日本政府が掲げる「新しい資本主義の実現」の名の下に、人的資本経営への注目が集まっている。
人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方※1である。高校時代にラグビー部で育った私としては、強い個人の集積が強いチームであるが、真に強いチームは個を強く育てられるチームである、という信念がある。
ゴルフ場経営を承継した際、「個を強く育てられる」環境がないゴルフ場が多いことに驚いた。ゴルフ場運営において必要なホスピタリティや、コース管理などの教育環境はあったとしても、広義では「新しい機会」が少なく、結果的に情報や繋がりが更新されていないと感じた。
その結果、「お客様を待つ」ことはできても「自ら出ていく」ことに対して不得手になる悪い循環となっているのではないか。ゴルフ界に吹いたコロナバブルが明け、地力が求められる今こそ、「待つ」のではなく「出ていく」姿勢が求められる。そのためには「強い個人」が必要であり人的資本への投資が必要だ。
セブンハンドレッドではこれまで様々なイベントや取り組みを通じ、ゴルフ業界内外の方と弊社のスタッフが交わる機会を創出してきた。言わば、地力が付く実地研修。その力をさらに促進するために、積極的に外に出る姿勢を持ち、多様な機会と出会いを通じて成長を促す『ゴルフをつなげる30人』プログラムに参加してもらった。
「つなげる30人」とは、地域内の行政、企業、NPOなど異なるセクターのキーマン30人を毎年集め、まるで「街の同級生」のようなフラットなつながりを作り、互いのリソースを持ち寄りながら地域が良くなるためのアイデアや企画を約半年かけて形にしていく取組みである※2。「ゴルフ」に特化した「ゴルフをつなげる30人」では上記に加え、①ゴルフマーケットの成長・発展、②フラットなコミュニティ創造、③ゴルフ産業にイノベーションを、④社会的インパクトの実現、を目指す取り組みだ。その学びの様子を、参加した当クラブ・総務部企画開発部門の加藤里奈さん(入社1年目)から提出された参加レポートを一部抜粋する形で追ってみたい。
ゴルフをつなげる30人に参加して
著名なプロゴルファーに会えるかもという期待(笑)を胸に、東京への電車旅を決心しました。当初は「遠いな」と思い、「自分より偉い人が来るかもしれない」という不安もありましたが、非常に楽しい時間を過ごすことができました。
情報発信やゴルフ場のイベントを企画する役割を担う中で、認知度が高まらない悩みを共有した際に、私たちが行っている地域のイベントやフットゴルフについても、高い意識を持つ集団内でさえ認知されていないことを知りました。また、ゴルフ場の予約方法や、時間に縛られるシステムなど、古い慣習に対して疑問をぶつけられることで色々と考えることも多かったです。
一方で他の参加者から「遊びのツールとしてもっと身近になってほしいが、それでいて格式は保ってもらいたい」という意見もあり、議論が様々な角度でされることがとても新鮮でした。全体として、企業の代表というより、同級生のように気軽に話せる雰囲気があり、友達感覚でゴルフについて深く語り合えたのが非常に良かったです。それぞれの団体がどのような活動をしているのかを理解する良い機会となりました。
このような感想を聞き、ゴルフ場の「のびしろ」を感じたのは私だけだろうか。自社の具体的な活動について話し、フィードバックを得て活動を見直す機会になったことは勿論だが、企業の枠組みを超えて気兼ねなく話し合いを出来るつながりをゴルフ場のスタッフが持てたことで広がる事業性は大きい。
僕の考える強い個人は「優秀」なことよりも、自社内では考えつかない創造的な解決策を探求できる「友達」を持っていることだと思う。そのためには「待つ」ではなく、「出ていく」こと。新しい情報や繋がりを持つことを応援する必要がある。人材投資を積極的に行うことが、今後のゴルフ場の「のびしろ」だ!
注釈
1 経済産業省(2024).「人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す」経済産業省. https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/index.html,2024年4月19日
2 加生健太郎(2024).「つなげる30人とは」一般社団法人つなげる30人. https://www.project30.or.jp/,2024年4月19日
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2024年5月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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