ら育てた野菜を持ってきて棚に並べ、それを消費者が買っていくという直売所らしい光景が毎日見られる。
建物面積は約300m2弱と大きくはないが、栃木を南北に貫く国道4号に面した場所にあり、上手く活用できればさくら市の農産物PR拠点となり得る場所である。その一方、採算が取れていない・持続的な運営のためには民間の力を必要とするなどの事情で、市が指定管理者を募集したという経緯である。
自治体における指定管理者制度とは、公共施設や公共事業などを行政が行うのではなく、民間企業や団体などの「指定管理者」に運営を委託する制度である。㈱セブンハンドレッドには公の施設を運営した経験ははないが、プレゼンに加え今までの地域連携の様子や経営力を評価され、当該施設の指定管理を受託することが出来た。いよいよ、2023年4月1日からセブンハンドレッドとしての経営・運営が始まる。
菜っ葉館と今後の構想について
宇都宮や県内外からも〝ちょうどいい〟距離のさくら市にある菜っ葉館を、農業・観光振興の両軸から重要拠点と位置づけ、さくら市の農業を代表する場所にしていきたい。
経営をするにあたっては現在の従業員や農業組合・農家との関係性維持を最重要視しながら、現場主導のボトムアップ型の改善を実現する。対話を通じて重要度と緊急度の高い改善を行いながら、事業を改善するにあたっての真因分析を行うことで、段階的に良くなる経営(年輪経営)が可能だと信じている。
また、地域の農産物直売所としての存在価値を向上させるだけではなく、組合員農家とのネットワークを活かした六次産品の創出も行うことで、さくら市の農業を盛り上げるためのキッカケづくりが出来る場所運営を目指していきたい。
グループ会社(お丸山ホテル・住地ゴルフ)との連携を通じて、ゴルフ場やホテルでの食材を仕入れて地産地消を明確に打ち出すことや、農産物直売の出張販売などを行っていく。当然、首都圏を中心とした方々へのEC等での販路開拓や、ロイヤルカスタマーへの贈答品としての新たな付加価値も創り上げていく。
明るい展望は見えているものの、市に出した事業計画でも初年度は赤字の経営計画。併せて社内には公的施設の運営経験がある人物はいないので、大きなトライである。
原風景と地域の自然を守るために菜っ葉館の運営に加え、昨年度より始めた我々の新規事業である「いちご栽培・販売」も含めると、我々はゴルフ場運営会社なのか?と疑問すら湧いてくる弊社ではある。
しかしながら、弊社のビジョンは「みんなが幸せを実感できるゴルフ場」であり、「あらゆる人々・環境に喜びを提供し、健康で持続可能な社会づくりを目指し、地域の活力を共に生み出す場所として、進化と変革を続けるゴルフ場」である。
美しい原風景である水田・畑が、太陽光パネルになってしまう様子を地域住民は残念がりながらも「仕方がない」という気持ちで諦めてしまっている。農業を維持・推進することは、単にビジネスではなく、景色を守り、地域を守ること。すなわち「あらゆる人々・環境に喜びを提供し」「地域の活力」を生み出すことだと思っている。
全国でも珍しいであろう、ゴルフ場経営会社による地元自治体の農産物直売所の指定管理・運営の取組みを、是非あたたかく見守り応援していただきたい。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2023年5月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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