地域における文化的な余白づくり
ゴルフの源流をたどると、スコットランドの羊飼いの遊びから生まれたスポーツ=娯楽だと聞く。ゴルフ場を経営する我々は時として「設備産業」と見られがちだが、提供している本当の価値は「遊び文化」そのものである。遊びには余白が必要で、その余白や生活から新しい文化が生まれる。ゴルフはまさに、その循環の中で生まれた文化的な娯楽の一つだと思う。
ゴルフ場を通じた街づくりを目指す自分のキーワードは「文化創り」だ。日本や世界を旅する中で「文化創りが盛んな街」を時々見るが、一番強烈な原体験は、僕が大学生時に留学したアメリカ・ワシントンD.C.だった。かの地は首都であり、政治や国際経済の中核都市でありながら、車で30分圏内に沢山のゴルフ場があり、ゴルフが市民にとって非常に身近な存在であることに驚愕した。加えて著名なスミソニアン博物館や美術館の他、街中の至る所にアートや石碑・銅像が点在し、歴史的な出来事の現場には案内が掲げられ、街全体で文化醸成を行っている気概さえ感じられた。
そんな経験から、ゴルフ場を経営する我々は何が出来るだろうか、との問いに立ち返る。ゴルフを身近な存在にし「遊び文化」をより多くの方に提供するための企業努力はもちろん、「街の文化醸成」にまで踏み込むべきではないかと考えた。
日本のゴルフ場の多くは開場して数十年の歴史を持ち、その地域の歴史や文化の一部の証人であると位置づけられる。だからこそ街の未来を想像しながら、産業やWell-being、文化を支える存在になることが求められるのではないか。そこで、セブンハンドレッド(栃木県)のグループ会社として「お丸山ホテル」を運営していることを強みと捉え、新たな文化の創造主となるべく、アーティストを呼び、宿泊型のプログラムである「アーティスト・イン・レジデンス」を開始した。
アーティスト・イン・レジデンスの可能性

アーティスト・イン・レジデンスとは、「アーティストが一定期間ある土地に滞在し、常時とは異なる文化環境で作品制作やリサーチ活動を行うこと※1」であり、まずは知り合いのアーティストに協力を得ることから始めた。2023年4月にはオランダ・アムステルダムから写真家のVincent Schipperさん、同7月にはアメリカ・NYから彫刻家の清宮大輔さんを招き、1週間滞在してもらい、セブンハンドレッドとお丸山ホテルに滞在しながら、作品制作をして頂いた。
Vincentさんは、セブンハンドレッドのある栃木県さくら市のスローガン「ちょうどいいさくら市」にちなんだ「Super Normal」という作品を。清宮さんはお丸山ホテルのあるお丸山公園からの原風景から「Wind(風)」という作品を制作。二人とも制作中に地域の飲み会やお祭りなどへの参加を通して、創作活動に刺激を受け、地域の特色が反映された作品になった、と語っていた。清宮さんの作品は市に寄贈(寄付)され、お丸山公園に接してもらったことで新聞にも取り上げられ、市民から多くの賛同の声が届いた。
国策としてのアート文化醸成

このようなアートへの取組みは、単なる道楽ではない。2023年7月4日、経済産業省は「アートと経済社会について考える研究会報告書」をまとめ、その中のレポートにアートと地域・公共のプレイヤー相関図(※2)が記載された。
アートはビジネス、そして地域振興の要にもなる。そこにはこの図にあるように、「空間・土地」が必須である。僕は、ゴルフ場こそ、その可能性がある広大な空間・土地だと信じている。まずは足掛かりとして、引き続き地域に溶け込むアートづくりを通じ、地域の文化醸成に携わっていく。
市民の目に触れる機会が多いアート作品に「セブンハンドレッドが関わった」と伝播されることで、我々の企業姿勢を市民に示していく。最終的には、地域の文化醸成に資するアートで溢れるゴルフ場を目指していきたい。
■出典
※1 中島水緒. “アーティスト・イン・レジデンス”. 美術手帳.
https://bijutsutecho.com/artwiki/17, (参照 2023-8-2)
※2 経済産業省 商務・サービスグループ クールジャパン政策課.”「アートと経済社会について考える研究会 報告書」”. 経済産業.
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/art_economic/pdf/20230704_1.pdf, (参照 2023-8-2)
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2023年9月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら