東急大井町線「荏原町駅」と地下鉄浅草線「馬込駅」から徒歩7分。環状7号線内側の城南地区である都内大田区北馬込1丁目の住宅街に「馬込ゴルフガーデン」はある。
その同社のHPに先頃、次の一文が掲示された。
「この度諸般の事情により、令和5年1月9日(月)をもって営業を終了し、閉場することになりました。併せてゴルフスクールも令和4年12月末にて閉校いたします。長きにわたりご愛顧いただきましたこと、厚く御礼申し上げます。」
現在、東京にある屋外ゴルフ練習場は157(全日本ゴルフ練習場連盟=JGRA=調べ)。またひとつ、都内の屋外練習場が姿を消すことになった。
施設の入り口は木製の外壁で、植栽が美しくほどこされ緑があふれる。入り口横には、自転車が30台以上停められる屋根付きの駐輪スペースが整備されている。
町家風の受付周りは雰囲気があり、その奥のラウンジは古い木材を活用した和を感じさせる内装で、照明も昔の器具を使ったエコロジーなこだわりがある。閉場するのは「もったいない」が、記者の第一印象だった。
2階建て28打席、40ヤードの距離はコンパクト。記者は浅草線沿いに住んでいるが、この練習場の存在を知らなかった。
大竹章裕社長は、
「この練習場の商圏は半径1・5kmで、その範囲の住民にしか積極的にPRしていません。知らない人も多いかもしれませんね」
と前置きして、施設のコンセプトを次のように説明する。
「創業当時から『地域のお庭づくり』を企業理念に掲げ、大人からお子さんまで、広く地域の方々の憩いの場としてご利用いただけるように様々な工夫をしてきました」
前述した入口の雰囲気を含め、地域密着の想いが伺えるのだ。地元に愛された練習場が、なぜ閉場してしまうのか?
そこには相続税の問題が根深く絡んでいる。
「2020年10月に父が他界し、相続に絡んで土地を手放すことになったのです。心血を注いだ施設も手放すことになりました」
大竹社長は詳細について多くを語らないが、閉鎖を決める前にはいくつもの延命策を検討したようだ。
ところが、この地域の路線価格は1m2当たり36万~40万円で、約1000坪の同施設の相続税は数億円になると推定される。城南地域で、環状7号線の内側という好立地。その土地を活かして練習場事業を継承する難しさを表す事例といえる。
1973年に祖父の代でゴルフ練習場を始めてから半世紀、その歴史に幕を閉じる。都市部では今後、同様のケースが相次ぐとの懸念もあり、打開策が急がれる。
JGRAの横山雅也会長は以前、こんな危惧を漏らしていた。
「当社も都内の世田谷区に屋外練習場を構えますが、相続税問題で閉鎖を余儀なくされる練習場は今後も増えるはず。住宅地に近接する練習場は、新しいゴルファーの創造拠点になっています。近年、コロナ禍で練習場への来場者が増えたことにも明らかですが、相続には多くの難題があるのです」
本号で、同じく相続税問題に苦しんだ「カシワゴルフ」(都下立川市)の事例を取り上げたが、事業を継続するためにはいくつもの障害が存在する。業界全体で知恵を絞り、打開策を講じる必要がある。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年8月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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