夏休みを利用して、パリオリンピックを来年に控えるフランスに出掛けた。パリ在住の叔母を頼って学生時代から何度も訪れているが、コロナ禍明けで久しぶりに海外旅行が可能になり、叔母のバカンスに便乗して楽しもうという魂胆だ。日本での仕事も遊びもゴルフオンリーな生活から脱却して、予定も立てずにのんびりするはずだったが、ゴルフ競技の舞台となる「ル・ゴルフ・ナショナル」は外せまいと、以前仕事で知り合ったコースの方にお願いをして訪問が実現した。
オリンピック委員会は、このコースでの五輪開催を決定した。「フランスオープン」29回、「ワールドアマチュアチーム選手権」2回、そして2018年の「ライダーカップ」など数多くの大会を開催し、一日3万人以上の観客を収容できるフランスで唯一のコースだからだ。
「ル・ゴルフ・ナショナル」は、フランスゴルフ協会が、メディア、特にテレビ中継で映えるホームスタジアムを目的として設計され、1990年に開場した。広大で平坦な敷地にはチャンピオンシップコースの「アルバトロス」に加えて「イーグル」「バーディ」の2コース、ゴルフ練習場、トレーニングセンター、ホテル、およびフランスゴルフ協会の本部を有し、まさに総本山となっている。パリのエッフェル塔から25km、ヴェルサイユ宮殿からわずか10kmの位置にあり、パリのホテルからUberなどのライドシェアを使えば片道約30分、約50ユーロ(7900円)でアクセスでき、観光とゴルフをストレス無く楽しめる最高のデスティネーションと言える。
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激闘の末、ヨーロッパチームの感動の勝利で幕を閉じた2018年の「ライダーカップ」を観戦して以来、夢にみた「ル・ゴルフ・ナショナル」でのプレー。1番ホールをナイスショットでティオフし、爽快感でスタートしたが、セカンドショット地点に着いた途端に恐怖へと変わる。番手を迷ったあげく、打ったボールはグリーン手前の池の中へ。最初の4ホールで日本から持ってきた6個の半分が池に消え、果たして無事にホールアウトできるのかと不安になった。組み合わせで一緒になったパリ在住のエリックが、途中から「マッチプレーをやろう」と言い出し、負けず嫌いが功を奏してなんとか残りのボールでラウンドを終えられた。15番からの池に囲まれた壮観なレイアウト、18番の円形劇場のような形状は圧巻。ぜひ一生に一度はプレーすることをおススメする。
ゼネラルマネージャーのフィリップ・ピラト氏に話を聞いた。
「最も重要な点は女子競技のためのコースレイアウトです。本来、男子競技のために設計されたため新しいティイングエリアが必要で、作業はこの冬に始まります。最も困難なのは、2週間、練習日を含めるとほぼ3週間にわたって男女2つのトーナメントコースを同水準で維持することです。これは大きな挑戦ですが、同時にやりがいも感じています。コース管理スタッフのケアもしっかり行わなければならないでしょう。陸上競技に例えると、1週間のトーナメントは10kmのレースに相当し、オリンピックはフルマラソンのようなものです」
パリオリンピックでは、二酸化炭素排出量を過去の大会の半分に削減するという大胆な目標を打ち出している。「ル・ゴルフ・ナショナル」ではフランス政府、国立自然史博物館や地元の大学と協力して、脱炭素化と水の再利用システムの構築を中心としたサステナブルプロジェクトを重要な位置づけとしている。
コース近くに都心と結ぶ地下鉄の建設が予定されており、それまではライドシェアや公共交通機関の利用を推奨。最小限の水と農薬でコースコンディションを維持する研究や、プレーエリア以外の植生を促進してカーボンニュートラルへの実現に取り組んでいる。環境先進国から我々が学ぶ点は多いと感じた。
パリオリンピックへの想いや環境への対策について話を聞いた。
フィリップ・ピラト氏(ル・ゴルフ・ナショナルゼネラルマネージャー)
ゴルフは限られた人がする印象ですが、オリンピックを通じて、身近に試してみたくなるスポーツへと変わるチャンスです。自国の選手が金メダルを獲得すればその効果は倍増するでしょう。また、オリンピックでフランスに訪れるスポーツファンに、ゴルフデスティネーションとしての認知を高める絶好の機会です。フランスにはクオリティの高いコンディションとサービスを提供するコースが数多くあり、一度体験すればフランスが理想的なゴルフ旅行の目的地であることに気付くでしょう。この秋より、コースとすべての練習エリアの準備にフォーカスします。期待に胸を膨らませる観客の感動体験のため、スケジュール管理を徹底してベストを尽くします。
アーサー・ルコンテ氏(ル・ゴルフ・ナショナル環境アドバイザー)
人と自然が共存する社会をつくるためのデザイン手法「パーマカルチャー」を導入しています。森林は水や肥料を与えなくても成長しますが、それは土壌が植物に栄養を供給するためのすべてを含んでいるから。水の管理を整備し、144㎞の排水パイプを配置。収集された水は生物多様性を維持し、何度も再利用して湿地帯に供給されます。化学薬品を使わずに芝生の乾燥と病害に耐える為、キノコの天然有効成分を利用するなど様々な方法を探求中。この取り組みがゴルフ界の将来世代に役立つことを期待します。
トゥロン・エリック氏(金融会社勤務)
12歳でゴルフを始めて38年。のめり込み、セント・アンドリュースやペブルビーチも経験しましたが、今は休暇中に年数回プレーする程度です。フランスにはリンクスから山岳コースまで素晴らしい景色を楽しめるコースがあります。カート数不足やインフラ面が整っていないこともありますが、過去10年でかなり改善されました。フランスでゴルフは特権階級、ブルジョワのスポーツとみられています。水を大量に消費すると考えられて環境保護主義者がコースを荒すこともあります。階級闘争のスポーツで、残念ながらイメージは変わっていません。ゴルフブームを巻き起こすには、先日地元フランスのメジャー大会で優勝し、LPGAツアー通算5勝を誇るセリーヌ・ブティエの金メダルが期待されます。若い人々が共感できる偉大なチャンピオンがゴルフのイメージを高めるでしょう。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2023年10月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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