1. 練習場・インドア

事業継続の「壁」相続税問題を考えるゴルフ練習場

練習場・インドア 市場考察 嶋崎 平人

コロナ禍で3密を避けられるゴルフの好調が続いている。特にゴルフ練習場は、関東ゴルフ練習場連盟の調べでは5月の東京地区の入場者が昨対125%だった。その反面、練習場ビジネスの苦境は、長期的な視野で見ると顕著に表れている。

全日本ゴルフ練習場連盟の調査によると、昨年、東京都下にあるアウトドアのゴルフ練習場は159場だったが、2007年は233場、2014年は200場、2019年は161場と、2007年比では3割を超える減少率。74の屋外練習場が閉鎖して、跡地がマンションや商業施設に変わることも珍しくない。

ゴルフ練習場は、身近なゴルフとの接点として、新しいゴルファーを創出するためになくてはならない施設だが、特に都下で、アウトドアのゴルフ練習場が閉鎖する最大の理由は事業承継の難しさが原因とされている。「相続税の壁」を乗り越えるのが、極めて困難なのである。

ゴルフ練習場の事業承継などのコンサルティングをしている、株式会社青山財産ネットワークスの上席シニアコンサルタント野口忠夫氏に、その現状を取材した。

「大手企業が運営しているゴルフ練習場は別として、個人経営や同族経営のゴルフ練習場をやめる理由として、<1>相続、<2>業績不振、<3>事業転換などがあります。その中で、相続問題で事業承継が出来なくなることが一番多く、相続問題で最大の課題が相続税といえるでしょう」

野口氏はそう語り、具体的な例をあげてくれた。例えば、都下でアウトドアの練習場で横50m×奥行80mの土地を利用している練習場の相続税を推定するには、その土地の路線価格が算定基準になる。路線価格は国税庁のホームページに掲載されており、地域により細かく想定。特に東京23区は、基本的には市街化区域のため土地の評価額は高い。

例えば世田谷のある地域をみてみると、路線価は400千円/m2である。その評価額は50m×80m×400千円/m2=16億円になる。実際は路線価が入り組んだり、借地権他、それぞれの条件により数値は変わるのだが、いずれにせよ、この地域にゴルフ練習場がある場合、練習場は「更地あつかい」になるため、相続には最高税率の55%が課税される。

相続税は16億円×55%=8億8000万円――。これだけの税が課せられることになるわけだ。

ヒトの寿命は、いつ、どうなるかわからない。土地の持ち主が他界すると、相続税は突然のようにやってくる。それを見越して、多額の税金を支払うことを長期的に準備する必要がある。この点が事業承継への第一関門となる。

兄弟姉妹の複雑な意向

青山財産ネットワークス 上席シニアコンサルタント野口忠夫氏
更に相続で問題となるのは、例えば兄弟姉妹など相続人が複数いた場合に、ゴルフ練習場をどのように引き継いでいけるかだ。相続人が複数いた場合、その総意として、ゴルフ練習場を残すための合意形成が必要だが、これがなかなか難しい。

「昔は長男が家の事業を引き継いでいくとの考え方でしたが、相続について兄弟姉妹は平等に権利があります。長男がゴルフ練習場を引き継ごうとしたとき、広い土地を相続する代わりに、土地が分割できない分、長男が差額に相当する金額を他の兄弟姉妹に支払う必要があり、この金額の準備も必要になります」

専門用語で「代償分割」という。これとは別の相続の仕方で、ゴルフ練習場の土地を全員または一部の相続人が共有する方法もある。この高額な相続税や代償分割のかかる費用を準備できないと、ゴルフ練習場の不動産を分割したり、売却して相続することになり、広い土地を必要とするゴルフ練習場そのものの継承が難しくなる。家族とはいえ、それぞれ個別の事情があり、資産価値が大きいほど様々な思惑も入る。

野口氏によれば、ゴルフ練習場の事業承継には「基本三原則」があるという。<1>分割を避けるための対策(遺言)<2>収益力アップ(法人の活用他)<3>不動産の評価減(土地の有効活用)を組み合わせて、資産を守ることが重要だとか。

「遺言」は、練習場を残すために、次の世代にどのように承継してほしいかを予め意思表示するものだが、事業承継の本質として欠かせないのが「収益力」だ。想定される相続税の1/10のキャッシュフローを毎年積み上げ、利益を長期的に確保できる企業体質をつくること。

ビジネスとして如何に確立するかが不可欠な要件になってくる。法人化することで税を軽減できるため、企業としての成長を視野に入れる必要がある。日々の収支だけでなく、将来発生する相続税を想定しつつ、長期的な経営戦略が求められる。

その際、多くの練習場は「打席売上」だけではなく、スクールやショップを連動させて客単価の向上を図っているが、都下の練習場の減少をみると、これだけでは相続に耐えられる資金を残すことが難しく思える。そこでゴルフ練習場の不動産を「評価減」する方策として、練習場の土地の有効活用がある。例えば建屋を立て、その上に練習場を作るなどして、相続税の減額と合わせて収益力を上げるのが一例だ。

ひとつのモデルに、東京武蔵野市のグリーンパークゴルフセンターがある。1階はスーパーマーケット、2、3階は駐車場、4階がゴルフ練習場という構成で、具体的な内容は次回で説明する。

一連の「相続問題」について、全日本ゴルフ練習場連盟の横山雅也会長は次のように話す。

「当連盟としても、相続対策についてのセミナーや情報交換を積極的に行い、今後の経営ビジョンが見えるようにすることが大事だと考えています。また、練習場は民間施設だけど公益性があり、スポーツ施設としてスポーツ振興、ゴルフ振興だけでなく、地域の健康維持やコミュニケーションの場であり、災害時の避難所としての役割も果たしています。現在、相続税、固定資産税、所得税での優遇措置はないので、この点も国に働きかけたい」

練習場は、ゴルフ産業全体にとって重要度を高めている。新しいゴルファーを創造する前線基地であり、上達がゴルフの継続率を高めることから、スクール需要も上向きだ。

練習場のオーナーがゴルフへの思いをもって事業を継続することは、ゴルフの活性化に欠かせない。我々ゴルファーもより楽しむために、街の練習場へ行こうではないか。


この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2021年8月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。

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嶋崎 平人

嶋崎 平人

1951年生まれ。東京都立大学工学部機械学科卒業。ブリヂストン(タイヤ)入社後は主に製造技術畑を歩き、その後ブリヂストンスポーツでクラブ・ボールの企画開発等を担当。クラブ開発に携わり、特許を二十数件出願している。日本ゴルフジャーナリスト協会副会長。

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