1. 練習場・インドア

地元愛と多角化で成長 埼玉・カゴハラゴルフ練習場

練習場・インドア 嶋崎 平人

個人や同族経営でゴルフ練習場を継続する難しさは、相続税対策を含めてそれぞれ事情が異なる。その際、複数の手法を組み合わせて継続を図る例は多いのだが、今回取り上げるカゴハラゴルフ(埼玉県熊谷市)は積極的な多角化経営で事業を安定成長させている。代表取締役の奥冨明彦氏を訪ねてみた。

同社は社員が67名、パート・アルバイト420名、契約プロ・インストラクター100名を抱える大きな組織である。7つのゴルフ練習場のほか、ゴルフ用品販売部門としてゴルフパートナーのFCに加盟しており、スポーツ施設やコメダ珈琲店FC、不動産など多様な事業を展開。売上は20億円を超える。

カゴハラゴルフは敗戦の年、1945年に奥冨氏の父・昭氏が、岐阜から「熊谷籠原開拓団」の一員として、この地に入植したことから始まる。当時昭氏は16歳。叔父から誘われ親族30名と共に入植した。

入植者一人に対して、国より熊谷飛行場跡地の土地4000坪が与えられ、それを開拓し野菜や牧畜を生業としていたが、勉強家の昭氏は経済に興味があったという。1953年に長男・明彦氏が生まれたが、小児喘息で体が弱く、農業を継がせるのは無理と考えていた。

「その後、ジャンボ尾崎の登場でゴルフブームが始まります。それで父は『これからはゴルフだ』と考え、1972年に2階建て(計36打席、100ヤード)の練習場を開業しました。当時は籠原に2場、熊谷に1場、深谷に1場の練習場があり、駅ごとに一つか二つはありました」

父・昭氏はゴルフの素人だったが、地域のゴルファーに支えられ、地域密着の練習場として開業。当時のエピソードとして「今日、女の人が練習に来た」と話題になるほど、練習場は男性中心社会だった。

70年代に2度のオイルショックがあったが、乗り越えた。父・昭氏の口癖は「地域の皆さんに喜んでもらえることを生業にできて楽しい」だった。開拓団で入植したことが「地元愛」を育んだ。自分たちで拓いた土地で、100ヤードの小さな練習場は、地域住民が集まり交歓する笑顔の絶えない場所であった。

転機は80年代のバブル期だった。練習場にも大型化の波が押し寄せ、カゴハラゴルフも事業継続のために大型化の必要を感じ、目を皿のようにして用地を探した。当時、大型化には用地買収も含めて7億〜8億円の投資が必要であった。若い明彦氏も積極的に探したが、父・昭氏がこれに異を唱える。

「こんなバブルの時代はおかしい。それよりも、潰れた物件を買う準備をしておけ。必ず売りにでるから」

と、過剰投資による破綻を予見。昭氏は1998年に他界するが、その言葉通り、近隣の御稜威ケ原ゴルフ練習場が破綻し、競売にかけられた。78打席250ヤード、1987年に開業した大型練習場。これを見事に競落している。新規投資に比べれば格段に安く、総投資額の1割ほどで買収した。

経営の軸は「地域愛」

その後、従来経営していたカゴハラゴルフの土地を大型スーパーが借りたいとの申し入れを受け、1999年に新生カゴハラゴルフが誕生。

「お客様にご愛顧いただける経営ノウハウは、30年にわたる蓄積で自信がありました。新生カゴハラゴルフは軌道に乗り、事業再生のノウハウもできた。それで、金融機関などから『ゴルフ練習場再生』の話が持ち込まれるようになったのです」

2002年には熊谷市の江南ゴルフクラブ、2005年に吉見町のグリーンヒルゴルフクラブ、2008年に東松山市のクリスタルゴルフガーデン東松山など、現在7つの練習場を経営するまでになった。

「たしかに練習場は減少傾向ですが、生き残ったところにはチャンスがあるはず。話があれば、純粋な投資として考えますよ。この仕事は効率がよくありません。だけど、ゴルフの世界でお世話になり、地域の人に喜んでもらえるインフラですから、継続することが大事です。
ただ、やるとなれば徹底してやります。大手企業の練習場は投資回収を7~8年で考えますが、我々は15年、20年かかっても目算があればやる。ゴルフの楽しさや本質を知ってもらいたいですね」

冒頭で触れたように、同社は多角化を進めているが、それは2000年に策定した経営方針「人々の生活が健康で、楽しく、心豊かになるお手伝いをする」を実現するためだという。2002年の「日韓ワールドカップ」の後、近隣の倉庫を活用したスポーツ施設としてフットサル、クライミングなど手掛け、子供たちの運動スクール事業を行う「スポーツビレッジ」を始めた。対象が大人のスポーツクラブも2009年に開始している。

さらに2013年、時間と空間を楽しめる場を提供する「コメダ珈琲店FC」事業に参入した。コメダ珈琲店も投資には1億円ほど必要だから覚悟はいるが、「やるなら徹底」の基本姿勢で、現在8店舗を展開するようになった。

先代が残した事業資産を活かしながら、(1)ゴルフ練習場関連事業、(2)スポーツ施設事業、(3)コメダ珈琲店フランチャイズ事業、(4)不動産事業を4本柱として、バランスを取りながらの多角化経営。今は、次の時代に耐えられる事業と組織を準備することが最大の課題となっている。

社会的責任や従業員満足度をより意識しつつ、事業継承を視野に入れる。ジュニア教室で育った子供たちが、アルバイトやスタッフとして戻って来ることが何より嬉しいという。地域に根差した事業であることが、ゴルフ練習場事業の本質といえるかもしれない。


この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2021年10月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。

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ライター紹介 ライター一覧

嶋崎 平人

嶋崎 平人

1951年生まれ。東京都立大学工学部機械学科卒業。ブリヂストン(タイヤ)入社後は主に製造技術畑を歩き、その後ブリヂストンスポーツでクラブ・ボールの企画開発等を担当。クラブ開発に携わり、特許を二十数件出願している。日本ゴルフジャーナリスト協会副会長。

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