今年3月、私たちは伊勢神宮に足を運び、これから挑戦する事業を必ず成功させようとの想いを込めて、主要メンバーでご祈祷をしてきました。そのときの集合写真を載せましたが、スタッフ全員誇らしい表情をしています。弊社の一番のストロングポイントは「チーム力」、そのことを表わす一葉の絵です。
新業態へのチャレンジ、最高のスタート
4月12日、松山英樹がマスターズ優勝の偉業を遂げた同じ日に、当社は総額2億2000万円を投じたROYAL GREEN(茨城県水戸市)のオープニングレセプションを行いました。快晴の中、約100名の関係者が来店され、「これこそゴルフ練習場の新しい形だ」「素晴らしい挑戦」など高く評価して頂き、私自身、この1年間、魂を込めたプロジェクトに間違いはなかったと確信できました。しかし、オープンまでの道のりは決して平坦なものではなく、神経をすり減らす険しい日々の連続でした。
昨年4月、当施設の売上は新型コロナの影響を受けて昨対50%減となりました。これを乗り切って大規模改修に漕ぎつけたのは、過去の様々な苦難を乗り越えたことが自信となり、スタッフ一同の団結力を高めたことにあります。
私がこの施設の再建を引き受けたのは8年前ですが、事業再生スキームを進める中で建物が競売となり、競落者から借りることになったものの、条件が合わず裁判になりました。争点は競売において移行した土地を含む権利形態で、勝算があって臨みましたが結果は敗訴。経営権までもが相手に移るという判決で、一時は会社の存続が危ぶまれましたが、2019年4月に和解が成立、ビジネスが継続できる目処が立ったのです。その過程で私は先方に対して、
「私たちと事業継続契約を結ぶことは必ず御社にとってプラスになる」
という旨を粘り強く説明。その熱意が相手の心を動かしたのだと思います。倒産覚悟からの大逆転。全社員の熱意が私を支えてくれました。
地獄を見た者は強くなる――。この経験を乗り切ったからこそ我々は強くなり、新型コロナによる大打撃も乗り越えられたのだと思います。
この間、私が思い描いたのは次代を担うゴルフ練習場の在り方です。その要点を一言でいえば、「ただ練習するだけの施設」から脱却して、「この空間で大切な人と共に過ごす時間の価値」を創造することに尽きます。一見、観念論的な夢想に聞こえるかもしれませんが、だからこそ挑戦する価値がある。まずはその意志を固めました。
とはいえ大きなハードルがあります。理想の空間を実現するには建物を改修する必要があるものの、これは自社所有ではなく賃貸だったため、買い取りを成立させる必要があります。所有者は先の裁判で争った企業です。買い取りは一筋縄ではいかない高いハードルでした。
次のハードルは資金計画です。大規模なリニューアル工事は自己資金では賄いきれず、資金調達が必要でした。我々は金融機関に何度も足を運び、後述する事業計画を丁寧に説明。その結果、金融機関から融資を取り付けることに成功したのです。
このような資金計画を前提として、建物の所有企業と折衝します。裁判で争った間柄ですが、2020年8月に合意。その席上、先方が言った言葉は、
「礒﨑さん、あなたの熱意には負けましたよ」――。
「ゴルフ練習場をやめます」

次代を担うゴルフ練習場、そのモデルケースとして我々が選んだのがアメリカのトップゴルフです。音楽、飲食、ゲーム感覚‥‥、いわゆるエンタメ要素満載のドライビングレンジで、若者やファミリーから人気を博しています。日本のゴルフ練習場が「練習の場」を提供しているのに対し、トップゴルフはそこで過ごす「時間に価値を感じてもらう」仕掛けをたくさん仕込んでいます。
その世界観を日本へ移植するためには、既成概念を壊す必要があります。業界からバッシングを受けることを承知で、打席で友達と会話をしながら、料理を食べながら時間を過ごすサービスの提供や、ゴルフ以外でも楽しめる仕掛け作り(3箇所のプロジェクターを使ったパブリックビューイングスペースやビリヤード、ダーツのレクリエーションルーム)を施しました。
とはいえ、練習場の本分はゴルフの上達です。静かに、一人で集中したいというニーズがあることも確か。楽しいエンタメ空間と一人で黙々と練習できる環境を両立することが必要ですが、この課題を私たちは自由な発想と知恵で乗り切ろうと考えました。そのひとつがターゲットとゾーニングです。1階打席=ゴルフの技術向上、2階打席=エンタメ空間と分類し、両階とも「トップトレーサー・レンジ」(TTR)を全84打席に導入しただけではなく、アスリートゴルファーに対してはTTRの練習に適したモードをベースに提案、初心者にはTTRのエンタメ要素が強いモードの提案など、双方のニーズに合わせます。
ちなみに2階は女性専用6打席、グループ用4打席など4区画に分類しました。打席で飲食を楽しめるなど、個々のサービスも充実を図っていきます。
空間づくりにはもうひとつ「茨城の経済に貢献する」という軸があります。今回のリニューアルには、できるだけ地元企業に参画してもらいました。エントランスに大きく広がる吹き抜けの天井には茨城県産の柳杉を用いたり、カフェでは県産の食材を使用した料理を提供していく予定です。
4月8日――。取引関係者を招いたレセプションの4日前に「社員と社員の家族」を招いてプロジェクトヒストリーを発表しました。これまでの苦労を6分間の映像にまとめたもので、同時にこのプロジェクトのMVPを発表、苦労を共にした社員を表彰する際は、私もさすがに目頭が熱くなりました。
このメンバーがいたから実現できたプロジェクト、だからこそ、家族にもお父さんやお母さん、息子さんが働いている会社がどんな職場なのか見てほしかったのです。そして誇りに感じてほしかった。結果、大成功。社員と家族もウィルトラストファミリーとなりました。
次号からは、リニューアルオープン後のお客様の反応、様々な仕掛けの手応えをリアルにお伝えしていきます。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2021年6月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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