館山自動車道・市原ICより車で15分とアクセス良好。千葉県市原市磯ヶ谷にあるゴルフ練習場「AML磯ヶ谷ゴルフクラブ」は、40打席240ヤードに加えて、10ホールのショートコースも併設している。
実は、市原市にはゴルフ場が32クラブ33コースあり、日本一の数。ゴルフ場の総面積は市原市の約11%を占め、年間160万人がプレーに訪れる。まさに、ゴルフ銀座のど真ん中にこの練習場は位置している。今回は、同施設を経営する有限会社ゴルフ場サポートの鴇田和枝取締役に取材した。
AML磯ヶ谷ゴルフクラブのウリは、圧倒的な価格の安さである。9時~18時までの打ち放題が1000円で、会員になると500円。「早朝」は平日が日の出~9時、土日祝は日の出~8時まで150球で500円。「ナイター」は18時~20時まで500円。
月額4000円を払って会員になると、日の出~20時まで500円で打ち放題と、他に類例のない激安ぶりなのだ。
また、併設された10Hのショートコースは1000円で回り放題で、会員は500円。さらに月曜日と火曜日は「セルフデー」で、練習場は誰でも日の出~20時まで500円で打ち放題(ショートコースは月・火休業)。
通常、ゴルフ練習場の商圏は半径5㎞といわれるが、同施設は東京、横浜、千葉のゴルファーが、近隣コースのプレー前・後に練習する場として重宝している。ゆえに鴇田氏によれば、
「商圏は50㎞以上。土・日は満席で『待ち』が出るほど盛況です」
それにしても……。なぜ、このような価格でオペレーションできるのか?
まずは経緯を振り返る。
「ここは自社の施設ではなく、借りているのです。隣接するケンテック株式会社が現在の施設を30年前に建設、運営してましたが、本業に専念するということで、2003年から当社が運営を引き継ぎました」
ケンテックの本業は、ビルなどの鋼製の床材を製造・販売する建築金物製造販売業で、1933年に創業された。市原市には1970年に市原加工センターを稼働させ、オーナーがゴルフ好きで理解があり、工場に隣接する土地にゴルフ練習場を立ち上げたのが始まりだ。
一方の鴇田氏は、ゴルフ場の空き時間を利用して早朝営業したり、ゴルフ場にキャディーを派遣する会社に勤めていたが、その経験を生かしてキャディー派遣を主業務とする「ゴルフ場サポート」を起業。今も県内のゴルフ場(オークビレッヂ、鶴舞CC、姉ヶ崎CC等)にキャディーを派遣しているという。
「昔は25コースに向けて、40~50名の派遣キャディーを抱えていたのです。当時のキャディーはプロを目指す研修生も多く、勤務を終えてから自由に練習できる場を探していたんですね。そんな時にケンテックが練習場をやめるという話を聞いて、夜まで研修生が練習できる場の確保として、引き継いだのです」
考えようによっては「社員」の厚生施設みたいなものか・・・・。
ローコストへの挑戦
「当時はお客様が少なく、駐車場に数台しか停まらない日が多かったのですが、借りているので設備を新しくすることもできません。そこで、まずは練習場の清掃を徹底しました。『お客様が気持ちよく練習できて小綺麗なこと』が練習場にとって大事だと考えています」
当時の主業務はキャディー派遣で、練習場経営は合間のビジネスと考えていたが、それでも赤字続きでは話にならない。まず採算がトントンになることを目指した。
主要道路から少し入った位置にあるため、場所を知ってもらうこと。そこで近隣のゴルフ場に地図を付けたチラシを配布。打ち放題で一日1000円、研修生は500円、ゴルフ場従業員も500円と、ゴルフ場関係者に割安感をアピールした。練習場は装置産業の面があるため、
「誰も来ないよりも、少しでも来てもらえるように努めました。最初は他のビジネスであげた収益で練習場の赤字を補填してましたが、そのうち口コミで安価なことが広まり、来場者が増えてきたのです」
今では「あそこは安いよ」と評判が立ち、ホームページだけの訴求に変えている。採算も取れている。
「『小綺麗に』を徹底して、マットは擦り減ったら交換して、ボールも傷ついたり摩耗したものは随時交換します。『安かろう悪かろう』という評価にならないよう、細心の注意を払っています」
来場者のパターンも明確になってきており、多くのボリュームを占めるのが「市原市のゴルフ場へ来場するゴルファー」だという。プレーの本番前にここで「朝練」をする。早朝は150球で500円だから、ゴルフ場の練習場より遥かに安く、240ヤードあるので球の落ち際まで確認できる。これとは逆に、ゴルフ場でプレーを終えた後に練習して帰るパターンもある。安価で予習・復習ができるのがウケている。
ショートコースも、プレー後の反省でアプローチを練習するための来場が多いという。
「そういったお客様を中心に、比較的遠くから来場される方が全体の6割を占めています。また、低価格ということで、地元の年金生活ゴルファーも多く、お弁当持参で朝からショートコースを楽しんでいます」
練習場の名前の「AML」は、アミューズメント・ランドの頭文字だという。「大人の遊び場」という意味で、ケンテックが立ち上げたときから使用しており、これをそのまま引き継いでいる。
「コロナ禍で若い世代や女性も増えてきて、少しずつお客様の年齢も若返っています。今後大事になってくるのは『ローコスト』ではないでしょうか。ティーアップ機は導入しましたが、故障による費用もかさむため手動にして、費用を抑えてます。従業員は20名で運営しますが、パート・アルバイトが中心です」
大衆価格を堅持して、若年層の財布に優しい運営を目指している。
現在、年間3万人以上の来場で採算ベースはクリア。
「このビジネスモデルで事業の拡大も考えましたが、自分の体力、年齢を考えると難しいかな(笑)」
という鴇田氏の言葉の端々から、ゴルフへの愛情を感じられた。取材の最後に写真撮影を依頼すると、
「自分は表に出ないで、社名と同じくゴルファー、研修生、キャディーをサポートする役割に徹します」
と、残念ながら固辞された。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年5月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら