先月号で、練習場の収益を上げるには委託型のスクールではなく、練習場自身が運営する「直営型スクール」が必要と述べましたが、本稿で具体的な手順を紹介します。
まずはレッスンプロが練習場に場所を借りて個人的に指導する「委託型」のデメリットを考えてみましょう。この場合、練習場の取り分はスクールで使用したボール代だけのケースが多いので、周辺施設との価格競争でボール代が下がれば、練習場の取り分も減少します。様々なプロにレッスンを委託すると指導に互換性がなくなり、生徒募集もプロ任せだから客数が伸びないことも問題。そこで「直営化」が必要になります。まずはその手順を列記しましょう。
1)直営スクールの開校を決断。2)レッスンプロを説得し、個人事業主となってもらい、スクール売上を一定割合で配分する方式に改める。3)プロの同意を得たらPGAゴルフスクールの開校を申請し認可を得る。4)生徒にスクールが直営方式に替わり料金体系も変わることを周知。5)開校、という流れです。
プロの了承が得られれば、決断から4か月後には開校可能。
仮にスクールの客単価が月額1万3000円、生徒数約100名として年商1600万円、利益を半々に折半すれば800万円の収益となり、生徒募集と休会防止をしっかり行えばこれらの数字が3倍になることも可能です。
とはいえ、最大の難関は「決断」に際して社内外の了承を取り付けることでしょう。特に従来のやり方に慣れたプロやオーナーを説得する作業は、机上論ではなく、感情が入り混じるだけに一筋縄ではいきません。まず、経営層に対する口説き文句は3点です。
1)価格競争に備えてボール代を含めた料金体系にすること。2)スクール収益を伸ばして打席外収入を増やし価格競争に対する耐久力を強化。3)直営化によって生徒数を大幅に増やし固定客化を図る。
この文脈で関係者の了承を得たら、次はレッスンプロの説得に入ります。大事なのはプロのメリットを明確に示すことで、直営化すれば1)生徒数が増えプロの収入も増える。2)個人事業主なので束縛が少なく従来通りの活動ができる。3)入会、休会、予約、チケット発行、集金などの面倒な業務から解放される――。
彼らにとって、いずれも魅力的な囁きに聞こえるでしょう。
説得を終えたらプロと新たな契約を結び、冒頭の3)で述べた「申請・認可」を得る作業です。
申請先はPGAで、認可料1万円とテキスト料(10冊購入が認可条件)が1万5000円。計2万5000円です。レッスンプロの多くはPGAやLPGAの資格所有者ですが、スイング理論は様々だから生徒の混乱を招きがち。
そこで、レッスン理論はPGAの「教本」の内容に統一し、生徒に教本を配布すれば直営スクールとしてのスイング論が統一されます。また、PGAのブランド力も活用できます。
パートの気持ちに配慮する
次は開校の準備です。最初にやるべきは月会費の「自動引き落とし」で、銀行またはクレジット会社と契約しますが、取引銀行または引き落とし手数料の安い金融機関との契約のほか、クレジット処理ができる仕組みも必要です。
以上を終えたら、スクールの予約システムとレッスンカルテの構築作業に移りますが、特にカルテは必須です。委託型の場合は個々のプロに生徒が紐づくので、特定のプロからレッスンを受け、生徒には日時を含めた選択の自由がありません。一方の直営型は、好きな時間にどのプロからでもレッスンを受けられるため自由度が増し、受講回数や生徒数が伸びます。
ただし、前任プロの指導内容がわからなければ指導の継続性が損なわれます。この問題を避けるためにカルテで指導内容を記録すれば、どのプロから習っても継続性を担保できます。
最近はiPadを使った電子カルテが普及しており、これを導入すればネットでのレッスン予約やチケットの回収も行えます。
指導内容の記入が苦手なプロでも、話せば自動的に文字変換する仕組みがあり、スイング画像も簡単に保存。生徒は自宅でカルテを見て、プロとコメントのやり取りも可。使用料を考えても利用価値は高いのです。
直営スクール開校に際しての料金設定、その他の調整事項は別掲の資料を参照してください。新料金の設定は、従来のスクール料金にボール代を加えて値上げするケースが多いのですが、近隣スクールの料金も事前に調べましょう。
さて、残された最大の課題は生徒への説明です。月会費の自動引き落としに関わる書類手続きやチケットの買い直しなど、一時的に出費と手続きを強いることになります。
説得の際、練習場やプロの事情を説明すると反発を招きかねないため、「生徒のメリット」を強調します。先述したレッスンを受ける「自由度」の向上やカルテの「利便性」だけではなく、
「練習場直営のスクールになるので、受講日の入場料は無料です。打席のボール代やショップでの割引サービスなど、いろんな特典をご用意しています」――。
直営化で値上げする際、電子カルテの導入は最高のエクスキューズになり得ます。
忘れてはならないのがスタッフへの「配慮」です。直営化で作業量が増えてしまい、現行の人員ではオーバーワークになるかもしれませんが、生徒の確保が不透明な段階でフロントの正社員を雇用するのは冒険です。
そこで、開校準備と開校してからの数か月は、多少割高でも派遣社員を活用し、円滑に運び始めてから正社員の獲得に踏み切る方法もあると思います。
この時に気をつけたいのはパートさんへの配慮です。まず、既存のパートさんに正社員にならないかと打診してください。「最初に声を掛けられた」ことで彼女たちのプライドが保たれますが、大半は主婦なので、正社員に名乗りを上げる人は少ないでしょう。
また、パート主体の組織に正社員が一人で入ると、離職する傾向があるため、できれば複数名の同時採用を推奨します。同期入社は互いの絆が強く、耐性が強まり、離職率が下がる傾向にあるのです。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2021年12月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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