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  • 『TTR』はゴルフ練習場ビジネスの救世主になる?

    嶋崎 平人
    1951年生まれ。東京都立大学工学部機械学科卒業。ブリヂストン(タイヤ)入社後は主に製造技術畑を歩き、その後ブリヂストンスポーツでクラブ・ボールの企画開発等を担当。クラブ開発に携わり、特許を二十数件出願している...
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    日本の屋外ゴルフ練習場の大半では、ドライバーショットの飛球がネットに当たり、球の落ち際まで見ることができない。ところが、狭い練習場でも落ち際まで確認できるシステムがある。トップトレーサー・レンジ(TTR)がそれだ。 現在、日本では59施設5038打席に設置されており、これを販売しているのが、ゴルフ場予約サイト大手のゴルフダイジェスト・オンライン(GDO)。練習場ビジネスユニットの佐藤昌巳ユニット長が責任者を務めている。 このシステムはそもそも、ゴルフ中継の弾道表示に使われた。テレビ画面で選手が放った弾道が、赤や青のラインを描き、プロによって異なる攻略ルートもわかる。以前は空ばかり映していたゴルフ中継に革命をもたらした。 このテレビ中継技術は北欧のスウェーデンで開発されたもので、『プロトレーサー』という名称だった。これを米国のトップゴルフが買収して『トップトレーサー』に名前を変えた。2006年に開発され、2007年からは米PGAツアーの中継に導入。日本では2008年からいくつかのゴルフトーナメント中継に使用されはじめた。 カメラでボールの軌跡を捉え、弾道を映像化し、コースの画像と合成する技術である。現在では世界のゴルフトーナメント中継の60%以上、日本のゴルフ中継でも多く使われており、『トップトレーサー』の認知度は高まっている。これを練習場に取り入れたのが『TTR』である。10年前の2012年から世界規模で普及しはじめた。 自分の打った球の弾道が打席横のモニターに表示される他、ゴルフクラブの番手ごとの平均飛距離が表示され、ニアピン、ドラコン、ポイントゲームなども楽しめる。また、実際のゴルフコースをプレーするバーチャルゴルフのモードもある。世界では欧米を中心に約500施設1万5000打席に導入されている。

    経営分析にも役立つ

    第百ゴルフクラブ
    日本におけるTTRの普及速度は速い。GDOの株主向け資料によると、四半期ごとの導入実績は、2019年第1四半期でわずか2施設だったが、2020年第1四半期では13施設、2021年第1四半期が34施設で、直近では59施設まで伸びている。 練習場経営者にとって、気になるのは導入費用である。『TTR』の装備はトレーシング用カメラ、各打席のタッチ式スクリーン、専用サーバー、ソフトで、専用アプリはGDOから提供される。これらの導入に関して練習場側の負担はゼロである。ただし、設備に必要な電源工事等は練習場側が準備する。 練習場が負担するのは『TTR』のランニングコストだ。基本的には月額固定料金と、利用に応じた従量料金の総額がランニングコストだ。 固定料金:1打席当り月額5000円~1万円従量料金:1セッション(顧客の1回の利用)に対し、~150円 これ以外では電気代やインターネット代金は練習場側の負担になる。金額は契約打席数などにより異なってくるが、導入するか否かの要点は、前述のコスト増を前提にして、それ以上のメリットがあるかどうかだ。佐藤ユニット長は、 「TTRを導入すると、その付加価値によって施設は値上げが可能になります。入場者増も期待できるので、導入施設で売上が落ちたところはありません」 と強調する。さらに、 「練習場のメリットは、飛球がネットに当たって最後まで弾道を追えないことの改善はもちろん、安全対策にも貢献できるんです。どの打席からの飛球が場外へ出てしまうのか瞬時に計測できるので、打席利用者のオーバーネットに対して注意を促すことができる。飛ばし屋を飛び出しにくい打席へ誘導するなど、運営の改善にも役立ちます。また、顧客データの解析(滞在時間、打球数等)で経営改善にも寄与できます」 少々手前味噌の感はあるが、GDOが行なった導入施設へのアンケートでは46%が「満足」、54%が「ほぼ満足」で、不満に思っているところはないという。

    近隣の練習場で世界大会

    GDO 佐藤ユニット長
    ゴルファーにとっても、練習場での楽しみが増える。佐藤ユニット長によれば、 「当社のアンケートではTTRの使用者の98%が『また使いたい』との回答で、未使用者の80%が『使ってみたい』と答えています」 面白いのは、『TTR』を使用した世界大会も行っており、1万人以上の参加者で日本の中学生が3位になったこともあるのだとか。自宅傍の練習場から世界につながることは、ネット社会の優位性といえそうで、世界での普及率が高まるほど企画内容も豊富になりそうだ。 GDOにとって『TTR』を広げるメリットはなんであろうか。佐藤ユニット長は、「TTRがあればいろいろな楽しみを提供できるので、ゴルファーの創造と維持が使命だと思っています。同時に、屋外練習場が減少傾向にある中で、TTRは収益改善に寄与できると考えており、ゴルフ環境の維持にも貢献できるでしょう」 と、市場活性化のキラーコンテンツに位置づける。ただし『TTR』に関わるGDOの収益性は、 「設備の更新やソフトのバージョンアップは当社が負担するため、儲かるやり方にはなっていません」(佐藤ユニット長) この点について国内事業の責任者である吉川雄大副社長も、 「この事業単体で収益を出すことにこだわらず、ゴルフ練習場を維持して、ゴルファーを創造することが大事だと考えています」 長期的な視点でこの事業を捉え、TTR事業そのものはトントンになればよいという、自他共栄の考え方をもっているようだ。 同社は今後、市場の25%を占めないと「市場創造」につながらないと考えており、5年後を目途に25%のシェア達成を目指すという。実現すれば、2027年には導入施設が500を超える。 筆者も何度か『TTR』を利用したが、番手ごとの飛距離がわかり練習には有効だと思う。ゴルフの上達に有効なプログラムやモニターを使ってのドリル・レッスンが登場すれば、初心者のゴルフ離脱率が下がるかもしれない。『TTR』でゴルフ練習場が活性化すれば、ゴルファーの創造にも寄与しそう。
    この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年3月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら
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