練習場経営塾 第1回 見逃されているレッスンプロの戦力化

練習場経営塾 第1回 見逃されているレッスンプロの戦力化
今月より本コーナーを担当する練習場経営コンサルタントの内田徹と申します。この連載では高いモチベーションを持ったスタッフを育成するための労務管理や、練習場の収益力を高めるマーケティング戦略・戦術を具体的な事例・データに基づいて展開してまいります。 住宅街に近接する練習場は、ゴルファー創造の前線基地。練習場の活性化は、ゴルフ界全体にとっても重要なポイントです。本連載は机上論ではなく、練習場経営に携わった経験を基に「実践論」をご紹介しますので、よろしくお願い致します。 さて、コロナ禍による屋外健康志向の高まりで、若年層の流入を含め、練習場の入場者はバブル期以来の空前の伸びを示しています。この勢いがいつまで続くか予測することは難しいのですが、国内総人口の減少や高齢化によるゴルフ人口の減少、参加・活動率の低下などを考えると、ゴルフ人口は間違いなく減少していきます。 私のコンサル先地域(大阪、兵庫、愛知、千葉県)の練習場では、2015年に比べた2030年の入場者予測は平均78%が見込まれます。練習場経営者はそのことを受け止め、早い時点で対策を打ち、勝ち組になる。そのためには無駄な競争を避け、他社が乗り出してこないブルーオーシャン領域に逸早く漕ぎ出さなければなりません。 そのキーワードが「打席外収入の増加」であり、具体的にはスクールの「直営化」とスクール生への「クラブ販売」を中心としたショップ経営を手掛けること。私が経営した、あるいは指導した施設は入場者数の伸び以上に売上が伸びた実績があり、売上が2~3倍になっているにもかかわらず、近隣施設との価格競争は起きていません。それどころか、入場料やボール料などの利用料金を数度に分けて合計300円程度値上げしています。 つまり、私が目指す練習場の経営戦略は、入場者増加による収益向上ではなく、スクールやショップ売上も含めた「客単価向上」による収益向上対策なのです。この方式はゴルフ人口減少時代において、近隣施設と価格競争をせず、収益向上を実現する唯一の方法といっても過言ではありません。 連載初回の本稿では、基本的な考え方について記述しましょう。

スクール直営化の利点

一つ目はスクールに関わる「委託方式」と「直営方式」の違いです。委託方式の場合、スクールの主宰者は個人事業主のレッスンプロが多いため、スクールで使用するボール代が別料金になるケースが多く、近隣の練習場と価格競争になった場合はスクールで使うボール代も下がってしまい、結果的にスクール収入が落ち込みます。委託方式の場合、施設側の収入は生徒のボール代のみが一般的であり、施設側が受付を行っている場合に限り、業務委託料としてレッスンフィーの一部をレッスンプロから受け取っているにすぎず、年間数百万円の売上にとどまります。 一方、練習場直営のスクールはそもそもボール代込みの料金なので、価格競争でボール代が下がっても影響を受けません。なおかつ、ボール代やレッスンフィーを含めたすべてが施設側の収入となるので年間数千万円の収入となります。 二つ目は生徒数の確保です。委託の場合は個々のレッスンプロが自分で生徒を集めます。募集方法は場内POPやSNSが多いのですが、施設から場所を借りるため自由度が低く、レッスン時間も限られており、生徒数は限定的です。 ところが、直営の場合は練習場のフロントが積極的に声掛けを行って生徒を集めます。入会した生徒はどのレッスンプロからでもどの時間でも自由にレッスンを受けられるので非常に利便性が高く、入会促進や休会防止の対策も包括的に行えるため生徒数は大幅に伸びます。私の経営していた練習場とコンサル先の練習場で年間入場者数が7万人超の施設の場合、開校5年後には7施設すべてで生徒数が300名超、年商5000万円超となりました。生徒数が500名を超えた例もあります。 また、生徒へのクラブ販売も委託ではレッスンプロの副収入になるだけですが、直営は練習場ショップの売上となるため年商1500万円を超える店が多く、利益も確保しています。 こうして見ると直営スクールのメリットは多いのですが、直営化を実施する練習場は少ないのが現状です。なぜか? それはレッスンプロの「正社員化」が障壁となるからです。 レッスン以外の仕事に見向きもしないレッスンプロを見ている経営者にとって、彼らを正社員で雇用することへの抵抗感は強いでしょう。また、受付と電話応対が主たる業務となっているフロントスタッフの正社員化もコスト高となり、抵抗感を感じると思いますが、ここで大事なのが働き方改革です。 レッスンプロがフロント業務の応援からティーアップ機やネットの修理、そして経営者をサポートする業務まで行ったらどうでしょうか? 電話応対と受付対応だけのフロントスタッフが、体験レッスンのPOP制作からチラシ配り、声掛けまで行い、接客の合間に打席清掃やティーアップ機の修理まで行うとしたらどうでしょうか? そんなことができるのか、と懐疑的な経営者は多いでしょうが、私のコンサル先の施設には打席係やメンテナンス専門のスタッフは皆無です。セクショナリズムを排除した結果です。ネット点検も修理も芝の管理も、レッスンプロとフロントが協力して行うので「専門スタッフ」は不要なのです。 話はわかった! じゃあどうすればいいんだ! そこが知りたいポイントですよね。 連載初回の本稿では、残念ながら紙幅が足りません。具体策は次回以降に詳述しますが、ここで強調したいのはレッスンプロの総合力を高めることの重要性です。彼らの多くは華やかなツアーの世界に憧れ、挫折した経験があるでしょう。多くは薄給に喘いでもいます。 その彼らに新たな職業意識とプライドを植え付け、正社員雇用で生じる社会保険・賞与等のコストを補って余りある戦力に育てることが急務なのです。このあたりも都度、実例をあげて紹介してまいりますので、次回以降をお楽しみに!
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2021年11月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら