1. 練習場・インドア

相続税問題を乗り越えた実例~シリーズゴルフ練習場ビジネス~

練習場・インドア 嶋崎 平人

2020年における都内の「屋外練習場」は、2007年比で3割も減少している。ゴルフ界にとってゴルフ練習場の減少は深刻だ。未経験者がゴルフを最初に経験するタッチポイントが街中のゴルフスクールや練習場。住宅と近接するゴルファー創造の拠点であり、これを如何に残すかが業界の課題となる。

ただ、ゴルフ界が直接この課題を解決することは難しい。インドアを含めた国内の練習施設は約3500と見られ、その8割弱が屋外の練習場。これを100とした場合、3割が大企業の運営、7割が中小の個人や同族経営となる。いわゆる「家族経営」が多いため、親から子に事業承継する際には、個々の家の問題が現れてくる。

最大の課題は相続税だ。経営者が次世代に練習場を継がせたい意思があり、それを引き継ぐ子世代に継承の意思があったとしても、相続税問題は親族の複雑な思いが絡むため一筋縄ではいかないのだ。本稿ではこの点について詳述したい。

前回、事業承継のコンサルタント・株式会社青山財産ネットワークスの野口忠夫上席シニアコンサルタントに話を聞いた。同氏によれば練習場を事業継承する「基本三原則」は(1)土地の分割を避けるための対策、(2)事業の収益力アップ、(3)不動産の評価減、以上の3点を組み合わせて、資産をまもり事業を継続することが重要だという。

今回は、それを実践している例として、東京武蔵野市にあるゴルフ練習場グリーンパークゴルフセンター、同練習場を経営する有限会社グリーンパーク取締役の岡田光史氏に取材した。

同センターは「住みたい街」で上位にランクされる吉祥寺と三鷹に近い五日市街道から、少し入った閑静な住宅街にある。車のナビに住所を入力して現地に向かうと、スーパーマーケットのサミットストア武蔵野緑町店に行き当たった。練習場の存在は、車窓からではわからない。

駐車場案内に従うと、サミットの2~3階が駐車場で、200台が収容できるスペースを確保。エレベーターで4階に上がるとグリーンパークゴルフセンターがあった。練習場は2階建ての構造で、1階12打席、2階12打席の計24打席、60ヤードの屋外型ゴルフ練習場だ。

この1階スーパーと2、3階駐車場、さらに4階の練習場からなる建屋を外から見ると、スーパーの入り口付近では練習場の存在に気づかない。少し離れてみると大きな四角い形状建物の上に、巨大な虫かごのような防球ネットが乗っていて、それとわかる。

「評価減」の方法とは?


グリーンパークゴルフセンターは1972年11月、岡田氏の父親が開業した。会社員だった父親がゴルフにハマり、2000坪の空き地の有効活用と相続税対策として創業したもの。

当時はボウリングブームで、ボウリング場かゴルフ練習場かで悩んだが、練習場を選んだという。更地に40mのポールを建て、2階建て70mの典型的な都心型練習場だった。岡田家はこの武蔵野の地で、現在の岡田氏で8代目、養蚕や醤油製造などを営んでいたようである。

「私は1967年生まれで、5歳の時に父が練習場を始めました。中学から本格的に練習を始め、大学では日本学生で4位になっています。この大会で3位以内になると、プロテストを最終から受けられたので、プロを目指したわけですが、ひとつ届かず4位でした。それも運命だろうとプロを諦め、家業を継ぐことを決めたのです」

同氏は現在、関東ゴルフ連盟でハンディキャップ委員会の査定部会長などを務めており、ゴルフへの情熱や業界振興への想いが強い。その想いが事業承継の原動力だった。

ただ、ゴルフ練習場をそのまま引き継ぐと「更地扱い」のため、相続税が最高税率の55%となって継承は困難。このハードルを乗り越えるには練習場事業の収益力を高めると同時に、不動産価値の「評価減」で相続税の軽減を実現する必要があった。

そのためには賃貸物件を建て、その中に練習場をつくり、その敷地を「貸家建付地」にすることで、土地評価額を下げたわけだ。

建て替えの実施は2009年3月だが、建て替え方法の検討は3〜4年前から熟考を重ねていた。その過程で、現在の構造と同じ、サミットの上に練習場を設置する事例を確認し、そこの経営者に話を聞いた。

「その人はゴルフの先輩で、話を聞くと『練習場をやめる』ということでした。それでこの方法は難しいのかと思いましたが、その練習場は20ヤードだったのです。ほかにも地域性など検討材料は沢山あり、自社の立地と照らし合わせて研究した結果、60ヤードなら練習場として価値があると判断しました」

一方、サミットから2階に家電量販店を入れれば集客・収益性が高まるとの提案もあったが、そもそも練習場を発展的に継承することが目的であるため、初志貫徹。

事業の継承、収益性の向上、不動産の評価減――。これらを実現するには建て替え事業に10数億円を投じる必要があり、償却には20年の長期スパンで臨んでいる。熱意と覚悟がなければできないことだ。

「1階はシニア層が練習して、2階は主婦層やジュニア中心のスクールです。都下のゴルフ練習場としては典型的なスタイルだと思いますが、自分は『ベストな選択』だと思っています。息子が2人いるのですが、父親が私にしてくれたのと同様に、自分としては出来るだけのことをしたので、次の世代にも継続してもらいたいですね。ここは練習場ですが、スポーツ施設だと考えています。地域の人に愛されるスポーツ施設として末永く残したい」

事業承継には、いろいろな選択肢がある。土地の有効利用や相続の観点から「練習場をやめる」のもひとつの選択だろう。全日本ゴルフ練習場連盟の横山雅也会長は、

「練習場の継承は簡単ではありません。土地の有効活用のために投資が必要で、プレッシャーもあるし覚悟も求められます」

覚悟は、ゴルフへの情熱だ。


この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2021年9月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。

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嶋崎 平人

嶋崎 平人

1951年生まれ。東京都立大学工学部機械学科卒業。ブリヂストン(タイヤ)入社後は主に製造技術畑を歩き、その後ブリヂストンスポーツでクラブ・ボールの企画開発等を担当。クラブ開発に携わり、特許を二十数件出願している。日本ゴルフジャーナリスト協会副会長。

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