有馬カンツリー倶楽部では、大学ゴルフ授業「Gちゃれ」やファーストティなどへの取り組みを通して、ゴルフをしたことがない人たちにゴルフ場でゴルフを楽しんでもらうチャレンジを積極的に行っている。
グループのゴルフ場を持たず、大きな資本傘下でもない中小零細の当コースが、なぜこのような取り組みをするに至ったかを私の経験を踏まえて少しお話したい。
私が求人雑誌の広告営業マンを辞して家業である現在の会社に入社したのは、阪神淡路大震災の翌年1996年4月。コース管理職員からゴルフ場勤務をスタートした。
すでにバブル景気の終焉後だったため、ゴルフ場景気の悪いことは理解していたが、当時経営責任者だった叔父や父から「ゴルフコースがキレイであればお客様は増えるはず」という呪文をいつも聞かされていた。そんな呪いを本気にすることはなかったが、まずはターフメンテナンス技術の習得に没頭した。正しい判断をすれば元気になって素直に応えてくれる天然芝の管理業務は、人を相手とする営業職に疲れ切っていた心を充分に癒してくれた。
そんなコース管理業務を楽しんでいた数年のうちに、ゴルフ場業界の周辺環境はめまぐるしく変化していた。新しい大手企業が勃興し、集客のための低価格競争は激化。弊社のような中小零細企業は完全に後手に回り、周辺の価格を伺いながらビジタープレーフィを決めているような始末。来場客数減少のため、経営状況はひっ迫していた。そこで過去の営業時代を思い出して、少し集客を手伝うことにした。
集客を第一に考えるなら、ニーズのあるところを攻めればいい。第一に近隣のゴルフ場、次にマーケットエリア内にあるゴルフ練習場やスクール、その次に同エリア内にあるゴルフショップ。要するに市場エリア内のゴルファーがいるところを狙えばいい。言い方は悪いが、価格同等クラスの他のゴルフ場から客を奪ってくるのが手っ取り早いと考えた。
市場調査を徹底して行い、景気動向を予測し、他所よりも先に価格を決めてオープンにする。他所に予約する前に先に予約を促す。知名度がなければチラシを作って練習場やショップに置かせてもらう。当時始まったばかりのポータルサイト予約もいち早く登録した。
当時の私は、我々のような小さな企業は余裕がないため、ニーズがない(ゴルファーがいない)ところに力をいれても仕方がない。新しいゴルファーを増やすような労力に見合わないことは、豊富な資金力のあるところに任せればいいと考えていた。このような考えは前職の影響である。同業他社は同じニーズを奪い合う〝敵〟である。完全な新規顧客を探しだして新たに作るよりも、他社顧客を奪うほうがはるかに少ない労力で効率よく数字を得られる。それが営業現場では当たり前だった。
だから集客に悩みながら、近隣のゴルフ場と仲良くしている支配人を見ると不思議で仕方がなかった。
それからさらに数年が経った2012年、会社の代表となった。その当時、集客力はある程度備えていたが、デフレ景気真っただ中のため、価格競争から抜け出せず、平均単価を下げない努力をしていたものの、上げることもできずにいた。何とか同業他社との差別化を図り、価格競争からいち早く脱却したいという思いが強くなっていた。また団塊の世代がリタイアする2015年問題がゴルフ業界で大きく取り沙汰されていたため、縮小市場でのさらなる競争激化が予想され、弊社のような弱小企業は簡単に飲み込まれてしまうという不安も付きまとっていた。
他社連携の可能性を

業界最大の問題である市場の縮小をどう防ぐのか。高齢を理由にリタイアしていくゴルファーは止められない。それに見合うだけの新規ゴルフ参入者がいないためにゴルフ人口は減少の一途を辿っている。
この業界最大の問題解決は、需給バランスを保つために同業他社が減少するか、もしくは新たなゴルファーをつくるかの二つしかない。そこで弊社では、他社に先駆けてゴルフ場で新規ゴルファーを創ることにより差別化を図り、そうすることで弊社の存在価値をあげ、会社の存続につなげようと考えた。
これまでは弊社のような弱小企業が新規参入者を増やすような努力をするべきではないと思ってきたが、日本全人口の約5%、そこからさらに縮小する狭いゴルフ市場にとらわれず、残りの人口95%に対して挑戦しよう。そう考えると小さくなっていた視界が急に広がった気がした。
しかし、これまで日本ゴルフの歴史において、ゴルフ場で新規参入者を増やしてきた実績はない。プレーペースに対する問題が大きいため、初心者がプレーするフィールドがゴルフ場につくられてこなかった。初心者へのコース提供には乗り越えるべき数多くのハードルがある。
弊社にとってGちゃれやファーストティへの参画はそのハードルをひとつひとつ下げるための試験的な取り組みである。すぐに結果がでるものではないが、着実に少しずつ種を蒔いている。そのうちに、新規ゴルファーという芽が有馬CCのコースに出てくるだろうと信じている。
現在のゴルフ市場内での集客競争において、「近隣同業他社とはライバル関係である」という考え方について、私は今も変わらない。
しかし、「新規ゴルファーを創造する」という業界課題の解決については、他社連携はいくらでも可能であると考えている。
私自身、この取り組みを始めたことによって前職で植え付けられてきた「数字を効率的に得る」ためだけの直接的な狭い視点から、俯瞰的視野を持って、広く物事を考えることを教わった気がする。
様々な人たちと「新規ゴルファー創造」について様々なアイデアを出し合い、実行することで実績を積み、さらに良い策を協働して練り上げていく。そのような関係が構築できれば素晴らしいと思う。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2023年10月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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